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それから二人は、時折顔を合わせるようになった。
仕事の場で。
共通の知人を介して。
あるいは、街のどこかで。
以前のように毎日ではない。
だが、完全に失われたわけでもなかった。
ルカはもう執事ではなく、
恒一もまた、彼を主として扱うことはなかった。
「最近は、無理をなさらなくなりましたね」
ある日、短い立ち話の中でルカが言った。
「君がいなくなって、やっと気づいた」
恒一は少し笑う。
「支えられていたことに」
ルカは何も答えず、ただ静かに頷いた。
⸻
最後に会ったのは、春の終わりだった。
別れ際、恒一はふと思い出したように言う。
「君は、幸せか?」
簡単な問いだった。
けれど、答えるには少し時間が必要だった。
「……はい」
ルカは、そう答えた。
「少なくとも、
自分の選択に嘘はついていません」
それで十分だった。
「それなら、よかった」
恒一はそれ以上、何も言わなかった。
⸻
二人は結ばれなかった。
言葉にしなかった想いも、確かにあった。
けれどそれは、
失敗でも、後悔でもない。
互いの人生に、
確かに存在した時間。
主と執事として出会い、
一人の人間として別れ、
そして静かに、前へ進んでいく。
⸻
銀の執事は、
もう誰かの後ろには立たない。
静かな主は、
一人で立つことを覚えた。
それぞれの場所で、
それぞれの朝を迎えながら。