テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「好きなことしてただけだよ。兄さんが美味そうに俺が作ったもの食ってくれるから、料理作るの、ますます好きになれた。俺の料理人の原点は兄さんの『美味い』って言葉だよ」
「晴留……」
晴永が眉根を寄せて泣きそうな顔をする。
晴永のそんな表情を見たことがなくて、瑠璃香は、小さく息を呑んだ。
千紗も、良介も黙って双子みたいにそっくりな兄弟のやり取りを見ていた。
「あー、もうそんな顔しないでよ、兄さん。もちろん料理の道選んだこと自体、後悔してるわけじゃないんだよ? でもね――」
晴留は、少しだけ視線を落とした。
「本来なら、俺だって一緒に背負わなきゃいけなかったんだって……そう思うくらいは、許してほしい」
その言葉に、晴永の胸が詰まる。
晴留は、昔からそうだった。
自由気ままに見えて、肝心なところではちゃんと周囲を見ている。
そして、自分だけが自由を選んだことへの負い目を、ずっと抱え込んでいた。
「だからさ」
晴留は再び顔を上げた。
「兄さんが初めて〝角宮の長男〟じゃなく、〝ひとりの男〟として誰かを選んだって聞いた時、俺、正直ちょっと安心したんだ」
晴永は何も言えなかった。
「兄さん、ずっと自分のこと後回しにしてたから。会社とか家とか責任とか、そういうの優先するのが当たり前みたいになってただろ?」
晴留は苦笑する。
「だから今回くらい、自分の幸せを優先したっていいんじゃないかって思ったんだよ」
店内の空気が、少し静かになる。
「母さん、多分あの時初めて実感したんじゃないかな」
晴留は静かに続けた。
「自分がかつて父さんとそうだったように、兄さんが本気なんだって」
晴永は、膝の上で握っていた拳をゆっくり緩めた。
自分ではずっと、晴留に家のことを押し付けたくないと思っていた。
弟には自由に生きてほしかった。
家に縛られず、好きな道を進んでほしかった。
だから、自分が残るしかないと思っていた。
けれど晴留は晴留で、そんな兄を見ながら負い目を抱えていたのだ。
「だからさ、自分の気持ちを優先したこと、そんなに悲観的になること、ないと思う」
晴留はそう言って、少しだけ笑った。
「結果的に面倒なことにはなったけど、母さんが裏で動いたのって、その意気込みに押された部分も大きいし」
その言葉に、晴永はゆっくり息を吐いた。
……そうかもしれない、と思った。
もし自分が中途半端な覚悟のまま動いていたなら、清香はきっと切り捨てていただろう。
だが実際には違った。
会社を。
創業家を。
自分がこれまで背負ってきたもの全部を敵に回してでも、瑠璃香を選ぶと言った。
だからこそ、清香も動いたのだ。
「……でも、それって」
瑠璃香が震える声で言う。
「晴永さん、本当に全部捨てるつもりだったんですか?」
晴永は、隣に座る瑠璃香を見た。
その問いに対する答えだけは、誤魔化したくなかった。
「必要なら、そのつもりだった」
瑠璃香の瞳が揺れる。
コメント
2件
はるながくんの覚悟、かっこええなぁ。
いやあ、兄弟の本音のぶつけ合い、泣けるわ……! 晴留が晴永の「おいしい」が原点って言ったところでグッときたし、「一緒に背負わなきゃいけなかった」って負い目を語ったシーンがもうね。兄として弟に自由に生きてほしい一心で全部背負おうとしてた晴永と、それをちゃんと見てた晴留、最高のコンビやんか。瑠璃香の震える質問にも、晴永が「必要なら捨てる」って迷いなく言い切ったのが格好良すぎた🔥
#素人作品
YAMATO
824
#ほのぼの
#大人の恋
E―さん
29