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sn side
桜舞い、暖かいこの季節。
春は、嫌いではない。 だが、毎年この季節は少しだけ苦手だった。新しい生徒、新しい授業、新しい環境。どれも教員にとっては慣れたはずの繰り返し。なのに、何かと神経を使ってしまう。
佐野 『 ふぅ ………、 』
肩を回してペンを置いたとき、職員室のドアがノックもなくゆっくり開いた。
曽野 『 佐野せんせ 〜、!ノート出し忘れたん、
今思い出してん!!持ってきました!!』
その声に、またか、と思った。
佐野 『 まーた、お前かよ、、』
2年B組の曽野舜太。 成績は腹立つがトップ。だが、態度はギリギリ“指導不要”のライン。注意してもどこか人懐こく、するりと懐に入ってくるタイプ。
佐野 『 曽野。あのなぁ、ノート提出は
授業の時に済ませること。何度目だよ、、』
曽野『 やけど先生、ここで出したら先生に
“ありがとう”て 言ってもらえるやん? 』
佐野 『 はぁ、?? 』
平然とそんなことを言ってくる。 口元に浮かんだ
悪戯っぽい笑み。
まるで反応を楽しんでいるかのようだった。
曽野は机の横にしゃがみ込み、こちらを覗きこむように見上げた。
曽野『 やってさぁ、??俺んとこの担任の先生、
全然褒めてくれへんの。 やから俺、
先生の“困った顔”見て癒されよ思て。 』
ほんとに、何を言ってるんだこいつは。この歳になって「癒される」などという単語を生徒に向けて使われるとは思わなかった。
佐野『 …… はぁ、帰れ。 』
少し強めに言ったつもりだった。 でも曽野には掠りもしないようで。完全にペースを握られている。
机にノートを置くと、曽野は椅子の背に肘をかけて斜めにこちらを見つめた。 その視線の温度に、なぜか一瞬で息が詰まる。
曽野『 なあ先生、なんで俺と話してくれんの?』
佐野『 は…、? んー、まぁ、曽野が話しかけてくるからだろ。』
曽野『 えー??なにぃ…、それだけなん? 』
佐野『 …は、… 何だよ、笑 』
曽野『 俺さぁ、先生のこと、ちょっと変な人やと思うてたけど、 話してみたら…もっと変やったわ 』
佐野『 …何それ 笑… 褒めてんの?? 笑 』
曽野『 おん。そういう人の方が、好きやもん。』
佐野 『 …ちょ、先生に 何いってんだよ ……、』
(……“好き”?)
その単語に、どこか喉が詰まるような感覚に襲われた。 もちろん、深い意味はない。ないに決まっている。
生徒の軽口。教師は、聞き流すのが普通だと思う。
だけど、何でだろう。あの目を見た瞬間、何も言い返せなかった。
佐野『…はぁ、…そろそろ帰んねぇと怒られるぞ。』
曽野 『 はーーい………、』
手を振って廊下へ消えていく後ろ姿。
「また来るわ〜」なんて、 来るなと思い切り突っ返すつもりだったのに。さらに増した言い表せない胸の痛み。
佐野 『 はぁぁ ……、 』
家に帰ってすぐベッドに突っ伏し 、大きく息を吐いた。 あいつと話をすると疲れる。
アレが若さなんだろうか????いやでもあんな奴ほかにも沢山いる。
なんてことを考えながらまた「ため息」をつくと、フラッシュバックのように曽野のあの笑顔が蘇った。
佐野 『 ッ … … 、! 』
「好き。」なんて言葉を言われたのも初めてで。過去に何回かあったとしてもここまで、
胸の奥がチクッとすることはなかった。
そのせいか、妙に耳に残っている気がする。
佐野 『 なんなんだよ……、まじで…、…』
ひとり静かな部屋でボソッと呟く。
「 好き。」
佐野 『 っ…!!!! 』
その言葉が、頭の中で繰り返し再生される。
曽野の声が耳から離れない。ほんとに、俺 どうかしてる。
佐野『あ”““ー、!!!
もう考えるのやめよ……、……、』
これ以上変なこと考えてたら頭がおかしくなりそう。俺は教師で曽野は「生徒」。これは変わらない事実で 。
ていうか、「生徒」に「好き。」なんて言われただけできっと、深い意味はない。
何勝手に意識してるんだよ…、俺は仕事用のスーツをハンガーにかけて、部屋着に着替えた。