キョトンとした顔を見合わせるペトラとギレスラを横目で見ながら、レイブは明るい表情でエバンガに返す。
「いいや心配しなくても大丈夫だよ、実は俺たちスリーマンセルは普通の食事は食べないんだ、自分達専用の物が有るんでね、後でそっちを頂くからさ、大丈夫なんだよ」
「へえぇ~」
レイブの言葉に興味津々な感じで答えたラマスに小さな白竜の声が続く。
『ソレ、オイシイノ?』
『ウーム…… 美味いかどうか、か…… どうであろう? と言うか、若(も)しかして食べてみたいのか、カタボラ?』
『グガァ♪』
『ふむ……』
『アタシも一口だけ試してみたいです! あ、熱くは無いですかねペトラ様?』
『う、うーん熱くは無いけどぉ…… 大丈夫かな、レイブお兄ちゃん?』
「うーん、そうだなぁ……」
何やら悩んでいる感じのレイブの腕をガシッと抱きしめながらラマスが告げる。
「レイブ叔父様、是非食べさせて下さい! 家族を失いシパイ師匠に師事した物の放逐されて、学院からも見放された私達スリーマンセルを哀れと思って下さるのでしたら…… 同じ食事を食べ、同じ場所で夜を過ごし、同じ時の中で同じ景色を見させてくださいませんか? アタシのスリーマンセルになったせいで、カタボラもエバンガも辛い思いをして来てしまった、いいえ、アタシがさせて来てしまったんです! お願いします! 叔父様達の弟子として、ここに置いていろいろ教えて下さいっ! その為にも、せめて一口、一舐めでも良いのでご相伴(しょうばん)に預からせては貰えないでしょうか?」
「ラマス……」
潤んだ瞳に涙を湛えた彼女の視線から逃れるように、周囲に目を配ったレイブを刺し貫いたのは、同じく『本気』丸出しの熱い視線で自分を見つめる白竜とトナカイの濡れそぼった眼であった。
――――ん、なんだ? 何か違和感…… はっ!
舜の間考えたレイブは違和感の理由に気が付くのであった。
ここまでラマスの不幸な境遇には十分過ぎるほど気が付いてはいた。
彼女の過ごしてきた今日までの日々は不運と言う一言では言い尽せないほど悲惨な物である。
とは言え、人が突然消え去ったり、知り合い全てが石と化すことが当たり前とは言わないが、割りと起こり得るこの時代においては然程(さほど)、珍しい事ではない。
レイブ自身、慣れ親しんだハタンガの人々と一日にして別れざるを得なかったのだ、残酷な世界の理(ことわり)を経験として認知していたのである。
だが然(しか)し、漠然と疑問を感じ続けていた理由はカタボラとエバンガがまだ若く、魔力が無垢で無いせいで、魔術師になれる見込みがほぼ皆無である少女、ラマスのスリーマンセルとして、この魔術学院まで随行して来た事、これであった。
元来、無遠慮で隠し事の類(たぐい)が苦手な性質のレイブはストレートに言葉を発する。
「なあラマス、エバンガ、カタボラ…… お前達は…… えっと、何でここに来たんだ? 若(も)しかしてだけど…… シパイ兄ちゃんに、そのぉ…… 捨てられちゃったのかい?」
ビクッ!
ラマス達スリーマンセルはピッタリと揃って体を強張(こわば)らせた、レイブにはそう見て取れたしペトラにも同様だったらしい……
ペトラは憐憫(れんびん)の込められた声で呟きを漏らす。
『そう、なんだ……』






