「う……ごめん」
遊び歩いていたわけでは無く、ミルシェを探しに来ただけなのに。しかし言い訳はしないでおこう。
「アックさまは頭を下げなくてもいいのですわ。どうせルティが誘ったのでしょう?」
「まぁな。あの娘《こ》はどこかに行ったけど」
「とにかく、今はとても忙しいのですわ! ギルド街区は工事の最中。さっきまでネコ族がくだらないことで揉めていましたけれど、他の作業に行ってもらいましたわ」
どうりで……それもミルシェのおかげだったのか。彼女に国のことを任せていたら、上手くまとまりそうだな。
「お前も遊んでばかりいるのだ! お前もアックを手伝うのだ!! ウニャ」
「いや、シーニャ。それは違――」
「虎娘の頭では分からないことですのね! いいですわ。ギルドのことも話したいし、じっくりと話し合おうじゃない!!」
「ウニャ!!」
ミルシェを怒らせてしまったようだ。そうなるとおれだけで問題を片付けに行くしか無い。
「あ、アックさま。問題人物はエルフ自治区で暴れていますわ! 恐らく、アックさまの言うことならあれらも命令を聞くと思いますわ」
「サンフィアの所か。分かった、行って来る」
シーニャとミルシェの話し合いが長引きそうだ。
ここは黙って行くしかない。
◇◇
イデアベルクは滅亡する前にいくつもの区が存在していた。子供の頃はほとんど居住区しか行き来したことが無く、隅々まで見たことは無い。
しかし一部の貴族連中が立ち入りを許可しなかった場所が見つかった。魔導兵が量産されていた場所がそこにあたるが、おれはそこを全て破壊して更地に変えた。
貴族がいた場所、卑しい人間がいた痕跡を消したことに多くのエルフたちは安堵した。サンフィアを始めとしたエルフたちは、そこを自分たちの区にしたいと訴えた。
その結果、今はエルフ自治区として認めたという経緯がある。
エルフ自治区の位置は森林区に近く、居住区からは遠い。森林区にはグライスエンドから連れて来た竜を放っているので、竜の姿を見ることが多い場所だ。そこで問題を起こしているということはあの男に違いない。
歩いて行くのは面倒なので、あの男に教わった移動魔法で飛ぶことに。
「キャァッッ!?」
移動魔法で飛んだが、真っ先に聞こえて来たのは女性の悲鳴だ。またしても失敗したのだろうか。
「――へっ?」
「もしかして、イスティさま!?」
「キミは確か……」
聞くまでも無く竜人、それも女性が目の前にいる。かろうじて裸では無いが。どうやら全身を拭いている所に飛んで来たようだ。
グライスエンドから連れて来た竜の一人になるが、そのほとんどは竜もしくは精霊竜だった。その中には人化出来る者がいて、彼女、彼らのことを竜人と呼んでいる。
「もうすぐ拭き終わるからあっち向いてて!!」
「わ、分かった」
竜の翼とツノを見せている以外は、ほぼ人間と変わらない。もちろん人化を完璧に出来る竜人はごくわずかだ。
「イスティさま、こっちを向いてもいいよ!」
「おぉ……?」
「そ、そんなに見つめられたら、咬みつくからね?」
「いっ!?」
ついつい見つめてしまったが、咬みつかれても困る。それにしても竜人の姿に全く違和感を感じない。シーニャは獣人で違いないのに。竜人についても人間と言っても差し支えない姿だ。
「冗談だよ。イスティさまに咬みついても美味しくなさそうだもん。それにあの子が泣きそう」
「泣きはしないと思うが。キミは精霊竜人の――アヴィオルだったかな?」
「うん、アヴィって呼んでね!」
ルティに精霊竜がついた時の竜が、ここにいるアヴィオルである。竜の時は真っ赤な竜だったのに、人化すると外見が全く違うのには驚いた。
ミルシェとも違う何とも整った顔つきの女性だ。長い髪をしているが、赤では無く白い髪をしていて神秘的な雰囲気がある。言葉遣いもルティより子供っぽいが、特に気にはならない。とにかくここに移動して来たということは、森林区には飛べたということだ。
「ところで、キミらはあの男とは仲良くしているのか?」
「ウルティモのこと? 相手にしてないよ。それよりも、せっかく来てくれたんだから遊ぼうよ~!」
「いや、先にエルフの所に行かないと駄目なんだ。また今度遊ぶから」
「え~つまんない~!!」
言葉だけ聞いていれば子供っぽいが、年はかなり上のはず。
とにかく今は、ウルティモがいるはずのエルフ自治区に行かなければ。
「じゃあ、そういうことだから――」
「イスティさま! それじゃあ、一緒に行く!!」
「アヴィも? う~ん……まぁいいか。くれぐれもエルフに襲い掛からないでくれよ?」
「うん、いいよ~! イスティさまは、どうせすぐ外に行くことになるし~」
「――何だって?」
何か気になることを言い放ったアヴィオルだったが、特に意味は無いだろう。とにかく今は獣人というか竜人娘を連れて、エルフ自治区に向かうことにする。