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執筆お疲れ様です😢 心情が儚すぎて、今うるっと来ています… 彼女が最後に残した言葉が何処を切り取っても素敵で、集中して読んでしまいました…😭✨
柔らかい笑みを讃え、赤く濡れた伊藤空は話す。
「私実は人魚でねぇ…。人に憧れてて…さ。ある呪いと引き換えに今こうして人になれているの。」
呆然とする私の手から優しくナイフを取り返す。
「このナイフはね…。人を殺めることで私が確実に人間になることができるもの。もしね、やらなかったら私は泡になって消えてしまうの。」
にこにこと純粋な可愛らしい笑顔で過去の記憶を見つめる。
「私は最初、人間になる気まんまんでさ、人を殺めるだなんてなんの取引にもなってないよね…って思ってた。でもこの世界に慣れるとさ、中々そんなの出来るもんじゃないなぁって。」
両の手を頬に当て美味しそうに口を紡ぐ。
「友達が出来るって本当に楽しいよね…!それにこの世界ではこれを青春だなんて呼び名があるんだって?…青い春!私の好きな青…!本当に楽しい。どこに行っても楽しい…。」
くらくらとした体力の中、魔法にでもかかったかのように、私は自分の頭の中にある記憶に言葉を付けていく。
「人がさ、自分を責めるんじゃなくて相手を責めたらどうする。自分を傷つけるんじゃなくて、相手を傷つけたらどうする。やってることは同じなのに、その人に対する評価が大きく変わるだろう。前者なら同情を買い、後者なら批判を買う。ねぇ、私は一体どうすればいい?どこに行けばいい…?」
何を話出しているんだろう私は…それでも止まらない。私はまだ話足りない。
「陰気な私が出てきたらただの迷惑なんだよ。うざがられて、嫌われて、見下されて、惨めで、私は…そんなやつらに殺されるんだ!!私は私を守るために笑ってるんだ。優しさは誰かのためのものじゃなくて…相手に許されるために…。私が許されるために笑ってるんだ。誰かのためじゃなくて、私のために…。屑な自分は誰なのか。優しくあろうとする自分は私なのか。分からない…。これは自分の意思なのか。相手の意思なのか…。知らない。私はどこにいるの。
…私はいい子。」
伊藤空は私の額にこつりと頭を近づける。
「楓果ちゃんは私と同じで呪われたんだ。…ナイフで刺された時、あなたの見た景色と感情が流れ込んできた。…大丈夫だよ。助けを求めていいんだよ。”あいつ”に負けちゃだめ。きっといつか誰かに会える。きっとどこかで誰かがあなたを待ってる。」
疲れていたからなのか私の目から涙が止めどなく溢れる。
「忘れないで私のこと。許してあげて自分のこと。言葉で自分を呪っちゃだめ。言葉はあなたを惑わす。ずっと近くにきっと簡単にあなたを救う何かがある。私の希望を奪ったあなたが嫌い…。でも、…もっと早くに見つけておけば良かった。ごめんね…。」
待って…。
私の目の前に広がっていた赤い世界は消えていた。赤く濡れていた筈の服もいつしかもとに戻っていた。
鉄の匂いを残して。
もっと…話をするんだった。もっと…もっと。涙が止まらない。泣き喘ぐほどに私は謎の苦しさに押し潰される。
伊藤空と同級生の楽しそうな写真と、青い空の写真が静かに目に写った。
少しずつ欠けていくナイフは私に語りかける。
[私は知っている。君は誰なのか。安心しなよ。ここは君の居場所だよ。ずっと側にいる。いつまでもここにいる。君が来るのを待っている]
私は怯えた。しかし、もうお前に会ってたまるか。拳を固く握りしめ、私はナイフを潰した。ナイフは赤く、音をたてて壊れた。