「うーん、それなんだけどさぁ、あの時は慌てて送り出したから気が付かなかったんだけどね、ヒット達が避難している『澱(よど)み』に入る為の水路ってね、僕が通れない位に狭いってティガが言っていたのを思い出したんだけどさぁ」
「まあ王様位大きかったらそういう事もあるでしょう、それが何か?」
ナッキは溜息混じりで言う。
「この間も言ったよね? 僕の仲間のギンブナって全員僕より大きくて立派だってさ、忘れちゃったの?」
「いや覚えてますけどね、みんな今一つ信じられないで居るんですよねぇ、本当にそんなに大きい魚が居るんですかぁ?」
「いるよ、女の子のオーリだって僕の倍以上、ヒットなんて比べられない位大きいんだから! そんな皆が狭い水路を無事抜けて来れるのかな? 心配するでしょ普通」
殿様のゼブフォはナッキの膨らんだ腹部にチラリと視線を移してから言う。
「それは、その…… 皆さん、痩せてるんじゃないですか……」
「ほらぁ、って事は飢えている、そう言う事じゃ無いのぉ、それはそれで心配だよぉ! ジッとなんてしていられないよぉ、本当は今すぐ下流に向かってしまいたい位だけれど、行き違いになっちゃいそうだし…… 仕方なくここで回って居たんだよぉ」
「いや回ったって何にもならないでしょ……」
殿様は呆れて呟いたが、既にナッキは自分の考えに没頭して聞いていない。
――――皆、お腹が空いているだろうけど頑張ってここまで辿り着いておくれよ、ここなら食べる物は沢山あるし、安全に休める場所だってたっぷりだから…… あれ……? 確かティガって自分と大差ない大きさのオイカワのピド達の事を小さいって言っていた様な…… っ! も、若しかして、サイズ感が判らないタイプとか、かな? だったら皆、水路通り抜けられないじゃない! ヤバイよ、無理して通り抜けようとして挟まっちゃったり、苦し紛れにジャンプなんかして陸地に落ちて…… 渇いて太陽に照らされて次第に目の光が…… ああああ、ど、どうしようっ!
そこまで思い至ったナッキは殿様を放置して再びその場でグルグル回転を再開するのであった。
「あああぁぁー、不安だぁー! あああぁぁー、不安だぁぁぁー!」
「アーフアンダー! アーフアンダー!」
『キャハハハハ!』
先程までよりスピードを上げて回り泳ぐナッキを真似して、子モロコとおたまじゃくしの回転も速度を増し、子メダカ達の笑い声もボリュームアップしたようだ。
殿様は深い溜息だけを残して、首を左右に振りつつ浮き草に向かって泳ぎ去るしか出来なかった。
結局その日は日が暮れて子供達が飽きて城に戻ってしまった後も、一晩中まんじりともせずにグルグル回り続けるナッキであった。
流石に周りを気遣って、声のボリュームを落として回っていたナッキであったが、時間が経過するに伴って不安の叫びはフルボリュームに戻ってしまい、王国の魚とカエルは騒音に目を覚まし、揃って寝不足になってしまったが、その事でナッキに苦情を言う者は居なかった。
きっと優しさからだろう、決してノイローゼっぽいナッキが気持ち悪かったからではない、と思う。
翌朝も相変わらずシャウトしながら回っていたナッキに、待ち焦がれた報告がカーサとサムから届けられる。
「王様ぁ! ティガさんがお戻りになりましたよぉ!」
「ギンブナの皆さんも無事到着出来たそうでーす!」
「っ!」
ナッキの不安は杞憂(きゆう)に過ぎなかったようである、本当に良かった。
主にモロコとカエルとメダカ達の健康維持のために……
ウグイのティガ、人呼んで『フーテンのティガ』が、ギンブナ達を連れて、無事戻って来てくれたのである。