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「ルナ様はどう思われますか?」
俺がギータを飼いたいと伝えると、聖奈はミランを味方につけて説得してきた。
『餌はどうするの?』『躾が出来るの?』『散歩は毎日出来るの?』
コンの時は何も言わなかったのに……
どれだけこのフォルムに嫌悪感があるんだよ……
趣味趣向は人それぞれだけど……
「良いのじゃないかしら?」
「「えっ!?」」
最近…というか、最初から二人の味方ばかりしてきたルナ様がまさか俺の味方をするとは思っていなかったようで、聖奈とミランは驚いていた。
あのぉ…一応俺の神様でもあるんだよ?
「同じ神として、使徒を見捨てたのは許せないのよ。ごめんなさいね?二人とも」
「い、いえ。ルナ様がそう仰るのであれば、異論なんてありません」
「私も同じです」
はぁ…二人がルナ様から感じる威厳が、俺に1/100でもだせれば……
「それに、ドラゴンは便利よ?」
「便利?」
「ええ。元のサイズなら、二十人くらいであれば乗せて飛べるわ。貴方達にはあまり関係ないけれど、魔物も寄ってこなくなるわね」
俺の問いかけに、ルナ様が答えてくれた。
コンより遥かに便利だな……
アイツは完全にペット枠だからいいか。
「ということは…旅が捗る?」
「セイくんっ!それだけじゃないよ!この魔物蔓延る新大陸で、新たに国を興すのにも便利だし、調査にも使えるよ!飛行機としても、戦闘機としても使えるし、輸送機としてまで使えそうだねっ!」
元々飼う気が無かった聖奈は、ドラゴンの便利さを考慮していなかったのだろう。
飼うと決まれば、すぐにあれこれと有用性を示してくれた。
そのリベート能力が俺にあれば、ルナ様が居なくとも説得出来たのに…くやちぃ……
『あのぉ…余の意志は…?』
でかいトカゲが何か言っているが、こうなった聖奈の講義は止まらない。
少し待っていてくれ。
待てが出来ないと飼ってもらえないぞ?
「じゃあ…ギータ?…って、なんか可愛くないよね?もう少し可愛い名前にしない?」
聖奈の講義が終わり、放置していたドラゴンへと皆の視線が向くが、いきなりの全否定から話し合いは始まった。
『か、神から与えられた名である!可愛さは関係ないのだっ!』
「でも、その神様は捨てたんだよ?貴方はこれからは拾ってくれたルナ教の信徒なんだから」
凄いこじ付けだ……
身も蓋もないとはこのこと。
「新たな旅立ちなんだから、名前もついでに変えよ?」
『うっ…余は…まだ何も答えていないのに…』
「諦めろ。ウチの魔王様には勝てないぞ」
まだ意見を聞いてもらえているだけマシだ。
俺なんか話を聞くのは全部決まった後だぞ?
俺クラスになると『明日から名前変わるから』って言われても『はい。わかりました』と、呼吸をするように応えられる。
「白竜で目が青いから…ブルーアイズホワイトドラゴン?」
「やめろ。消されるぞ」
聖奈に名付けのセンスは皆無だ。
ここは名付けに大腕振っていたルナ様へ聞こう。
「ルナ様。何か良い名はないか?」
「そうね…ファフニールはどうかしら?地球の神話に出てくる、竜の姿をしたモノの名よ」
「かっこいいが…良いのか?神話の名だぞ?」
このトカゲには勿体無い気もするが……
「良いわよ。所詮人が作った空想上の名よ。使ってあげた方が考えた人も喜ぶわよ」
『良き名だ。新たな我が神に感謝する』
「じゃあ、決まりだねっ!よろしくね!ファフちゃん!」
『ファフちゃ…』
ギータ改めファフニールは、俺達の仲間へと加わった。
『しかし…余は何をすれば…』
「大丈夫だよ。頼み事がある時は伝えるし、ない時はルールを守っていてくれたら、好きにしていたらいいよ。ルールは私達が許可しない限り、人や物に危害を加えないこと。それだけだから」
『それだけ…?仕事は…』
ファフニールは頼られることに飢えているんだな。
わかる。わかるぞ。その気持ち。
「ファフニール。一番の仕事を教えてやろう」
ここは先輩の俺がしっかりと教えねばな。
『な、なんだ?余に任せれば、全て解決であるぞ!』
めちゃくちゃ気負ってるな……
「一番の仕事は……楽しむこと。出来ればみんなでな?」
『は?愉しむ…?えっ…』
「俺の楽しみは毎日の晩酌だ。聖奈の楽しみはこの世界だ。ミランの楽しみはゲーム時々俺と遊ぶことだ。ファフニールにも何かあるはずだ。
先ずはそれを見つけろ」
言うのは簡単だが、見つけるのは難しい。
俺も酒に出会う前はファフニールほどではないにしろ、無気力に過ごしていたからな。
『…わかったのだ』
「よし!話は終わりだ!ファフニール!先ずは最初の頼み事を聞いてくれ!」
『っ!な、なんだ!?申してみよっ!』
役に立てるのが嬉しいのだろう。
俺はそんなファフニールに、大きくなるようにお願いをした。
「うぉぉっ!すげぇっ!」
ファフニールの背に乗った俺は、山よりも高いところにいる。
見下ろす大地は緑ばかりだが、そこにポッカリと空いた先程の山頂に聖奈達の姿が見えた。
先ずはお試し。
俺が乗れなければ、聖奈やミランが乗ることは難しい。
落ちれば取り返しがつかないので、先ずは俺が試し乗りをしているのだ。
「どうだった?」
降りてきた俺へと声を掛けるのは聖奈。
聖奈も乗りたがったが、俺が危険だからと譲らなかったんだ。
「最高だったよ。風も受けなかったし、やっぱり魔法で飛んでいるんだな」
「いいなぁ…私も早く乗りたーいっ!」
やはりあの巨体だ。
翼だけで飛ぶのは物理的に不可能なのだろう。
だが、そのお陰で風も受けないから聖奈達でも安心して乗れる。
いつか専用の鞍でも作れば、尚安心快適だな!
『次はどうするのだ?』
彼は仕事を渇望しているようだ。
ようこそ、ブラック企業『魔王聖奈コーポレーション』へ。
「次は全員を乗せて、大陸を東に向かって飛んでね!」
『任せよ』
力強い応答に、俺達はファフニールの背に飛び乗ったのだった。
「海が見えないねぇ」
ファフニールの背に乗った俺達だが、結局森しか見ていない。
時々山は見えるものの、それ以外に変わったものは無かった。
「ファフちゃん」
『なんだ?』
「ファフちゃんがいた山って、この大陸のどの辺りになるのかな?」
『あの山はこの大陸の中央に位置している。どの方角へ向かっても、海から一番遠い場所だ』
そりゃあ視界は森ばかりになるよな……
「人が住んでいた当時は、どれくらい発展していたかわかる?」
『人か…奴らは何処にでもいた。あの山の麓も随分といじり倒していた。岩よりも硬いモノで建てた高い建物が、そこら中に溢れておったぞ』
「高層ビルかな…どうやらここは近未来ファンタジーの大陸だったみたいだね」
魔族がここから出ていったのが数百年前。
その時にそんな物はなかったのだろう。聞いた事がないからな。
だが、それは全く不自然ではない。
何故なら地球がそうだから。
たった百年足らずの合間に、煉瓦や岩、木造しかなかった筈の地球の建物は、その短い期間でコンクリート製のビルへと成り替わり、地球中に建てまくったんだから。
ここも同じように急成長を遂げたのだろう。
陸続きの分、その成長速度は地球を遥かに凌駕していただろうし。
「ファフちゃん。今の速度で飛んで、東海岸にはどれくらいで着くのかな?」
『うぅむ。全力で飛べば半日は掛かるまいが、今の速度だと恐らく二日かからない程度だろう』
「そっかぁ。飛んでもそれくらいの時間が掛かるんだね」
流石大陸と言ったところか。
それにしてもゆっくりとはいえ、空を飛んで二日掛かる道のりを俺達は歩いて来たんだな……
何もないからあっという間ということはなく、苦行かと思ったくらいだ。
「帰ったらしなくちゃいけないことが増えたね……」
聖奈の言葉は青く澄んだ空に溶け込んでいった。
それは辛い言葉だったのだろうか。
いや、違う。
聖奈はそれさえも楽しんでいるんだ。