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私の名前はミディアム。
ミディアムというのは、髪の毛のことではなくて、ミドルネーム。つまりミドルネームのある人間という意味だけれど、私はこの名前が好きじゃない。
だって私の名字は、ミドルネームなんてなくても十分に長いから。それに私は自分の名前が好きだったのだ。小さい頃は名前だけじゃなくて顔立ちまで褒められたものだった。髪の色もきれいねと言われれば嬉しくなって、もっと手入れに力を入れるようになったものだ。だから中学二年生になって、両親の勧めで髪を染めようとしたときはとても残念な気持ちになった。せっかくみんなに誉められた髪色なのにどうして変えなくちゃいけないのかしら? と不満を口にしたら、「あなたにはもうそういう時期は過ぎたでしょう?」
と母は困ったような笑顔を浮かべてそう言ったけれど、私は納得できなかった。
その日以来、私は鏡の前でよく考え込むようになった。鏡の中の自分がどんどん大人びてくるにつれて私の中に疑問が生まれたからだ。私は本当にこのままでいいのだろうか? もちろん髪型を変えたって化粧をしたっていいだろうけど、それだけではなんだか物足りない気がする。今までどおりの自分で満足していいのだろうか? 何か新しいことを始めなければ!
――でも何をすればいいのか分からない。そこで思いついたのが演劇部に入るということだ。別に役者になりたいわけじゃない。ただ、舞台の上でなら自分を変えられるかもしれないと思ったのだ。私は中学生のとき吹奏楽部に入っていたんだけど、それは楽器を演奏することが好きだったからであって、特別な理由があったわけではない。しかし演劇部は違う。そこには明確な目的があるはずだ。きっと今の自分に欠けているものがあるはずなのだ。それを見つけ出せたら私は変われるに違いない。幸いなことにうちの学校には演劇部がちゃんとある。しかも去年できたばかりなので伝統はない。だから、今から俺達が作るのだ。自分達の手で。
しかし、なぜこんなことになったのか? それは遡ること1ヶ月前――
***
高校2年の夏休み直前である7月某日、放課後の教室にて。
俺は親友でありクラスメートでもある奴と一緒に机を挟んで向かい合っていた。ちなみに今は部活動中だ。そのせいか他の生徒の姿はなく、教室の中はとても静かだった。ただ蝉の声だけが響いている。
目の前にいる友人が口を開いた。
「それで話ってなんなんだ?」
俺はコホンッと咳払いをする。
「あぁ……実は相談があるんだよ」
「相談だと!? おいおい! 一体どんな悩みだよ!」
そう言うと彼は嬉々として身を乗り出してきた。きっと面白いことに違いないと思っているのだろう。
だが、残念ながら今回に限って言えばそういう類のものではない。それはただの偶然だった。
だがしかし、運命の女神様は時に悪戯好きなのだ。
さて、それでは今回の物語の始まり始まり── ***
「えーっと……これはどういうことなのかしら?」
「あぁ? 見て分かんねぇのかよ?」
その日、朝から私はとある理由で冒険者ギルドへ訪れていた。というのも今日は仕事の依頼をしに来たわけではなく、冒険者のみんなにあることを頼みたくて来たわけだけれど、私が訪れた時には既にそこには先客がいた。
それも私の知り合いである。というかよく見知った顔なので、それが誰かなんていうことは考えなくてもすぐに分かることだ。
そして、その人物というのは今まさに私が話を切り出そうとしていた相手であり、私と同じパーティに所属している男性メンバーでもある。
つまり、ここに居る人物は私の仲間たちということになるのだが――問題はそこではない。問題なのは私たちが今現在置かれている状況についてだ。
そうしてようやく冒頭に戻る訳なのだが、私は目の前に広がる光景を見て思わず固まってしまっていた。
だって仕方がないじゃない。まさかこんなことになるだなんて誰も想像していなかったでしょうし。