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北実side
翌朝。
寮のロビーに行くと、ちょうど自分の部屋(というより小屋)からエイラが出てくるところだった。
昨日見た金色の瞳の影。
気になって仕方がなかった俺は、思い切って尋ねた。
北実「エイラ。その……夜中に、中庭に誰かいたんだけど。」
エイラは軽く首をかしげた。
エイラ「どのような雰囲気の方でしたか?」
北実「えっと……姿は見えなかった。暗かったし、影に潜って消えたというか……金色の目が光った気がしたんだ。」
エイラの目が、一瞬だけ細くなった。
けれど、不思議と驚きではなく
知っているものを思い出すような仕草だった。
エイラ「……あぁ。きっと”彼”ですね。」
北実「彼? 誰なんだ?」
少し期待して身を乗り出したが──
エイラはにっこり笑って話を続けなかった。
エイラ「後々お会いすると思いますよ。ああ、害はありませんのでご安心を。」
北実「え、いや……」
エイラ「それより、皆さんを城へお連れしなければいけません。本日は改めてこの世界について説明する日ですので。」
完全にはぐらかされた。
しかしエイラの態度からして、
あの影の正体はこの国にとっての敵ではないようだ。
不安を抱えたまま、
俺たちは城へ向かうことになった。
昨日と同じ、広い応接の間。
昨日よりも少し落ち着いた面持ちの仲間たちが揃って座る。
エイラ、そして国王が前に立ち、
ゆっくりと説明を始めた。
エイラ「まず、この世界の名は魔法世界(マギアルヘルム)と申します。」
エイラは魔導紙を広げ、
そこに浮かぶ地図を指し示した。
エイラ「皆様がいらした世界──科学世界(テクノヴァース)とは異なり、こちらは科学ではなく魔法が発展した世界です。」
確かに、街中でも魔法灯や魔導具を見た。
エイラ「車や電気の代わりに魔法。医療も農業も、軍事も日常生活も……皆、魔力と魔法が基盤となっています。」
米太「スマホとか絶対ないよな……」
南実「魔法のほうが便利っちゃ便利な気もするけど……」
エイラ「皆様を召喚した理由は、昨日も申し上げた通りです。しかし……実は召喚以外にも行っていることがあります。」
国王が言葉を継ぐ。
レオハルト「マギアルヘルムから、テクノヴァースへ密かに使節団を送り、調査・探索を行っているのだ。」
ざわっと空気が動く。
嗣行「ちょ、ちょっと待て。俺らの世界にこっちの奴らが……?」
宮雷「え、じゃあ見られてたってこと?」
太希「忍者かよ……」
国王は頷く。
レオハルト「テクノヴァースの人々に知られぬよう、魔法によって姿を隠し、技術や文化を調査する。必要に応じて勇者候補を観察するためでもある。」
エイラ「皆様が混乱しないように、重さ・長さ・暦などの基準は、すべてテクノヴァースのものを採用しています。」
エイラが続ける。
エイラ「何百年か前、二つの世界が基準を交換したという伝承が残っておりまして……その後、この世界ではその基準が受け継がれております。」
南実「じゃあ……キロだとかメートルだとか、そういうのも?」
エイラ「はい。測定単位はほぼ同じです。強さの基準についても、後ほど皆様にわかりやすく説明しますね。」
仲間たちからは安堵の声が漏れた。
枢臣「よかった……マジで異世界の単位の勉強とか嫌だった……」
米太「勉強すること増えたら死んでたぜ…」
エイラは微笑んで締めくくった。
エイラ「以上が、この世界、マギアルヘルムの基本情報となります。まだ説明すべきことは多いですが、まずは皆様が落ち着いて、この世界に慣れることが大切です。」
エイラが円卓の前に立ち、杖の先で空中に軽く印を描いた。
薄い光の板がいくつも浮かび上がり、そこに文字やシルエットが映る。
エイラ「次にこの世界にいる生物についてです。この世界マギアルヘルムには、大きく分けて5つの種族が存在します。まずは、その分類からお話ししますね。」
エイラは指を一本立てる。
エイラ「1つ目は──人間。これは、皆さんと同じです。魔法に向いている者、剣に向いている者、学者、職人……さまざまです。」
次に、別の光の板を示す。
エイラ「2つ目は動物。これはテクノヴァースの皆さんの世界にいる動物とほぼ同じですが、こちらでは魔力の影響で、少しだけ賢かったり、見た目や習性が変わっているものもいます。」
魚や鳥、虫のシルエットが流れていく。
エイラ「3つ目は──魔物。魔力を扱える個体もいますが、知能は低く、多くは人間や魔族を襲う存在です。いわゆるモンスターと呼ばれるものたちですね。」
スライムや大きな牙の生えた獣のような影が浮かぶ。
「4つ目は魔族。魔物と違い、知能が高く、人間に近い身体や社会構造を持つ者たちです。昨日説明しましたように、人間と敵対する魔王派と、人間と共存しようとするアラニア派に分かれています。」
ここで一度、エイラは区切ってから続ける。
エイラ「そして魔族の中でも、さらに四つの種族があります。」
光の板に、四つの印が現れた。
エイラ「1つ目は獣魔族。何らかの動物の特徴を体に持つ魔族です。獣耳、尾、鱗、蜘蛛の脚……とても幅広く、魔族の中でもっとも数が多い種です。」
エイラ「2つ目は悪魔族。皆さんの世界で“悪魔召喚”などの話に出てくる存在に近いです。角や翼、尾を持ち、生まれつき高い魔力を持つことが多いですね。」
エイラ「3つ目は霊魔族。これは幽霊とはまた別の、生き物の魂が生まれ変わった種族です。ゾンビやスケルトン、ゴーストなどの姿をとる者たちですが、全員が凶暴というわけではありません。善良な者も多く、街で普通に仕事をしている霊魔族もいます。」
エイラ「そして、4つ目──龍魔族。魔族の中でも数は少なく、ドラゴンのような特徴を持つ魔族です。他の魔族よりも大きなツノや翼、圧倒的な魔力と知性を備え、魔族のエリートとも呼ばれます。アラニア王国の王族や貴族の多くが、この龍魔族です。」
最後に、エイラは少しだけ声を落とした。
エイラ「そして五つ目の分類として──魔神が存在します。これは魔族がさらに進化したような存在で、世界に九人しか存在しません。一人で国を滅ぼせるほどの力を持ち、過去にいくつか国が滅んだこともあります。」
部屋の空気が、わずかに重くなる。
エイラ「今日はそれぞれの種族の方をお呼びしています。人間と動物は皆さんの目で確認済みかと思います。これからお見せするのは魔物と魔族四種です。」
エイラが軽く杖を振ると、応接の間の扉が開いた。
最初に入ってきたのは、腰の高さほどの木箱を押してくる兵士たちだった。
エイラ「魔物といっても、今日は安全な個体だけを連れてきましたのでご安心ください。」
エイラがそう言って箱の蓋を開けると──
透明なゼリー状の塊が、ぷるん、と飛び出した。
南実「うわっ!? なにこれ!」
エイラ「これがノーマルスライムです。ノーマルスライムは魔力を通すと色が変わったり、硬さが変わったりしますす。この子はとてもおとなしい個体ですよ。」
スライムは、ぷるぷると震えながら北実の靴先にぺたりとくっついた。
北実「つ、冷た……」
エイラ「嫌がってはいませんので、大丈夫です。」
エイラが微笑む。
別の箱からは、小さな白いウサギがひょこっと顔を出した。
額には小さな角が一本。
エイラ「こちらはホーンラビット。草食で、普段は森で暮らしていますが、人里にも慣れています。」
ホーンラビットはぴょんと跳ねて、日向の膝の上に乗った。
日向「おとなしいですね…!」
国雲「かわいいアル……」
次に扉から現れたのは、背の高い影だった。
上半身は人間の女性。
だが腰から下は、黒光りする蜘蛛の体と脚が広がっている。
八本の脚を器用に動かして進みながら、
彼女は静かに一礼した。
アテラ「獣魔族のアテラと申します。」
声は落ち着いていて、よく通る。
アテラ「魔物と違って、我々は理性があります。ご安心ください。」
アテラは、さらりと言った。
南実が恐る恐る口を開く。
南実「えっと……その、敵意とかは……?」
アテラ「ありませんよ? 少なくとも私は。この国と取引もしていますし。むしろ、魔王派の獣魔族には迷惑しています。」
そう言って、蜘蛛の脚で器用にカップをつまみ、紅茶を飲む。
その所作は妙に優雅だった。
続いて、赤黒い肌の男が現れた。
鋭い角、こうもりのような翼、細い尾。
絵本やゲームで見たままのザ・悪魔という風貌だ。
デルア「悪魔族のデルアと申します。」
意外なほど低く落ち着いた声で、
きちんと胸に手を当てて礼をする。
デルア「見た目のせいで誤解されがちですが、私はアラニア派ですので、人間と敵対するつもりはありません。」
国雲がじっと顔を見て、小さくつぶやいた。
国雲「見た目100点で悪役アル……でも喋り方は紳士アルな……」
デルアは少し苦笑いした。
デルア「そういう役割を押し付けられることは多いですね、舞台などで。」
南実「舞台にも出てるんだ……」
ガチャ……ガチャ……
骨が鳴る音と共に、スケルトンが入ってきた。
鎧もまとわず、本当に骨だけだ。
だがその骨人間は、非常に丁寧な所作で一礼した。
グレイン「霊魔族のグレインと申します。こう見えて、街で教師などをしております。」
米太「教師……!?」
グレイン「はい。骨だけですが、子どもたちには人気ですよ。」
カラカラと笑う。
米太が思わず手を挙げた。
米太「えっと、怖がられたりしないのか?」
グレイン「最初は怖がられますが……ほんの少し成績を上げてあげると、すぐ慣れてくれますね。」
米太「Realisticだな……」
最後に、重い靴音が近づいてきた。
扉の前に立った影は、
黒い外套をひるがえしながら応接の間に入る。
背は高く、背中には大きな黒い翼。
後頭部から滑らかに伸びる龍のようなツノ。
瞳は金色に暗く光っていた。
レイヴン「……レイヴン・ブラッド。龍魔族。」
名前だけ短く告げると、そのまま適当な椅子に腰を落とす。
エイラが補足する。
エイラ「彼はアラニア派の龍魔族で、昨日、寮に移動する際に皆さんが見かけた方です。昨夜も中庭から皆さんの様子を見ていたようですね。」
レイヴンは肩をすくめた。
レイヴン「興味本位で見に行っただけだ。まあ、思ってたよりは面白そうだったが。」
それ以上、特に喋ろうとはしない。
南実が小声で北実に囁いた。
南実「めちゃくちゃ強そうじゃね……?」
北実「たぶん強いんだろうな……」
レイヴンは視線だけこちらに向け、
何かを測るようにじっと見てから、また興味なさそうに目をそらした。
しばらくの間、北実たちは
スライムをつついたり、ホーンラビットを撫でたり、
アテラに脚の構造を質問したり、
デルアに悪魔召喚の誤解を解いてもらったり、
グレインに骨は痛みを感じるのか聞いてみたりした。
レイヴンだけは、たまに短く答える程度。
日向「魔法、教えてくれたり……しますか?」
日向が恐る恐る尋ねると、
レイヴン「気が向いたらな。」
それだけ言って、つまらなそうに天井を見上げた。
──敵か味方か、まだよくわからない。
ただ一つだけはっきりしているのは、
どの種族も、一括りにはできないということだった。
この世界が、少しずつ立体的になっていくのを
北実は感じていた。
俺たちはエイラに案内されて訓練場に向かう。
広い訓練場の一角に、透明な結晶柱がずらりと並んでいた。
中には光の粒が揺らめいていて、近づくとわずかに魔力の振動が伝わってくる。
エイラ「こちらが、ステータス測定器です。」
エイラが胸元で手を組み、説明を始める。
エイラ「結晶に手を置くと、体の魔力や生命力を読み取り、HP、体力、魔力、物理耐久力、魔法耐久力、俊敏性、幸運性、習得力などを数値化して表示してくれます。平均値はどれも50前後で、数値の上限はありません。」
北実たちは結晶柱を見上げ、緊張半分・興味半分という顔になっていた。
最初に俺が呼ばれた。
北実「じゃあ……行ってみるか。」
手を結晶に触れた瞬間、柱の中の光がぶわっと強く輝いた。
そのまま縦に光の線が走り、次々と数値が浮かび上がる。
エイラが一瞬、目を見開いた。
エイラ「あら……?」
光の板に表示された数字は、
どれも平均50どころか、軒並み80〜100台。
魔力と習得力に至っては、結晶が震えるほど高い。
北実「……これ、壊れてないよな?」
少し引きつった顔で聞くと、
エイラ「問題ありません。とても……とても優秀です。」
エイラは驚きつつも、笑みを浮かべた。
日向が感心した声を上げる。
日向「北実さん、普通にすごいじゃないですか……!」
国雲が腕を組んで言った。
国雲「平均50アルよ? これはバケモノアルね。」
南実が「へぇ〜」と軽く言いながら、肩を叩いた。
南実「北、意外とやるじゃん。」
その南実が次に結晶へ手を置く。
瞬間──
またも結晶柱が眩しく光る。
そして現れた数値は、北実以上の項目すらあった。
エイラ「──え?」
エイラが言葉を失う。
南実「ちょ、これ……なんかすごくね?」
南実が自分の数値を見ながら首をかしげる。
俊敏性や体力は北実より高く、
魔力や習得力も明らかに平均からかけ離れている。
国雲「双子って……なんかずるいアル。」
国雲がぼそっとつぶやく。
日向は真面目な顔で、
日向「伝説の双子の勇者って、こういうことなんですかね……?」
と言った。
南実が焦りながら返す。
南実「いやいや! 言い伝えのやつはもっと……すごいんじゃないの?」
国雲「充分すごいアル!」
次に日向が前へ出る。
やや緊張した様子で手を置くと、光が柔らかく広がった。
現れた数値はすべて平均よりだいぶ高いが、突出はしていない。
ただし魔力・俊敏性・魔法耐久力・習得力は特に高め。
日向「……あぁ、やっぱり。」
日向は妙に納得した顔になる。
エイラ「魔法向きのタイプですね。とてもバランスが良く、防御と魔法が得意……戦闘での生存率が高いタイプです。」
エイラが丁寧に褒める。
国雲が腕を組んでうなずく。
国雲「慎重で頭が良い日向らしいアル。」
日向は照れながら笑った。
日向「攻撃力が高くないのは、ちょっとわかってたんです……。私、殴り合いとかは得意じゃありませんでしたし。」
南実「いやいや、魔法ができるだけ強いよ!」
南実がフォローした。
最後に国雲が結晶へ触れる。
結晶柱は、他の3人とは違う反応を見せた。
光がドンと重く響くように脈打つ。
国雲「おお……これ、強そうアル!」
現れた数値は、体力・物理耐久力・俊敏性が高く、
特に体力は平均50に対して90台。
完全な肉体派だ。
ただし魔力関係は平均以下。
エイラ「これは……典型的な武闘タイプですね。前衛としては申し分ありません。」
エイラが評価する。
南実「でも動きは速いんだね、国雲。」
国雲「当然アル! 俊敏性は誇りアル!」
4人が測定を終えると、周囲の仲間たちが自然と集まってきた。
宮雷「北実くんと南実くん、なんか数字がバグってない?」
枢臣「双子補正強すぎだろ……」
米太「日向はほんと魔法向きだな〜!」
嗣行「国雲は肉弾戦最強じゃん。」
それぞれわいわいと結果を見比べ、
今日初めて少しだけ勇者っぽさが出てきた気がした。
俺は自分の手を握り直す。
北実(……この世界でやっていけるのかな?)
不安もあるけど──
ちゃんと仲間がいる。
南実が俺の心を読んだように言う。
南実「まあ、どうにかなるっしょ。なにせ、伝説の双子だし。」
その言葉に、北実は少しだけ肩の力を抜いた。
北実たちが測定を終える頃には、
他の仲間たちも興味津々でぞろぞろと列に並び始めていた。
「次オレっしょ!」「押すなって!」
「ど、どうしよう……なんか怖い……」
わいわいがやがやとした空気の中、
測定はどんどん進んでいく。
先に測定を終えた俺たちは少し離れたところで、それを眺めながら言った。
北実「なんか……みんな楽しそうだな。」
南実も頷く。
南実「ゲームのステ振り見てる感じだよね。まさか本当に自分のステータス見る日が来るとは思わなかったけど。」
国雲は腕を組んでドヤ顔だ。
国雲「体力だけなら誰にも負けないアル。前衛は任せるアルよ!」
俺たちがそんな風に話していると、
エイラが微笑みながら近づいてくる。
エイラ「皆さん、本当に素晴らしい結果でした。今日の測定を見る限り、勇者としての素質は、十分すぎるほどです。」
俺はその言葉に胸が熱くなるのを感じた。
北実(……やれるかもしれない。)
怖さもある。でも、仲間もいる。
その暖かさが、一歩踏み出す勇気をくれた。
能力測定が終わって寮へ戻る……予定だったが、
エイラが微笑みながら提案した。
エイラ「せっかくここは王都なのですから、まずは街を楽しんでみてはいかがでしょう?城下町は安全ですし、みなさんきっと気分転換にもなりますよ。」
その一言で、空気が一気に華やぐ。
国雲「行くアル! 絶対行くアル!」
国雲が食い気味に手を挙げ、
北実「まぁ……せっかくだし。」
俺もとりあえず賛同する。
南実「……僕は歩きながら寝そう……」
南実はすでに眠気と戦っている。
そんな感じで、結局全員が街へ行くことになった。
30人近い大所帯だが、思いのほか秩序は保たれている。
ときどき誰かが露店に吸い寄せられていき、周りが慌てて回収するくらいで。
石畳の道は陽を反射し、色とりどりの屋根が並ぶ。
異世界らしい丸い塔や、吊り看板が揺れる商店街。
香辛料の匂い、焼き菓子の匂い、魔道具店の不思議な光。
北実「なんか……全部異世界って感じだな」
俺が呟くと、
国雲「あれ見るアル! 芋飴アルよ!」
国雲が露店に突撃し、
日向「国雲さん、勝手に行かないでください!」
日向が慌てて追う。
いつものドタバタを繰り返しつつ、全員で街の大通りまでたどり着いた。
北実「おい、あれ……」
俺の目に、今までより静かな一角が映る。
大通りから少し外れた、路地沿い。
そこに、
白と水色を基調にした、絵本のような小さな建物がひっそりと立っていた。
看板には、丸文字で
《不思議の国のアリス》
と書かれている。
扉は半円状の木製で、
横にはチェシャ猫らしき置物が、ニヤリと歯を見せている。
北実「……可愛い店だな。」
国雲「こぢんまりしてるアルが、絶対うまいものあるアル!」
国雲はすでに食べる気満々。
日向「不思議の国のアリス……懐かしいですね。この世界にもあの童話があるんですかね?」
日向が目を丸くする。
南実「眠いけど……入ってから考える……」
南実はふらふらしながら店の前へ。
どこか懐かしくて、でも異世界独特の雰囲気もある、不思議な喫茶店。
北実「……入ってみるか。」
カラン……。
俺が「不思議の国のアリス」の扉を開けた、その瞬間──
?「ぜんかぁぁぁぁぁい!! ロケット、発射ーっ!!」
店の奥から、元気のいい叫び声。
見えたのは、
ロケット花火のような魔導具に跨って暴走する、
小学一年生くらいの超ボーイッシュ少女。
短い髪が逆立つくらいの速度で、店内を一直線に突っ切り──
北実「──はっ⁈無理無理無理無理!!」
俺めがけて突っ込んでくる。
逃げる暇も、扉を閉め直す暇もない。
──その瞬間。
ふわっ……。
北実の横から伸びる柔らかい魔力の気配。
淡い黄色の障壁が、
ポンッと膨らむように前へ展開された。
同時に。
?「うわああああ!! とまらないぃぃぃ!!」
バフッ!
小1ロケット娘は、障壁に鼻をぺちゃんと押しつけたまま停止した。
北実(……今の魔法、俺じゃないよな?)
??「こーーーらああああああっ!!」
怒鳴り声が響き渡る。
店の奥から走ってきたのは、
金髪を高めの一本結びにして、丸メガネをかけた
小学六年生くらいの少女。
怒り顔がめちゃくちゃ似合う。
??「アンタまた暴走!? ロケットで店員も客も吹っ飛ばす気なの!?初対面の人に突っ込むとか馬鹿なの!?」
?「ち、ちがうもん! 花火が悪い! 花火が勝手にこう……!」
??「嘘つくなぁぁ!!」
ビシッと頭を小突かれ、ロケット少女は沈むようにしゃがみ込む。
そして、北実の横にはもう一人。
金髪を低い位置でふたつ結びにした、ふわふわあ雰囲気の少女が手を胸に当てて、小さくお辞儀した。
???「ごめんなさい、危ないと思ったから……とっさに、魔法使っちゃって…」
声はゆるくて柔らかさがある。
北実「いや、助かったよ。ありがとう。」
少女は微笑んだ。
???「よかったぁ……」
国雲「この国の子供、なんでこんな俊敏アル!?」
日向「まず北実さんが無傷なのが奇跡ですね……」
そこまでが一段落したところで──
足音が二つ、店内から近づいてきた。
現れたのは、男の子が2人。
片方は落ち着いた雰囲気で、
もう片方は明らかに面白いものを見た顔でニヤニヤしている。
????「……はあ。またやったのか。」
?????「大惨事じゃん!今日の記録、たぶん最高速度じゃね?」
2人とも、
ロケット少女の暴走にまったく動じる気配がない。
怒りの少女が、腰に手を当てて振り返る。
??「アンタ達も笑ってないで手伝いなさいよ!!外にまで響いてたわよ!? ほんともう!!」
男の子たちは顔を見合わせ、
「……だってさ。」「まぁ手伝うか!」
と、のんびりした調子で頷いた。
店の前は、ロケット事故と子どもたちの声で大混乱。
そして北実は気づく。
この店──
どうやら普通じゃないようだ。
???「あの、えっと…」
と、胸の前で指をそわそわさせながら小さくお辞儀する。
ラン「私はラン・アリシアです。さっきの防御魔法、ごめんなさい勝手に…」
北実「謝ることじゃないよ、助かったし。」
ラン「よかったぁ……」
彼女が微笑んだ瞬間、後ろから鋭い声。
??「ラン、謝る前にまずこの子に謝らせないとでしょ!」
金髪の一本結びを揺らしながら、
メガネをくいっと押し上げて近づいてきた少女。
リン「うちはリン・アリシア。ランと双子なんだけど、性格は全然違うわ。」
北実「……なんとなくわかる。」
リン「でしょ!」
謎に胸を張って、メガネがキラリと光った。
????「……姉さん、そのくらいでいいだろ。」
と、静かな声。
ロケット騒動のあとに店の奥から来た男の子の一人が前に出る。
整えられた金髪に四角フレームのメガネ、姿勢もいい。
小学五年生くらいで、落ち着きがありすぎる少年。
ルン「僕はルン・アリシア。皆さん、驚かせてしまってすみません。妹が騒がしくて……」
リン「ロンは騒がしいんじゃなくて危険物だからね。」
ルンはロンと呼ばれたロケット少女を見てため息を吐きながら呟く。
ルン「……否定はしない。」
国雲「おぉ……まともな子がいたアル。」
?????「いや〜、でもさ、今日のロンのロケット、マジで良かったよな!」
と、横から無駄に元気な声が飛んできた。
もう一人の男の子──
短めの金髪に、動きやすい服、日焼けした肌、明らかにサッカー少年っぽい雰囲気の小学四年生くらいの男の子。
レン「俺はレン・アリシア! 見てた? あのスピード! 今日のは歴代トップ5入るって!」
日向「褒めるところそこなんですか……?」
レンは満面の笑みで、
レン「だってさ、あの加速角度と軌道で当たってたら──」
リン「だからそれを褒めるなって言ってるの!!」
レン「痛っ!? なんで小突くの!」
そして、みんなの視線が自然と彼女に向く。
金髪は短く耳ギリギリ。
服装も動きやすさ重視のボーイッシュスタイル。
さっきまでロケットに乗っていた張本人──
ロン・アリシア。
ロン「ロンだよ!ロンはロンって呼ぶの。わかりやすいでしょ?」
堂々と胸を張るあたり、反省しているのか怪しい。
リンが怒りの眉で詰め寄る。
リン「ロン! 初対面の人に突っ込むなんて──」
ロン「ロンは悪くないもん。ロケットが勝手にさぁ!!ロンはね、ただ飛んでみよっかな〜って──」
リン「それを暴走って言うの!!」
ふたりが言い合っている間に、
ルンは静かに北実へ説明を添える。
ルン「……すみません。末っ子で、好奇心が強すぎてよく事故ります。」
北実「いや……まぁ、元気だなとは思った。」
レン「元気すぎて飛んでったけどね!」
リン「レンは黙って!」
そして5人は、整列したように並び、一斉にぺこりと頭を下げた。
5人「アリシア家の子どもです! よろしくお願いします!」
俺たちは圧倒されながらも、思わず笑ってしまった。
ラン「はい、 こっちにどうぞ〜」
ランがぱっと明るく声を上げ、ふわりと笑って手を振る。
その喋り方ははっきりしているのに、どこか全体の雰囲気がほわほわしていた。
ランの瞳は淡い水色……というより、
水色に白をひとしずく垂らしたようなミルキーな色だ。
その隣でリンがきびきび動き、
メガネを押し上げながら冷静に言った。
リン「席まで案内します。危険物については私が監視しておくのでご安心を。」
ロン「危険物じゃないってば!! ロンはロンだもん!!」
リン「そのロンが危険物なのよ。」
ロン「ひどいっ!!」
リンの瞳はランと似た色だが、
水色に少しだけ紫が混じっていて、
冷静な印象をより強くしていた。
そんな姉妹を横目に、
アリシア家の子供がそれぞれ動き出す。
こぢんまりしているが、不思議と落ち着く店内。
壁は淡いクリーム色。
きらきら光る吊りランプがゆっくり回転していて、
まるで童話の世界の一部に迷い込んだようだ。
北実たちは奥の少し広めのテーブルへ案内される。
ルンが静かに水を置きながら説明をする。
ルン「えっと……料理は、ランと僕が担当です。リンは掃除とか配膳とか、店内のほとんどをやってます。」
ランが照れながら付け加える。
ラン「リンはね、料理するとなぜか炭になっちゃうんです。」
リン「……努力はしているのよ? でも何故か黒い何かしかできないの。」
北実(それはもう才能の方向が違う気がする……)
ルンは続けて言う。
ルン「で、配達は……レンとロン。」
ロン「ロンはすっごく仕事してるよ! ちゃんと飛んで、届けて、配って!」
レン「ロンがサボって遊んでるの、俺知ってるぜ?」
ロン「ぐっ……!」
リン「ちょくちょくサボるのは両方でしょ?」
レン「うっ…否定できない!!」
そんな明るいやり取りに、
俺たちも自然と肩の力が抜けていった。
席に座ると、奥のテーブルに二人の客がいるのに気づく。
1人は綺麗な銀髪の女性で、優しい雰囲気をまとっている。
銀の髪が光を吸って揺れるように波打ち、
全体的にふわっとした、不思議な安らぎを放っている。
青白い瞳でこちらを見て、にこりと微笑んだ。
もう1人は淡い黄色の髪の女性で、ローブを身につけていていかにも魔法使いという雰囲気だ。
杖を椅子に立てかけ、静かに本を読みながら紅茶を飲んでいる。
俺たちを見ると、軽く会釈を返してきた。
国雲「なんか強そうアル……」
日向「店の雰囲気に馴染みすぎて逆に怖いんですけど……」
レン「常連さんだよ! めっちゃいい人!」
リン「……ロンがロケット暴走させたときも笑って許してくれた神様みたいな人よ。」
ロン「えへへ……」
北実(こいつは何回暴走してるんだよ……)
ランがメニューを配ってくれたあと、
北実は気になっていた二人の客へちらりと視線を向けた。
どちらもただ者じゃない空気をまとっている。
そこで、北実はそっとランに尋ねた。
北実「ねえ、あの二人……常連さんなんだよな? どんな人なんだ?」
ランはぱっと笑顔になり、嬉しそうに説明を始める。
「えっとね、銀髪の方はフルーネ・ネイチャーさん。すっごく腕のいい魔法使いなんだよ!でも今はお仕事してないみたいで、よくここに来るの。」
レン「めちゃくちゃ優しい人だよ。リンの炭料理も笑って食べてくれたし!」
リン「……あの時は本当に申し訳なかったわ……」
本当に謎の多い人だ。
次にリンが淡い黄色の髪の女性をちらりと見た。
リン「あちらの女性は カリナ・マーキュリーさん。ルグネア王国の騎士団に所属している実力者よ。本気を出せば団長クラスみたいだけれど、面倒だから団長はやりたくないって言ってるらしいわ。」
日向「面倒って理由で団長断れるんですか……?」
国雲「逆に尊敬できるアル……」
リンは眼鏡を少し上げた。
リン「彼女の役職は魔占師(ませんし)っていうの。魔法と占術を扱う特殊な役職よ。魔法使いであり、占い師でもあり、前線にも出る……そんな人たち。カリナさんはその中で特に評価されているみたい。」
レンがひょこっと顔を出す。
レン「でも本人はぜーんぜん偉そうじゃないよ!むしろ優しいよ! ロンが店内で魔法暴発させても怒らなかったもん!」
リン「怒らないのは優しいからじゃなくてめんどくさいからだと思うわ。」
ロン「そんなぁ!!」
北実たちは思わず笑ってしまった。
不思議な国のアリスの店は小さくて可愛いのに、
来る客はどうにも規格外ばかりらしい。
その時、厨房に行っていたランがぱたぱたと小さなトレイを抱えて戻ってきた。
ラン「はいっ、これはサービスです! いつも来てくれる人には出してる、ちっちゃなお菓子セットですよ~!」
トレイに並んでいたのは、
親指ほどの大きさの小さなタルトやクッキー、
そして宝石のように色鮮やかな小さな木の実を使った可愛らしい菓子たち。
赤、青、黄色、薄い桃色……
まるで一口だけの果物の宝石みたいにきらきらしていた。
北実(すげぇ……見てるだけで可愛い……)
ランは微笑む。
ラン「この木の実ね、この国ではよくお菓子に使うんです。酸っぱくて甘くて、紅茶に合うんだよ~!」
その瞬間。
テーブルの端で、
西仏 愛蘭(さいふつ あらん)の目が、きゅぴーんと輝いた。
愛蘭「…………っ!」
北実「えっ、愛蘭?」
愛蘭は身を乗り出すように菓子を見つめ、
まるで宝物を発見したかのような輝きをまとっていた。
愛蘭「ぼくこの木の実、初めて見る……。粒の水分量も、色の乗り方も……日本にはない果物……!」
ルンが驚いて目を丸くした。
愛蘭「ぼく、もともとパティシエをしてたんだ。だからこういう素材にはすごく敏感で……このタルトの焼き色、温度は多分180度より少し低め……この果物の酸味とバターの調整、職人技だよ……!」
リンは自慢げに胸を張った。
リン「当然よ。ランとルンの料理とお菓子はお客さんに結構評判なんだから!」
ラン「あ、あはは……そんな、照れちゃうな……」
ロン「ロンも味見係してるよ!」
リン「つまみ食い担当の間違いでしょ?」
ロン「そんなぁ!!」
愛蘭は感嘆しながら菓子を一つ手に取る。
その顔は完全にプロの目だった。
北実(愛蘭……すげぇ真剣だ……)
ランがそっと置いた小皿には、
小さな果実を使った、ひとくちサイズのお菓子が並んでいた。
まず愛蘭がつまんで、ぱくり。
その瞬間──
ぱぁぁっと瞳が輝く。
愛蘭「……っ! かわいい見た目なのに、味のまとまりがすごい……!果実の香りの出し方が絶妙……!」
リンは腰に手を当てて、満足げに鼻を鳴らす。
リン「ま、当然よね。うちの店の料理は全部レベル高いんだから!」
ランは少し恥ずかしそうに微笑む。
ラン「えへへ……喜んでもらえるとうれしいです……!」
南実も嬉しそうに「かわいい……」と呟き、
日向は「こういう量、助かる……」と静かに微笑む。
俺も一粒食べて、思わず目を丸くした。
北実「……お、これは……クセになるやつだ。」
国雲「なんか元気出るアルね、この実。」
ルンは照れながら肩をすくめる。
ルン「ランが味の調整上手いんだよ。僕は下ごしらえだけ。」
レンは胸を張ってくる。
レン「俺、これ二十個は食える!」
ロン「ロンも! これ好き!」
店の中が一気に明るく、賑やかな空気に包まれた。
奥の席ではフルーネとカリナが、微笑ましそうにこちらを見ている。
しばらく菓子をつまみながら会話を楽しんでいると──
チリン……
店のドアベルが、やさしく揺れた。
振り返ると、
翡翠色の髪を揺らしながら、
エイラが少し息を弾ませて立っていた。
エイラ「みなさん……こちらにいらしたんですね。探してしまいました……」
北実「エイラ? どうしたんだ?」
エイラは胸の前で両手を揃え、丁寧に頭を下げる。
エイラ「その……急なお呼び立てで申し訳ないのですが……訓練と、いくつかの新しいご説明があるんです。ルグネア国王からもなるべく早くと。」
南実「訓練……?」
エイラ「はい。危険ではありませんが、みなさんの力を伸ばすための準備段階です。それと……魔法世界の仕組みの追加説明も。」
日向は軽く姿勢を正し、
国雲は「ほー」と興味深そうに目を細める。
愛蘭「やっぱり、この世界のことまだ知らないもんね……」
エイラは少し安心したように微笑む。
エイラ「みなさんが迷っていないか心配でしたが……無事そうで良かったです。では、お時間よろしければご案内いたします。」
北実「もちろん。行こう。」
ランとリン、そして子供たちも手を振る。
ラン「また来てください!」
リン「今度はもっとたくさん食べていってくださいね!」
ルン「ありがとうございました。」
レン「またな!」
ロン「ばいばーい!!」
エイラは柔らかな笑みで子供たちに頭を下げ、
みんなと一緒に店の外へ出る。
国雲「追加の説明って何アル?」
エイラ「皆さんの世界にはない、魔力についてなどです。昨日は緊急でしたので、説明が足りず……」
北実「聞いといた方がよさそうだな。」
エイラはこくりと頷く。
愛蘭「楽しみだね。新しい技術ってワクワクする。」
エイラ「きっと、皆さんのお役に立つと思います。」
少し歩くと、
城門の尖塔が見えてきた。
城壁の上には見張りの騎士たちが立ち、
夕暮れの風に旗が揺れている。
エイラは門番に軽く会釈し、
すぐに通れるよう取り計らう。
城内に足を踏み入れると、
大理石の床に足音が吸い込まれていく。
──これから、さらに深いこの世界の核心へ。
俺たちはエイラの後ろについて城の奥へ進んでいった。
重い扉が閉まり、応接室に落ち着いた静けさが戻る。
エイラは、北実たちの前に立ち、
両手を胸の前でそっと組み、優しく微笑んだ。
エイラ「それでは……追加のご説明をいたしますね。これから訓練を行うにあたり、まず身体の適正化が必要になります。」
南実が首をかしげる。
南実「身体の適正化?」
エイラ「はい。こちらの世界で魔法を扱うためには、魔力が無理なく流れる“器”が必要なんです。特にその…”大人の皆さま”には負荷が大きいので──」
エイラが大人組へと視線を向ける。
陸斗、海斗、空斗、廉蘇、米太、叶英、愛蘭、零王、那知、清雨
──十名の大人たちがそろって首を傾げた。
「…?」「俺たちが?」「ボクもか?」
確かにあの10人は全員四十代を超えている。
エイラは深く頷いた。
エイラ「ですのでこれより、皆さまの身体を二十代前半~半ばの状態に調整いたします。」
応接室が一瞬しんとなり、
全員「え?」
エイラはそっと指を振り下ろす。
エイラ「リターネス。」
ふわり、と黄金色の魔法陣が
大人組の足元に広がった。
空気が震え、
かすかな光粒が舞い上がる。
次の瞬間、軽い衝撃とともに、彼らの身体から光が弾けた。
光が収まると、そこには……
明らかに先ほどより若返った
二十代くらいの大人組が立っていた。
陸斗の表情は相変わらず厳格だが、
輪郭が鋭く、学生時代を思わせる雰囲気。
陸斗「……ほう。身体が驚くほど軽い。私が若返った、ということか。」
海斗は姿勢が良くなり、切れ味のある真面目な眼差し。
海斗「おぉ……ほんとに若返った……? 力が戻ってる。」
空斗は少年のような軽い動きで腕を回す。
空斗「すっご! 体力満タンなんだけど!?」
廉蘇は酒瓶を持ちながらも、以前より精悍な顔立ちに。
廉蘇「……ちっ。右目の違和感まで戻りやがった…」
米太は元々自慢としていた筋肉の輪郭がさらに整ったように見える。
米太「Wait wait wait!え、俺ガチで若返ってんじゃん!?……うぉ、心臓ドキドキすんだけど!」
叶英は若返ったことでさらに紳士らしい雰囲気が増す。
叶英「……ふむ。悪くない。私の魅力がまた一段と輝いてしまいましたね。」
愛蘭のやや鋭さのある瞳はそのまま、若い頃の雰囲気に。
愛蘭「叶英まで若返っちゃったか……。ま、ぼくは訓練できるならいいけどね。」
零王は柔らかい顔がより若々しくなり、満面の笑み。
零王「ボク、利亜と琉聖と全力で遊べるようになったんね!!」
那知は自分の髪を触り、鏡もないのに流し目になる。ナルシストは昔からのようだ。
那知「……ああ、これは。やはり私は若いころから完璧だな。」
清雨は腕を軽く回しながら、口元をつり上げる。
清雨「身体のキレが戻ったアルね。戦える気がするアル。」
北実「すげぇ……ほんとに若返ってる!」
南実「魔法ってこんなことまで出来るのか……」
日向「父さん……昔に戻ってる!」
琉聖「父さん、めっちゃ若くなってる……!」
国雲「……戦力が増えた感じ、すごいアル……」
廉蘇と米太はさっそく火花を散らし始める。
米太「俺のほうが仕上がってんじゃね? This is power!」
廉蘇「うるせぇゴリラ。やるか?」
愛蘭「……仲良くしなよ二人とも。」
エイラはにこっと微笑んだ。
エイラ「これで皆さん、マギアルヘルムで無理なく戦える身体になりました。記憶や人格はそのままなのでご安心ください。」
空斗「えっ、えっ、めちゃ身体軽い!走りたい!! 日向、ちょっと競走しよ!」
日向「いきなり!?」
南実「空斗さん、テンション高っ……!」
北実「ていうか若返りすぎじゃないか……」
空斗「いやぁ~いいね若返り!世界ってステキだね!!」
海斗「空斗、はしゃぎすぎだ。落ち着け。」
と真面目な兄が注意するが、
空斗「若返ったんだよ!? 落ち着けるわけないって!」
日向「おじ……じゃなくて、空斗さん若い!」
空斗「あ、今叔父さんって言いかけたよね? ね?」
日向「ぎくっ……そ、そういえば、父さんも前より若くなりましたよね。」
陸斗は腕を組んだまま、淡々と答える。
陸斗「確かに。身体が軽い。視界もクリアだ。これなら当面の戦闘も問題なくこなせるだろう。」
北実「陸斗さん、なんか軍人っぽさ増してね?」
南実「ちょっと怖いくらい整ってるな……」
日向「父さん、ちょっとイケメンすぎる……」
陸斗「……褒め言葉として受け取っておこう。」
空斗「兄さん、かっこつけてる~~!」
陸斗「黙れ空斗。」
米太は自分の腕を見てうっとりする。
米太「見ろこの筋肉! 若返ってムキムキ感がPower upしてんじゃん!」
廉蘇が鼻で笑う。
廉蘇「はっ。何がムキムキだ。その程度で調子に乗るとかガキかよ。筋肉語りがうるせぇんだよ、キン肉英語(イングリッシュ)」
米太「はぁ!? 今バカにしただろ!?」
廉蘇「事実を述べただけだろ。」
米太「お前こそ酒瓶持って若返んなよ! なんか腹立つんだけど!」
廉蘇「酒は俺の心臓だ。」
国雲「……心臓のほうが大事アルよね?」
清雨「国雲、それ以上言うと我達にまで被害がくるアルよ。」
国雲「爸爸もほんとに若返ってるアルね……」
清雨は長い髪を払って、
若返った自分の輪郭に満足げだ。
清雨「当然アルよ。」
清雨が米太を見下すように指をさす。
清雨「それより米太、お前は若返ってもいちいちうるさいアル。」
米太「お、お前こそ語尾うるさいだろ!? アルって何だよアルって!!」
清雨「文化アルよ。」
米太「反論できねえ!!」
北実「文化には勝てないんだ……」
愛蘭「叶英、君さ……若返っても紳士ぶってるの……?」
叶英は胸元を直しながら微笑む。
叶英「当然でしょう? 紳士とは年齢によって変わるものではありませんよ。生まれながらにして品格があるのです。」
愛蘭「はぁ!? ぼくが年中スイーツに追われてた横で、よく言うよ!」
叶英「努力しても越えられない壁があるものですよ、愛蘭。」
愛蘭「……ムッカァァ!!」
北実「愛蘭さん怒った……!」
琉聖「父さん……ほんとに若い……!」
利亜「雰囲気も変わってるんね……」
零王はキラキラ笑顔で両手を広げる。
零王「利亜~琉聖~!二人ともボクのこと、もっと褒めていいんね!」
利亜「ええと、若いんね!」
零王「もっと!」
琉聖「元気だね!」
零王「もっと!!」
北実「零王さんの親バカって、次元超えてる気がする。」
南実「……でも憎めないなぁ。」
那知「太希、若返ってた父に何か言うことがあるんじゃないのか?」
太希「…なんか俺に似ててウザい。」
北実「…那知さんはやっぱり嫌われてるんだな。」
南実「だね…」
にぎやかすぎる大人組と子供たちのやり取りを
しばらく微笑ましく見守ったあと、
エイラは両手を胸の前でそっと合わせた。
エイラ「皆さま、楽しそうで何よりです。ですが、そろそろ続きをご説明しますね。」
エイラ「では……このまま、訓練場へ向かいましょう。」
訓練場に着くと、エイラは皆の前に立ち、柔らかく微笑んだ。
エイラ「それでは……まずは、この世界で生きるうえで最も大切な力──魔力についてお話ししますね。」
エイラ「魔力とは、この世界に生きる者の体の中……そして空気中にも流れている特別な力のことです。」
エイラは掌を軽く上げると、そこに淡い光が集まり始めた。
白と金色が混じる光だ。
エイラ「魔法は、この体内の魔力と空気中の魔力を使って発動されます。ですが、魔力は魔法の燃料であるだけではなく──」
エイラはそっと胸元に手を当てる。
エイラ「生きるためのエネルギーそのもの でもあります。」
日向が一瞬目を丸くした。
日向「え……じゃあ、残り魔力量がゼロになったら?」
エイラ「はい。死んでしまいます。」
エイラ「……では、魔力についてもう少し詳しくお話ししますね。」
彼女は地面に簡単な図を描きながら説明する。
エイラ「まず、人の最大魔力量は基本的には一定です。」
南実が手を上げる。
南実「じゃあ、使えば使うほど増えるってわけじゃないんだ?」
エイラは柔らかく微笑んで首を振る。
エイラ「はい。最大量そのものは増えません。ですが、魔力には繰り越しという性質があるのです。」
彼女は地面に指で100という数字を書いた。
エイラ「たとえば、とある人の最大魔力量が100だったとします。その人が魔力を80使った場合──」
今度は20を書き足す。
エイラ「その人が次の日に使える魔力は、その日の分の100に、前日の残り20を加えた120になります。」
南実「え、銀行みたい!」
国雲「繰り越し魔力……なるほどアルね。」
愛蘭「じゃあ、毎日使い切らなかったらどんどん増えるの?」
エイラ「はい。ですが……」
表情が少しだけ真剣になる。
エイラ「上限以上に溜め込むと、魔力の圧力に身体が耐えきれず死んでしまいます。ですので魔力管理はとても大切なんです。」
日向が納得したように頷く。
日向「つまり……使える量は増えていくけど、体が安全に許容できる最大量は変わらないってことですね。」
エイラ「はい、その通りです。ですので、溜めすぎないように適度に魔力を使うことが大切なんですよ。」
エイラは両手に違う色の光を灯す。
右手には白い光、左手には黒い光。
エイラ「次に魔力の種類です。魔力には、主に白魔力と黒魔力の二種類があります。」
白い光がふわっと揺れ、黒い光は静かに揺らめいた。
エイラ「人間や動物……みなさんのような存在には、白魔力が多く流れています。一方、魔物や魔族には黒魔力が多く流れています。」
清雨「我達は白いほうアルね?」
エイラ「その通りです。人間は黒魔力が多い者ほど、毒魔法や霊魔法、超魔法などに適性があります。ちなみに、血の色が人間と魔族で違うのは、この魔力の種類が関係しています。」
エイラの説明が終わると、訓練場の空気が少しだけ張り詰めた。
エイラ「ではみなさん、実際に魔力を動かす感覚を掴んでみましょう。」
エイラは両手を胸の前にすっと重ね、ゆっくりと目を閉じる。
エイラ「まずは深呼吸をして、体の中心、胸の奥に流れる魔力を感じてください。無理に力を入れず……ゆっくりと。」
北実も真似をしてみる。
胸の奥に、微かに温かい何かが渦を巻いているような、そんな感覚が確かにあった。
北実(これが……魔力?)
エイラ「感じ取れたら、その魔力を手のひらに送るイメージです。」
エイラが手を開くと、そこに淡い緑色の光がぱっと明るく灯った。
エイラ「ここまで強く光らせなくて大丈夫ですよ。最初は温かさを手に集めるくらいの気持ちで。」
それぞれが集中し始める。
南実「……んん~っ……なんかくすぐったい!」
国雲「うぅ…なかなか難しいアル…」
日向はわりとすぐ光を出し、
日向「……わ、出た! すご……」
と小声で感動していた。
米太はというと。
米太「おっしゃぁぁぁぁ!! 俺の魔力、Come on!! ……Oh? 全然……!?!?」
と一人で騒ぎ、廉蘇の冷たい視線を浴びていた。
エイラは一人ひとりの様子を見て微笑む。
エイラ「皆さん、初めてにしてはとても上手ですよ。今日は魔力を無理なく動かせることを覚えていただければ十分です。」
しばらく練習したあと、彼女が手を叩いた。
エイラ「では、今日の訓練はここまでです。使いすぎると疲れてしまいますから、寮に戻りましょう。」
訓練場からの帰り道。
空に日が沈みかけ、石畳の道がオレンジ色に染まっている。
南実「つ、疲れた……なんか体の中があっつい……」
北実「でも、なんか不思議だよな。魔力ってあるんだって実感した。」
国雲「まだ慣れないアルが……まあ、悪くない感覚アルね。」
日向は静かに頷いていた。
日向「……明日には、もっといろいろできるようになってるんですかね?」
米太は胸を張って言う。
米太「次は絶ッ対に光らせるからな!! ファイヤァァ!!」
愛蘭「火じゃなくて魔力でしょ……」
廉蘇「……はぁ……」
エイラはその列の少し後ろから、微笑みを浮かべてついてきている。
エイラ「皆さん、本当にお疲れさまです。明日からは少しずつ魔法の基礎にも入っていきますので……今夜はよく休んでくださいね。」
その言葉に、全員が頷いた。
そして夕暮れの風を受けながら、
俺たちはゆっくりと寮へと戻っていった。
訓練から戻った寮は、まるで修学旅行の宿みたいに賑やかだった。
自然と共用リビングに人が集まり始める。
広いわけじゃないけど、暖炉があって居心地のいい空間だ。
米太「やっべぇ! ここ、ゲームねぇのか!!!」
米太が叫んだ。
清雨「あるわけないアルよ。」
清雨は当然のように腕を組む。
米太「オーマイガァァァ!! 訓練よりキツい!!」
愛蘭「米太、声大きい……ぼく耳痛いんだけど……」
空斗「おーい! 北実くん! 南実くん!」
空斗が明るい笑顔で手を振ってくる。
空斗「ここの魔法のランプ、すごいよ!息吹きかけると色変わるよ。 ほら!」
ふーーーっ
ランプが青く光る。
海斗「遊ぶな。壊れたらどうするんだ。」
空斗「えぇ~兄さん堅いって!」
そこへ廉蘇がウォッカ瓶を片手に登場。
廉蘇「よぉ。魔力訓練、どうだったよ。」
その姿に日向が遠い目をした。
日向「昼間も思いましたけど、本当に若返ってるんですね……」
陸斗は真面目に頷く。
陸斗「まだ不思議な感覚だが、筋肉の動きは若い頃よりいい気がするな。」
零王は頬をほころばせながら利亜の頭をぽんぽん撫でている。
零王「利亜〜、今日もかわいいんね~!」
利亜「パパ、恥ずかしいんね……」
那知も近寄ってきて、鏡を見ながら髪を整えていた。
那知「しかし……若返った私、やはりイケメンだな。」
廉蘇「ほー、お前がイケメンなら、オークがモデルになれるな。」
那知「あ? 誰がオークだアル中野郎。」
愛蘭と叶英が同時にため息をつく。
叶英「はぁ、品のない男たちだ……紳士としては見ていて悲しくなるのですよ。」
愛蘭「えらそうにして……。腹黒エセ紳士のクセに。」
2人が睨み合う。
リビングが賑わっている中。
紅葉が何やら床を見つめていた。
紅葉「……あれ? 嗣行兄さん、あそこ何か動いてない?」
紅葉が指差した方向を見ると、
床の隅でちいさなスライムがぷるぷるしていた。
南実「なんでスライムいんの!!?」
廉蘇「おいスライム、そこ動くな。踏むぞ。」
スライム「ぷるるっ!」
宮雷「ダメだよ父さん⁈」
米太「スライムだぁーー!! 捕獲ー!!」
加奈登「ちょ、兄さん⁈」
米太が勢いよく飛びついた。
スライムはぷるんっ、と弾いて逃げる。
米太はそのまま床に激突した。
米太「あ゛あ゛ッ!!? スライム強!!」
清雨「お前が弱いだけアルね。」
空斗が笑いながらスライムを素早く捕まえ、
そっと手の上にのせた。
空斗「よしよし、驚かせてごめんね。」
スライム「ぷるん……」
北実「空斗さん、普通に扱えるんだ……」
海斗「昔から動物は懐くんだよ、こいつには。」
南実はそのスライムをのぞいて
南実「ぷにぷに……触りたい……」
と手を伸ばし、
スライム「ぷるるっ!」
南実「拒否された!?」
リビング中が笑いに包まれた。
そんな騒ぎの中、早めに部屋に戻る者、
まだ喋り足りなくて残る者、
スライムを眺める者など、雰囲気はとても賑やかだった。
俺はその光景を見ながら思う。
北実(……異世界に来たのに、この感じ……すげー安心するな。)
そして夜はゆっくり更けていった。
to be continue