放課後、教室にはほとんど人がいなくなった。目黒は机の前に座り、今日の授業のノートを整理していた。
でも、心の奥は落ち着かない。
背中の視線を感じながらも、振り返る勇気はなかった。
「……やっぱり、こいつか」
声が背後から響く。
振り返る前に、机に置いていたノートをひったくられた。
「お前、ほんまに気持ち悪いな」
無言で笑う連中。
蹴られる足元、投げつけられるペン。
そのたびに胸がぎゅっと締め付けられる。
でも、目黒は声を出せなかった。
——康二は、今ここにいない。
——誰も、自分を助けてくれない。
「叫べよ、泣けよ」
誰かの声が教室に響く。
手がノートを握りつぶす。
目黒は目を伏せたまま、ただ耐えるしかなかった。
そのとき、机に置かれた自分のシャーペンが足元に落ちる。
拾おうと手を伸ばした瞬間、椅子ごと倒されそうになった。
「ほら、これくらいで泣くんか?」
笑い声が耳に刺さる。
胸の奥が、痛みでいっぱいになる。
涙も出ない。ただ、心の中で叫んだ。
——誰か、助けて。
——でも、誰も来ない。
教室のドアの外、廊下の音だけが遠くに響く。
一人きりで、孤独にいじめを受ける。
それが、目黒の毎日の現実だった。
——康二がいれば、こんな思いはしないのに。
その思いが胸の奥にしっかりと根を張る。
守られることへの渇望が、依存へと変わっていく予感を、目黒はまだ知らなかった。







