テラーノベル
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三年生の先輩たちが引退して3日。
海幕高校オーケストラ部はコンクールに向けて練習していた。
朝練のため音楽室に一歩踏み入れる。と、違和感を覚える。
三年生が居ないから、こんなに人が居ないんだろうか。いや、それにしても居なさすぎだ。
私の他に来ているのは、
1stヴァイオリンの青野一くん、佐伯直くん、
小桜ハルちゃん、
2ndヴァイオリンの秋音律子ちゃん、
立花静。と、後数人。
一、二年生の半分以上居ない。
そのとき。
「うっわー超悲惨!弦、サボり多すぎでしょ」
背後からものすごく嫌味な声が聞こえ、私は思わず振り返る。
嫌味な声の主は、打楽器の新パートリーダー、
佐久間優介先輩だった。
佐久間先輩は笑顔で嫌味を言う。
「これからコンクールだっていうのに、こんな調子で大丈夫?」
気の短い律子ちゃんが私の斜め後ろにいる青野くんに小声で聞いていた。
「ちょっと!何よあの先輩!」
すると1stヴァイオリンの新パートリーダー、
裾野姫子先輩が来て佐久間先輩に詰め寄った。
「そういう打楽器はどうなのよ、佐久間」
「もちろん全員来てるよ。ていうかさあ…弦は自覚足りないんじゃない?僕たち打楽器と管楽器は定演に合わせて“バッカナール”を練習してきた。つまり君たち弦楽器は約六ヶ月、僕らより練習が遅れてるんだよ?朝練とか…こう言う部分で取り返して行くべきなんじゃないの?」
正論に、誰も言い返せない。
この空気を何とかしようと思ったのか、青野くんが口を開いた。
「で、でも…今日は定演直後だし…そもそも朝練は自由参加だから…その…」
「だから何?」
佐久間先輩が青野くんを見つめた。
「言われたことしかできないならそんなやつら辞めればいい。中途半端に口挟まないでくれる?僕、君のこと嫌いだなぁ」
「え……」
ほぼ初対面の人間に、そこまで言うものなのだろうか。それともこの先輩が変わっているだけなのか?
「いいよねえ、青野くんは気楽で。花野井さんもそうだけど、鮎川先生にも贔屓されてるみたいだし」
「贔屓?」
佐久間先輩は、とうとう私まで巻き込んできた。
それに顧問の怖い鮎川先生から、私や青野くんが贔屓されてる?そんなことない。
むしろ逆なのではないか……と、ぼんやり考えた。
そこに、佐伯くんが「あの!」と割り込んだ。
それを裾野先輩が止め、言い返す。
「ちょっと佐久間、あんた良い加減にしなさいよ。私らはこうしてちゃんと朝練来てるんだから、文句なら直接本人たちに言いなさいよ」
佐久間先輩は冷笑した。
「え〜、君がそれ言っちゃう?それを伝えるのがパートリーダーの仕事でしょ?三年の引退後はみんなの気が緩む時期だって、予想つくじゃん。ちゃんと仕事しなよ」
また正論なので誰も反論できない。
「ああ!わかった!もしかしてこれ、ボイコット!?みんな、羽鳥がコンマスってことが気に入らないから来ないんでしょ?」
佐久間先輩がそう言ってる間に、当の羽鳥先輩が真後ろにやってきていた。
佐久間先輩は羽鳥先輩が後ろにいることに気がついていて、わざとそう言ったのだ。
「……ねえ?君もそう思わない?」
「さあ?それは本人たちに聞かねえとわかんねえな」
「今日はサボらないんだね」
「まあ、これでもコンマスだからな」
「ダンス部はいいの?」
羽鳥先輩はダンス部と兼部している。羽鳥先輩が佐久間先輩に聞き返した。
「…で、わざわざ引っかき回しに来てお前何がしたいんだよ?」
「僕はコンクールを連覇したいだけ。僕たちの代だけ落とすなんてことは絶対にしたくないからね」
羽鳥先輩が佐久間先輩の肩に笑顔で腕を回した。
「俺も同じだよ!いやー、意外と俺ら気が合うのかもな!」
佐久間先輩は羽鳥先輩の手を払いのけ、指摘する。
「…君っていつもそうだよね。ヘラヘラして大事なことからすぐ逃げる」
そこへ、打楽器の一年女子が佐久間先輩を呼びに来た。
「佐久間先輩!部長が呼んでます」
佐久間先輩はその女子に頷くと、羽鳥先輩に指をさし捨て台詞を残した。
「そうやって有耶無耶にしてると…後で後悔するよ」
佐久間先輩がいなくなった。
佐久間先輩が言っていた“後で後悔する”。それを言ったのは佐久間先輩が後悔したことがあるからなのか。
それか、適当に言っただけなのか。
((まぁ、考えるだけ無駄か))
私が考えている間に、裾野先輩が爆発した。
「な、なんなのあいつ!!私ら弦に喧嘩売りに来ただけじゃん!!」
「まあまあ姫ちゃん」
裾野先輩を羽鳥先輩が宥めようとしたが、裾野先輩はおさまらない。
「しかもコンクール連覇とか言いながら!仲違いさせるようなことばかり言って!言ってることとやってることが全然違うし!!」
「あいつはあれで尻に火をつけたつもりなんだよ。カッカするのも思う壺だぜ?」
羽鳥先輩は私と青野くんを見た。
「青野と花野井も。…まあ佐久間の言ってたことは気にすんな。なんか色々言われてたみてーだけど」
「は、はい!ありがとうございます!」
青野くんの返事を聞き、私も慌てて返事をした。
「ありがとうございます」
「もうっ!あんな言い方ありえない!先に練習してるからって威張りすぎでしょ!?」
律子ちゃんも裾野先輩に負けないくらい怒っている。
「ねえっ、立花もそう思わない!?」
律子ちゃんに話を振られた静の顔は真っ青だった。
「……大丈夫?顔色悪いよ?」
「…平気」
律子ちゃんが心配すると、静は向こうへ行ってしまった。
((何かあったのかな……))
羽鳥先輩が長い前髪をカチューシャで上げて全員に声をかける。
「気を取り直して俺たちも朝練始めようぜ」
「はい!」
全員が練習する席に移動し始めるが、私の頭の中には佐久間先輩の言葉がこびりついていた。
まるで、油汚れのように。
コメント
1件
文章絶対変だけど気にしないでね〜