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5 ◇遣り取り
気がつくと私は戸惑うことなく、すぐに空メールを善意の人に送っていた。
私の不安を知ってでもいるかのように、彼からの返信メールがすぐに届いた。
善意の人が男性なのかはたまた女性なのか、分からなかった。
そこで、ひとまず私は、思考する時には『彼』と表現していくことに決めた。
「空メールがいただけたことで、奥さまがちゃんと私からの
手紙を読まれたこと、確信できたことは1歩前進かとうれしく思います。
きっと、どんな理由で私がこのようなことをしているのかと、
気にかかっておられることと思います。
私はご主人とも相手の女性とも近い存在なのかと問われれば
近くないと答えるような存在で、では遠い存在なのかと問われれば、
そう遠くはない存在ですとお答えするような存在になります。
今はこれくらいしかお話できなくてすみません。
ただひとつ言えることはあの2人に変な関係にはなってほしくない
ということで、この点で奥さんと共闘関係になれるのでは? と考えています。
そして私はご主人にも相手の女性にも恨みなどを持ってはいない
ということも宣言させていただきます。
どちらにも不幸なことになってほしくないと願う者ですが、
どちらかというとやや、お相手の女性側寄りの立場になろうかと思います。
奥さまの警戒を少しでも解きたく、書ける範囲で私の立ち位置を
書かせていただきました」
今度の彼からの連絡は媒体が紙から電子メールになっての手軽さからなのか、
はたまた今回は今後も私との関係が継続するものになったことからのものなのか、
まだ丁寧に続きが書かれてあった。
「本当は最初の手紙で終わらせたかったのですが、2人の行動に
良い変化が見受けられず、もしかして私からの手紙を何らかの事情で
奥さまが読んでらっしゃらないかもしれない可能性を思ったこと、
2つ目は奥さまから何らかのアクションがあったにも関わらず
ご主人がすっとぼけたあげく奥さまに隠したまま、相手の女性と
今の関係を続けていこうとしているのか、というこの2点を確認したくて
再度ご連絡を差し上げた次第です。
私からのメールでもうお気づきのことと思います。
そうなんです、彼らの行動にはあれから全く変化がないのです。
仕事上とはいえ、やはりずっと一緒にしょっちゅう出掛けています。
もちろん社内の者も内心呆れて2人の様子を生暖かく見守っているような状況です。
このように前振りと言いますか、いろいろと書き連ねはしましたものの、
今後私ができることは限られています。
2人の現状をお知らせするくらいしかできず、となるかと思います。
ですので奥さまに何もお手伝いできませんが分かる範囲で
社内での2人の様子や、できれば社外での様子などメールで
お伝えできればと思います。それではまた。失礼します……N」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いえいえ、どんな些細なことでも知りたかった私にとって……
誰にも相談できない私にとって……
Nさんのメールはすごくすごく有難いです。
私はまだ見ぬ人へ向けて感謝の意を捧げた。
100%信頼するのもどうかと思うけれど、私はどうかせめて
このNという人物が本人の申請通りの人であってほしいと切に願った。
彼女を少なからず心配している誰かか、彼女に好意を持つ
誰かであることは確かだろう。
文面からそう思った。
やっぱりね、夫は私の言ったことや気持ちなど露ほども考えては
くれなかったようだ。
私はそれを寂しく思った。
仕事だから?
仕事……
仕事で……
仕事なんだから、こんな嫉妬と取られるような私情を挟む私は
器の小さい人間なのだろうか。
一旦時間が経つと、弱気な考えが出てきたりして、ズドーンと
落ち込んだ。
Nからメールを貰って少し気持ちが浮上したのに、いろいろ考えて
いるうちに気持ちが急降下して私の精神状態は不安定になっていった。
イライラを取り払うことができなくて、あぁ悲し!
◇遣り取り
その後Nからは、7~10日毎に2人の会社での様子がメールで
送られてくるようになった。
それは事務的で簡単なものだったけれど、私にはとても有難いものだった。
今頃夫はあの女とどうしているのだろうなどと、何も分からず
疑心暗鬼になっている状況っていうのがたぶん精神的に一番最悪の
パターンだと思うから。
◇ ◇ ◇ ◇
最初にNから忠告の手紙を貰ってから、かれこれ2か月が過ぎようとしていた。
暦は7月―――。
あぁうっとおしい梅雨が明けたと思ったら今度は異常気象かって
いうくらい熱い日が続いている。
昨年と同様、そんな暑さでイライラする日々が続くのだと思いながら、
暑さに弱い私はダラけてぼーっと考えている内に、『よしっ、やったる』……って
決意が固まった。
それは疑いを晴らすのにも、そして疑う余地がないことを決定づけるのにも、
どちらの証拠にもなりうる、素晴らしい彼の文明の利器を活用することをだ。
夫の冬也は出張前には大抵、翌日のことを考えて早寝する習慣がある。
その日を狙って彼の携帯を見ることに決めた。
ついにその日がきた。
念には念を入れ、食事時う~ろん茶にカプセル入りの風邪薬を粉末だけ
取り出して混ぜて出した。
いつもと味が違うとかなんとか言ってたけど、暑さで喉が渇いており
呑むのを止めることはなかったので、ほっとした。
私は『どうもないよ』なんて言いながら、彼がしっかり最後まで飲むのを
横目で確認もした。
よっしゃっ!
合戦は夜ね!
見る前からきっと私には分かっていたのかもしれない。
きっと相手の女子からLINEが来てるって。
薬を盛ったことで、私は冷や冷やすることもなくゆっくりと
夫の携帯を覗き見した。
数はどうなのだろう?
多いのかどうか?
私と冬也が付き合ってた頃に比べれば遥かに少ないと言えるけれど
普通に会社繋がりの関係からみてみると、多いような気がする。
しかも、仕事から逸脱しているものもあって、今更ながら何だかなぁ~。
ほんと、こういうの嫌だわ。
すごく嫌っ!