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放課後のチャイムが鳴った。
「終わったー!」
教室のあちこちで声が上がる。
椅子の音や鞄を持つ音が重なり、教室は一気に帰る空気になった。
いるまは静かに教科書をしまう。
すると、後ろから声がした。
「いるま。」
振り向くと、やっぱり らん が立っていた。
「帰るぞ。」
「……。」
いるまは少しだけため息をつく。
「決定なのかよ。」
「当たり前。」
らんはニッと笑った。
「友だちだろ?」
昨日屋上で言われた言葉を思い出す。
いるまは小さく目を細めた。
「……うるさい。」
そう言いながらも、鞄を持つ。
二人は並んで教室を出た。
廊下には帰る生徒たちがたくさんいる。
階段を降りながら、らんが話しかけてきた。
「いるまってさ。」
「ん?」
「帰ったら何してんの?」
いるまは少し考える。
でも答えは簡単だった。
「……別に。」
「またそれ。」
らんは笑う。
「趣味とかないの?」
「ない。」
「マジで?」
「うん。」
短いやり取り。
でも不思議と沈黙は重くない。
校門を出ると、夕方の風が少し冷たかった。
空はオレンジ色に染まり始めている。
らんはポケットからスマホを取り出した。
「ちょっと電話していい?」
「勝手にしろ。」
すると、らんはすぐに電話をかけた。
数秒後。
「もしもし、みこと?」
その名前に、いるまは少しだけ耳を傾けた。
昨日聞いた名前だ。
電話の向こうから、優しそうな声が聞こえる。
らんは楽しそうに話し始めた。
「今日も一緒に帰ってる。」
少し間。
それから笑う。
「いやいや、そんな感じじゃないって。」
いるまは前を向いて歩く。
でも、会話はなんとなく聞こえる。
「うん、そう。」
「静かだけど、普通にいいやつ。」
また少し間があく。
らんの表情が少し変わった。
「……え?」
そして小さく笑う。
「そんなこと言う?」
どうやら、みことが何か言ったらしい。
すると、らんがふっと真面目な声になる。
「……うん。」
「わかってる。」
電話を切る。
スマホをポケットに戻した。
しばらく沈黙。
やがて、いるまが聞いた。
「……何言われた。」
らんは少しだけ笑う。
「秘密。」
「は?」
「うそうそ。」
そして、少しだけ優しい声で言った。
「『その子、大事にしてあげてね』だって。」
その言葉に、いるまは少しだけ驚いた。
(会ったこともないのに…)
すると、らんが続ける。
「みことってさ。」
「?」
「人のことよく見てるんだよ。」
夕焼けの光が道を照らす。
二人の影が長く伸びていた。
らんがふっと笑う。
「まあ、そのうち紹介するよ。」
いるまは少し黙る。
友だちの友だち。
そんな関係、今までほとんどなかった。
でも——
「……別にいい。」
小さくそう言った。
すると、らんが笑う。
「素直じゃねーな。」
その帰り道。
いるまはふと思った。
(なんでだろ。)
らんと歩く時間は、
少しだけ、
嫌じゃなかった。
むしろ——
少しだけ、安心していた。
閉じていた心の奥で、
小さな光が、
静かに灯り始めていた。