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◇二通目の手紙
前と同じ封筒と厚みから、すぐに差出人が前回と同様の善意の人だと分かった。
「こんにちは。
前回の私の手紙読んでいただけましたでしょうか?
あれから2人の様子を見るにつけ奥さんがご主人にどのような
対応をされたのか、分かりかねております。
……というのも、まったく2人の行動に改善の様子が
見受けられないからです。
あの2人は今も頻繁に外回りを一緒に出掛けてますし、
出張にも行ってます。
止めなくてよろしいんですか?
それとも奥さんは止めるよう助言されたのに、ご主人が聞き入れなかったとか?
手紙はこれを最後にするつもりです。
つきましては、もし奥さんがご主人の言動を信じ、このままでいい
人の家のことに口出しをしないでほしい、というお気持ちでいらっしゃるなら
私のほうもこれ以上つきまとうことは今後一切致しません。
ですがそうではなく止めようとしないご主人をなんとかしたいと
お思いになってらっしゃるということであれば、私が記してあるメルアドに
空メールをお送りください。
2人の様子を定期的にお知らせさせていただきます。
決してご主人やあなたに悪意を持つて接触しているわけではない者より」
はぁ~、今まさに私の欲しいモノを手にした……っていう感じかな。
私が望めば夫と女の情報をくれるですって。
今の段階では、相手がどんな人物なのかは分からないけれど
このモヤモヤを吹き消してくれるのは、この人物が提供してくれるという
情報しかないのだ。
私は迷うことなく、空メールを送った。
これから、私の身の上に何が起ころうとしているのか……
何が待ち受けているのだろうか……。
まだ来ぬ未来を思い、私は武者震いした。
◇疑問
はて、 姫苺 はどうやって? どこから?
俺と篠原智子とのことを知ったのだろうか。
妻はとてもマニッシュでさっぱりした性格の人間だ。
まぁ、今回の異動で現在の支店勤務になるまで女っ気などなかったからとはいえ
――今まで彼女から会社の女性のことを聞かれたことは一度もない。
『出張の件を誰から聞いて知ったのか?』という問いかけを
妻にしなかったのは突然の話に驚いて聞き逃したというのもあるけど、
何かね本能がそういう質問で返すのはよくないぞぉ~って伝えてきたって
いうのもある。
仕事を教えてほしいと言われて、妻の嫉妬が怖いからって普通、
断れるかってぇ~の。笑いものだろっ、これって。
篠原がわざわざ他人に言うかどうかは分からないが、もし他の女子社員にでも話されたら、
完全に笑いものじゃないか。
だって俺、38才の中年男。
それで25才女子に言い寄られてるとか、異性として意識してるなんて
思われてみろっ、あ~完全に笑い者だよなっ。
その時は、篠原との同行を止めろと言った妻のほうを責めたい気持ちが
勝っていた。
そして妻に向けて知らず知らず反発心を投げかけてもいた。
姫苺 、君の言動ってさ、下手をするとある種寝てる子を起こすような
ものなんだぜって。
だって俺は 姫苺 から話を持ち出されるまで篠原との仕事に関して、
妻から嫉妬されるような問題と全く認識していなかったのだから。
とにかく 姫苺 、大丈夫だから。
妻が思うほど夫、モテもせずだ。
◇ ◇ ◇ ◇
俺は自分の放った言葉ひとつで妻が引き下がったこともあり、このあとも
篠原に請われれば出張などにも引き続き彼女を連れて行った。
◇心配事
―― 仲村伍樹/篠原智子の同期 ―――
『なぁ篠原、お前は一体何がしたいんだぁ?』
ひょんなことからそう思うようになり、俺はちょこちょこお前を気にして
きたけどさ。
何となく……ほんとに何となくではあるけど、うすぼんやりと見えて
きたような気がする。
お前が言い寄った男は天羽冬也で3人めだからなぁ。
俺が胸のうちで呟いた篠原智子は、おれと同期入社で男女合わせて
今の支社だけでも20人はいる同期の中で、何故か最初から打ち解けて
親し気にしてくる奴だった。
他にもたくさんいい男はいるのに、どちらかというと平凡という言葉がピタっと
当て嵌まる俺にだなんて……何故に?
まぁ気に入られて嫌な気はしないが。
そうかと言って浮かれてもいられないんだなっ、これが。
普通はこんだけ懐かれれば、もしかして俺のこと? とかなんとか
自惚れるもんだろうけど……っていうかそうならやっぱ、普通にカップルに
なるだろ?
例え、カップルとまではいかずとも、親しい異性の友達で将来的には
カップルになれるのか、くらいの希望の持てる関係っていうか。
だけど親しくはしてくるが、彼女はそんなものを木っ端微塵に打ち砕いて
くれちゃってるんだよね、これがぁ。
入社して3か月も経たずに、既婚者の斎藤なんとかっていう男性社員に
ついてまわるようになってさ。
ありゃりゃ、俺はやっぱりお友達止まりなんだねぇ~って泣いて陰から
見てたら、これがまたすごいのよぉ~。
略奪婚でもすんのかよって衆人環視の中、社内でも社外でもよく一緒にいて
イチャイチャしてて、そのうち斎藤さんの奥さんにふたりのことがバレちゃってさ。
それで斎藤さんが篠原とのことでさんざん奥さんと揉めて、離婚したと
思ったら …… なんとまぁ、奥さんっ 笑っちゃいますわよ。
篠原は俄然その斎藤さんには見向きもしなくなり、彼が話しかけても
無視、ガン無視、スルー全開。
そしてきゃぁ~止めてンっ、何といつも以上に俺に接近・接近・大接近。
スリスリ丸分かり状態で話しかけてくるのよねぇ~。
ううんっ、もう私、皆の目が怖かったんだからぁ。-
斎藤氏への無視をさっ……皆の前でも少しの取り繕いもせず、やっちゃうから、
最後には彼も鬱になってまって――――。
その後、会社から左遷の辞令が発令され、地方へ飛ばされてしまい……
結局彼、退職しちゃいましたのよ。
まぁね、斎藤さんへの手前っていうか、ほとんど当てつけみたいに俺と
仲良さげにしてきたのは見え見えだったから、俺は適当に篠原の相手
してたけどさ、悪い女だわ全く。
篠原のせいで俺が斎藤さんから刺されたらどうしてくれんだ、オゥ……
って言いたかったけど……。
いやまぁ、言えなかったんだけどね。