テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「こういうご縁のものは、お話が舞い降りてくるように……ね?」
奥様の“ね?”がねっとりと聞こえて気持ち悪い。
「中園の名前を背負っていく篤久に縁談をいただいたのではなく、見合いが決定したとは…えらく話が飛躍していると感じるね」
叔父様の口調はご主人様と同じようだ……篤久様もとても似ている。
「でも決まったものは決まったのよ。会場まで、全て手配済み」
「「「手配?」」」
遥香の失言を聞き逃さない男性陣3人の厳しい声が揃うと、広瀬さんが壁に頭をこすり付けて頷いている。
そこまでそっちに寄らなくても、ちゃんと聞こえているのだけれど、今の広瀬さんは“盗み聞き”を自分で演出して、ワクワクしているようだ。
「断る」
篤久様の一言で終わったかに思えた話だけれど
「お相手は大門様です。大門様との結び付きは会社にもプラスになると思いますが?」
と奥様が驚愕の名前を出した。
広瀬さんは、両手を胸にあててワクワクの最高潮に達した様子だね。
大門様のお嬢様……小さな画面で見ても、とても優雅さのある美しい方だった……そう思い出すと、私も知らない間に広瀬さんと同じように両手を胸にあてていた。
息苦しい……気がする。
「はぁ……何を勘違いしたら、そんな言葉が出てくるのかと頭が痛いね」
というご主人様の声が聞こえたと思えば
「真奈美さん、熱いお茶を3人にお願いします」
「そうだね、酒の席を中断されたね」
篤久様と叔父様の声が続いた。
「はい、かしこまりました」
と私はダイニングへ顔を出し
「ほうじ茶か玄米茶、どちらがよろしいでしょうか?」
とテーブルの方を見て確かめる。
「そんなのどっちだって変わらないでしょ」
遥香がすかさず言うところを見ると、あのパーティー以前の勢いが戻っているわね。
「私はほうじ茶」
「選べるなら、玄米茶でもいいかな?」
「俺も玄米茶」
「それなら私も玄米茶で…」
ご主人様だけがほうじ茶と言われたので、言い直しをされたけれど
「ほうじ茶をご用意出来ますので、大丈夫です。玄米茶と、それぞれご用意します」
それくらいはお安い御用だ。
「じゃあ、たっぷりと大きな湯呑にお願いします」
「かしこまりました」
私がそう言って下がると同時に
「とにかく決まったものは決まったのよ。悪い相手じゃないでしょ?」
と、遥香の甲高い声が響いた。
広瀬さんは端っこから動いて、大きな湯吞を用意しながらもなんとなく体がダイニングの方へ傾いていて、可笑しい。
「大門様のパーティーを追い返されたと大騒ぎしていたあとに、おかしな話ですね」
篤久様の言葉に、私と広瀬さんはコクコクと頷きながら茶葉を急須に入れる。
「ママと謝りに行ったら、ついでにいろいろとお話をして、その結果お兄様と大門様のお見合いが決定ってワケよ」
ふふん、という鼻歌が聞こえそうな遥香に
「そういうことですから、いいご縁に感謝してお見合いをしてくださいな」
と、こちらも鼻歌が聞こえそうなトーンの奥様が言った。
コメント
9件
凄い母娘。 転んでもタダで起きない人達。 自分達の有益になるなら兄も売るのか。 これからどうなるかな。
非セレブが篤久さんをダシにして大門家を取り入ろうとしている?
お茶の良ささえわからない母娘が何やってんの?後で又大恥かくのに能天気な2人だわ