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お股ポテト
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はるにし
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今日、シュメリは仕事に出掛けた。
僕はバルトと二人、テラスで中庭を眺めていた。
バルトは客人扱いになっている。
囚人から一転、おもてなしされる立場になった。
そこも小説通りだ。
「外れねぇな」
さっきからずっと、バルトが首輪を外そうと悪戦苦闘している。
シュメリの魔法は強力だから、きっと無理だ。
「はぁ、疲れた」
吐き捨てて、バルトが紅茶を一気に飲んだ。
「今だったら、リンネを連れて森に帰れるのにな」
膝の上にいる僕を、バルトが抱き上げた。
「また前みたいに、一緒に暮らしたいな」
「ふにゅぅ」
顔にスリスリされて、声が漏れた。
「勝手に連れ去っておきながら、伴侶だとかワケわからねぇこと言いやがって。自分のほうが、よっぽど危険な誘拐犯じゃねぇか」
バルトが呻っている。
僕はシュメリに誘拐されたんだろうか。
(欲しいと思ったら手段を選ばない所は、ありそうだけど)
シュメリは物腰柔らかいけど、腹黒だから。
誘拐と言われても不思議ではない。
(でも、もし僕が嫌がったら、無理に連れ去りはしなかったんじゃないかな)
シュメリの腹黒は、人の気持ちを蔑ろにする黒さじゃない。
でも、それをバルトに伝える手段がない。
(それに、なんでシュメリが僕を伴侶にしたいのかも、よくわからない)
僕とシュメリの間に何があったのかな。
一緒に住んでたっぽいバルトは、どうして知らないのかな。
どうして僕は、何も覚えていないんだろう。
わからないことばかりで、脳がヒートアップした。
「うにゃ」
僕はバルトの腕の中で仰け反った。
「リンネ? どうした、調子が悪いのか? リンネ!」
バルトにゆさゆさ揺すられて、気分が悪くなった。
「うっぷ」
前足で口元を抑えながら起き上がった。
「良かった、リンネ」
全然よくない。
バルトは昔から、こういうとこある。
大雑把で、動きが色々大きい。
(ん? 昔から? 昔って、いつ?)
この屋敷に忍び込んで来たところからしか、僕はバルトを知らないはずなのに。
どうして昔も、なんて思うんだろう。
やっぱり僕は、バルトと暮らしていたのかな。
「なぁ、リンネ。お前はシュメリの嫁になりたいのか?」
「にゅぅぅ」
それについては考える。
だって、シュメリの嫁になってほしいのは、僕的にバルトだから。
僕はペットポジで十分なのだ。
(魔種持ち同士なら、魔法を使わなくても同性で妊娠できる。婚姻の許可も下りる。シュメリとバルトでいいじゃん!)
猫魔の僕より、よっぽどお似合いだ。
バルトの首にシュメリが作った首輪が付いてるってだけで、僕は大興奮できるのに。
この想いを伝えたいけど伝えられない。
「やっぱり嫌だよな。一緒に帰ろう」
バルトが僕を抱きしめて、額にキスをした。
じわりと、何かが頭の中に浮かんだ。
『こら、またどこかに行ってたな。三日も帰って来ないで。この放蕩猫め』
『リンネ、飯にしよう。豆のスープ作ったぞ。あと肉もな』
そんな風に言って、怒ったり笑ったりしていた。
あれはバルトだ。
(僕は……シュメリの屋敷に来る前、バルトと、生活していたんだ)
この景色は、見覚えがある。
前世で見ていた夢だ。
いつも靄がかかって顔は見えなかったけど。
あの人が、バルトだったのかもしれない。
(夢じゃ、なかった……? でも、まさか、そんなこと、あるわけない)
どうしてか怖くなって、僕はバルトに抱き付いた。
「どうした。森が恋しくなったか?」
バルトが住んでいるのは魔窟の森だ。
魔獣が多く住んでいる危険な場所。
猫魔は魔獣だから、森は住み心地が良い。
(記憶が、湧き出てくる。何かに引っ張られるみたいに)
それがやけに気持ち悪い。
どうしてだかは、わからない。
僕はバルトの手から逃げ出した。
「あ、おい、リンネ!」
テラスを飛び越えて、庭の中に走った。
「待て、リンネ」
バルトが追いかけてくる。
でも、今は逃げたい。
わからないけど、これ以上何かを感じたくない。
(どうしてだろう。嫌な記憶があるのかな)
シュメリの屋敷に来る前の記憶がないのは、僕があの時点に転生したからだと思っていた。
(違うのかもしれない。もしかしたら僕は、死ぬ前から少しずつ、この世界に……)
フルフルと首を振って、僕は走った。
だって僕は、シュメリとバルトに恋人になってほしいんだ。
ここは小説の世界なんだ。
(そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ……シュメバル拝めない!)
僕は、ぎゅっと目を瞑った。
瞬間、足元に地面がなくなった。
「はにゃ⁉」
庭に何故か穴が開いている。
その穴の中に、切った木枝がたくさん捨ててある。
(落ちる……落ちる!)
じたばたする僕を、大きな手が掴まえた。
「っと、危ねぇな」
追いついたバルトが、僕を掴んでくれた。
ホッとして、力が抜けた。
「そういう時は飛べって、いつも教えているだろ」
だって、飛ぶってイメージが上手くできないんだもん。
人間は飛べないんだから、仕方ない。
猫魔の体に、急には馴染めない。
「にゅぅ」
僕は少しだけ不貞腐れた。
そんな僕を眺めて、バルトが笑っている。
「それにしても、手入れが中途半端だな」
バルトが庭の木々を眺めて呟いた。
「暇だし、手入れしてやるか」
バルトが庭をキョロキョロした。
「あれが道具小屋かな」
近くに小さな小屋があった。
開けてみると、手入れ用の道具が一通り入っていた。
(バルト、庭師みたいなことできるのかな。木こりは木を切るのが仕事なのに)
大きなハサミを手に取ると、余計な枝葉を切り始めた。
その手つきは慣れていて、見る間に植木が綺麗に剪定されていく。
(おぉ! 上手い!)
僕は肉球で拍手した。
「褒めてくれてんのか? 上手いだろ。こういうのは好きなんだ」
ドンドン綺麗にしていくバルトを眺めて、思い出した。
(このエピソード、小説にあった!)
シュメリに軟禁されてやることがないバルトが、庭師のような仕事を勝手にする。
予想外に庭が綺麗になっていって、シュメリが驚くんだ。
『君にこんな特技があったとはね。暗殺稼業より、ずっといい』
そう言って、シュメリはバルトを褒める。
褒められたバルトが、悪態を吐きながら照れるんだ。
僕は、感動した。
(ホラやっぱり、小説通りじゃん。同じことしてるじゃん)
ここはバルトに頑張ってもらわないといけない。
僕も何か手伝おう。
周囲を見回すと、切られた枝葉がたくさん落ちていた。
(あれをさっきの穴に運ぼう)
切った枝葉を持って、羽をパタパタする。
飛び上がって、穴に捨てた。
(ちゃんと飛べた!)
急でなければ、普通に飛べる。
「ありがとな、リンネ」
振り返ったバルトがニコリと笑った。
バルトの笑顔は優しい。
普段は無表情で怖いけど、優しい人だ。
「にゃ!」
推しのためなら、お掃除くらいなんてことない。
バルトが剪定する横で、僕は切った枝葉を穴に運ぶ。
推しのために汗を流せる今が、幸せだ。
(シュメリ、早く帰ってきて。この庭を見て!)
この後のラブラブイベントが、待ち遠しくて仕方がなかった。
コメント
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第6話、拝読しました🌷 中庭でバルトが剪定を始めるシーン、とても丁寧に描かれていて好きです。職人みたいな手つきでどんどん木々が整っていくのが目に浮かびました。 それ以上に心に残ったのは、リンネの中で記憶が湧き出してくるあたり。バルトの「放蕩猫め」「豆のスープ」という呼びかけに、じんわりとした既視感があって…もしかすると、リンネはただの転生者じゃないのかな、と思わせる空気感が絶妙でした。 記憶を思い出すことに怖がって逃げる、でも推しのために枝葉を運ぶリンネの健気さに胸がぎゅっとなりました。 次、シュメリが帰ってきた時にこの庭を見てどう反応するのか、今からすごく楽しみです。ありがとうございました🍀