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まきぴよ
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その日の夜。
阿部と目黒の家には、久しぶりに九人全員が集まっていた。
仕事終わりの時間はばらばらだったけれど、宮舘と岩本が先に着き、夕飯の準備を始めていた。
キッチンに立つ宮舘の隣で、岩本が野菜を切っている。
「これくらい?」
「うん。そのくらいで大丈夫」
「了解」
リビングからは、佐久間と康二の笑い声が聞こえる。
ラウールはソファで目黒と話していて、深澤はその横でスマートフォンを触っている。
渡辺はというと。
いつの間にかキッチンの近くまで来ていた。
「何?」
宮舘が聞く。
「別に」
「お腹空いた?」
「ちょっと」
「もう少しだから待ってて」
「味見は?」
「まだ」
「ケチ」
そう言いながらも、渡辺は素直にリビングへ戻っていった。
宮舘は小さく笑い、鍋の中を混ぜる。
今日作っているのは、特別な料理ではない。
九人で食べるにはちょうどいい、煮込み料理とサラダ。
それからスープ。
何度も作ったことのあるものばかりだった。
しばらくして。
「できたよ」
その一言で、全員が一斉にテーブルへ集まってくる。
「待ってました!」
康二が一番に座る。
「今日めっちゃ腹減ったわ」
「俺も」
ラウールも続く。
目黒は皿を運び、阿部は人数分の飲み物を並べた。
九人が揃う。
「いただきます」
声が重なった。
いつもの光景。
宮舘も席に着き、自分の分を口に運ぶ。
その時だった。
「あれ?」
阿部が小さく声を出した。
宮舘が顔を上げる。
「どうしたの?」
阿部はもう一口食べる。
少し考えるようにしてから、首を傾げた。
「舘さん、最近ちょっと味変わった?」
宮舘の手が止まった。
「味?」
「うん」
「今日失敗してる?」
「違う違う」
阿部は慌てて首を振った。
「美味しいよ。本当に美味しい」
「じゃあ何?」
「なんか……」
阿部は言葉を探す。
「前より優しい味になった気がする」
その言葉に。
テーブルにいた何人かが反応した。
「それ、分かるかも」
ラウールが言う。
宮舘がそちらを見る。
「ラウールも?」
「うん。最近ちょっと薄くなった?」
「薄い?」
「悪い意味じゃなくて」
今度は深澤が口を挟む。
「前はもっと、体に良さそうっていうか」
「今も体にはいいよ」
岩本が笑う。
「そうじゃなくてさ」
深澤は料理を食べながら続ける。
「前の舘さんのご飯って、“ちゃんと食べろ”って感じしてた」
「何それ」
宮舘が笑う。
佐久間も頷いた。
「分かる!」
「佐久間まで?」
「栄養!」
佐久間は箸を持ったまま力強く言う。
「これ食べたら元気になるからちゃんと食べなさい、みたいな味!」
「味でそこまで分かる?」
宮舘は少し呆れた。
康二が笑う。
「でも、今はなんか違うな」
「康二も?」
「うん」
少し考えて。
「一緒に食べよ、って感じ」
その言葉に。
宮舘は一瞬、何も返せなかった。
周りは特に深く考えて言っているわけではなさそうだった。
みんな普通に食事を続けている。
「俺、どっちも好きだけどね」
目黒が言う。
阿部も頷いた。
「俺も。でも今の方が、なんか落ち着く」
「……そう?」
宮舘は自分の皿を見る。
作り方を変えた覚えはない。
調味料も。
分量も。
大きく変えたつもりはなかった。
なのに。
みんなは違うと言う。
宮舘は自分でもう一度食べてみた。
正直。
よく分からなかった。
「気のせいじゃない?」
そう言うと。
隣から。
「気のせいじゃないよ」
渡辺の声がした。
宮舘が見る。
渡辺はいつも通りの顔で食べている。
「翔太も分かるの?」
「分かる」
即答だった。
「涼太のご飯、ずっと食べてるから」
「……」
「前と違う」
「どこが?」
渡辺は少し考えた。
それから。
「前はさ」
箸を置く。
「絶対食わせる、って感じだった」
「そんな怖い料理作ってた?」
「怖くはない」
渡辺は笑う。
「でも、ちゃんと食べたか確認してたじゃん」
宮舘は黙る。
否定できなかった。
誰がどのくらい食べたか。
食欲はあるか。
残していないか。
体調が悪そうなら、何なら食べられるのか。
ずっと見ていた。
特に。
あの頃は。
食べてくれることが。
元気でいることが。
そのまま安心に繋がっていた。
食べさせなければ。
ちゃんと栄養を取らせなければ。
自分が見ていなければ。
そんな気持ちが。
いつの間にか。
料理を作る時まで入り込んでいたのかもしれない。
宮舘は少し視線を落とした。
事件のあと。
夢から戻ったあと。
自分の中で何かが変わったことは分かっていた。
でも。
それが料理にまで出ているとは思わなかった。
「……以前は」
宮舘がゆっくり口を開く。
みんなが何となくこちらを見る。
「何作ったら食べてくれるかな、とか」
少し考える。
「ちゃんと食べさせなきゃ、とか」
そういうことを考えていた。
特に阿部が食べられなくなった時。
何を作っても。
何を持って行っても。
結局、自分にはどうすることもできなかった。
あの記憶は。
今もなくなってはいない。
「でも今は」
宮舘はテーブルを見る。
目の前には。
九人分の皿。
食べかけの料理。
誰かが取ったサラダ。
康二がおかわりしたスープ。
「これ、佐久間好きだったな、とか」
「俺?」
「うん」
佐久間が嬉しそうに笑う。
「ラウール、最近これよく食べるな、とか」
「食べる」
「照、明日体動かすって言ってたな、とか」
岩本が頷く。
「翔太、今日は疲れてそうだから、これにしようとか」
渡辺が少しだけ宮舘を見る。
「……そういうこと考えてる」
言葉にして。
宮舘はやっと気づいた。
以前と。
少し違う。
食べさせなければ。
ではなく。
食べてほしい。
一緒に食べたい。
喜んでくれたらいい。
いつの間にか。
そんなふうに思っていた。
阿部が小さく笑った。
「じゃあ、それが味に出てるんじゃない?」
「そんなことある?」
「あるんじゃない?」
「知らないけど」
「知らないんだ」
全員が笑う。
宮舘もつられて笑った。
その横で。
渡辺がまた料理を一口食べる。
「俺は今の方が好き」
宮舘が渡辺を見る。
「前のは嫌だった?」
「そうじゃない」
渡辺は少しだけ考えてから。
「前のも好きだったよ」
そして。
少し照れたように視線を逸らす。
「でも今の方が、涼太も一緒に食べてる感じするから」
宮舘は何も言えなくなった。
以前は。
誰かに食べさせることに必死で。
自分が食べることなんて、後回しになることもあった。
食卓にいても。
全員の皿ばかり見ていた。
今は。
ちゃんと自分の皿もある。
九人と同じように座って。
同じ料理を食べている。
守る側。
食べさせる側。
それだけではなく。
自分も。
この食卓にいる一人だった。
「……俺も」
宮舘が言う。
渡辺が見る。
「今の方が好き」
「自分の料理なのに?」
「うん」
「変なの」
「いいじゃん」
渡辺が笑った。
すると。
「舘さん!」
康二が空になった皿を持ち上げる。
「おかわり!」
「俺も!」
佐久間も続く。
ラウールも。
「スープまだある?」
一気に騒がしくなる。
宮舘は立ち上がった。
「あるよ」
いつものように答えて。
キッチンへ向かう。
でも。
途中で少しだけ立ち止まった。
振り返る。
九人の食卓。
阿部が笑っている。
目黒がその隣にいる。
深澤と岩本が何か言い合って。
佐久間が康二の皿を覗き込み。
ラウールが最後のサラダを取って。
渡辺が。
宮舘を見ていた。
目が合う。
「涼太」
「何?」
「俺もおかわり」
宮舘は笑った。
「はいはい」
料理に。
魔法なんて使えない。
でも。
食べる人を思って作れば。
少しくらい。
味は変わるのかもしれない。
それが。
誰かを守るためだけじゃなく。
一緒に生きていくための味なら。
今は。
その方がいいと思った。
「まだいっぱいあるから」
宮舘は鍋の蓋を開ける。
「みんな、好きなだけ食べて」
九人の夜は。
まだ。
ゆっくり続いていった。
魔法の料理 ~君から君へ~
BUMP OF CHICKEN
コメント
3件

素敵💓 ❤️様もほんの少し絡まったものが解けてきて居るのかな そんなので料理の味が変わるのも 凄いな。それだけ心が心がこもって居るのでしょね🥰
おはようございますm(_ _;)m 料理は大変です、だけど作った料理を残さず食べてくれた時は素直に嬉しい、味付けを変えた時は反応にドキドキする 基本温かい物は出来たてを出す、家族の帰宅時間によっては午前3時や4時に揚げ物揚げてる時ありますヽ(^。^)ノ
うわあああ第1話からもう胸がぎゅーってなった…!!😭💕 9人揃う食卓の空気感がもう……リアルでエモすぎる。 「食べさせなきゃ」から「一緒に食べたい」への変化、 それが料理の味に出てるって気づかれるの、 めちゃくちゃ深いし優しさに溢れてるよ…♡ 渡辺くんの「今の方が好き」、 そして宮舘さんが「俺も」って返すところに全部詰まってた… 一緒に食べてる感じ、って表現がもう最高すぎる。 続きめっちゃ気になる!!待ってるよみら先生🌸