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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
第九十七話 待っていた場所
駅に着いた頃には、空が少し暗くなっていた。
二人は何も言わず、古いベンチへ向かった。
以前、何度も訪れた場所。
写真に残されていた場所。
そして――
あの人が、事故のあと何度も来ていた場所。
少年はベンチの前で立ち止まった。
「……ここだ」
彼女がスマートフォンの写真を見せる。
事故から数か月後に撮られた写真。
同じベンチ。
同じ場所。
違うのは、
そこに小さな紙袋が置かれていることだけ。
「写真の日付、もう一回見せて」
「これ」
少年は日付を確認した。
「事故から三か月後……」
「その日、何かあったのかな」
少年はベンチに腰を下ろした。
目を閉じる。
けれど、何も思い出せない。
当然だった。
その日は事故のあと。
自分は、まだ何も覚えていなかった。
「……俺が知らない時間だ」
「でも、あの人はここに来てた」
「うん」
二人はベンチの周りを探した。
座面の下。
背もたれの隙間。
ベンチの脚元。
何もない。
「もう誰かに持っていかれたのかな」
彼女が言った。
少年は首を横に振る。
「分からない。でも……」
視線を落とす。
「写真を残した人なら、何か意味があると思う」
そのとき。
彼女がベンチの端に手を置いた。
「これ、傷じゃない?」
木の表面に、細い線が残っている。
少年が近づく。
以前見つけた印とは違う。
今度は文字だった。
『ここで待つのは、最後にする。』
「……最後?」
少年はその文字を見つめた。
写真の日付は三か月後。
つまり、この言葉が残されたのも、その頃。
事故から三か月。
その人は、何度もここへ来ていた。
そして、この日を最後にした。
「……どうして」
少年が呟く。
「どうして、最後にしたんだろう」
彼女は答えなかった。
すると、少年のスマートフォンが震えた。
知らない番号。
今度はメッセージではなかった。
一枚の写真。
駅の改札前。
その写真の日付は――
事故から三か月後。
「……これ」
少年は画面を見つめた。
写真には、ベンチへ向かう人物が写っている。
顔は見えない。
でも、手首には青いリボン。
「この人……」
少年の呼吸が止まる。
「待ってた人だ」
彼女が写真を拡大する。
その人物の手には、小さな紙袋。
そして、その反対の手には――
銀色のチャーム。
少年が持っているものと、同じ形だった。
「……どうして」
少年は自分のチャームを見る。
「俺が持ってるのに」
写真の人物も持っている。
二つある。
その事実に気づいた瞬間、記憶が戻った。
事故の前。
少年は二つのチャームを持っていた。
一つを自分が持ち、
もう一つを相手に渡した。
『これ、同じなんだね』
『うん』
『じゃあ、離れてても分かる』
『何が?』
『ちゃんと戻るってこと』
少年は目を開けた。
「……二つあったんだ」
「チャームが?」
「うん」
彼女が写真を見る。
「じゃあ、もう一つを持ってる人が……」
「今も持ってるなら」
少年は言葉を止めた。
「……あの人は、俺を探してる」
写真の端に、小さな文字があった。
『次に会う場所は、約束の場所ではない。』
その下。
『約束を終わらせた場所。』
「……終わらせた場所?」
二人は顔を見合わせる。
今まで探してきたのは、
約束をした場所ばかりだった。
駅。
公園。
歩道橋。
けれど――
約束を終わらせた場所なんて、まだ探していない。
少年は写真を拡大した。
そのとき、背景にある小さな看板に気づいた。
「これ……」
「何?」
「病院の名前」
写真の奥に、
病院へ向かう道を示す看板が写っている。
つまり、この写真は駅で撮られたものではない。
その人は、駅から病院へ向かっていた。
事故から三か月後。
何度も駅で待ったあと。
最後に向かった場所。
「……病院に行ったんだ」
彼女が呟く。
少年は黙っていた。
病院。
自分が記憶を失った場所。
そして、あの人が最後に来た場所。
「行こう」
二人は駅を出た。
その直後、少年のスマートフォンに
最後のメッセージが届いた。
『もうすぐ、君は思い出す。』
少し間を置いて、もう一通。
『あの人が最後に病院で言った言葉を。』
少年は画面を見つめた。
胸の奥で、何かが静かに動き始めていた。
そして
それは――
今まで一度も思い出せなかった、
事故の後の記憶だった。
コメント
1件
第97話まで読ませてもらいました…チャームが二つって、そんな意味だったんですね。『約束を終わらせた場所』って言葉が胸に刺さります。あの人がずっと待ってたんだなあって思うと切ない。病院で最後に言った言葉、すごく気になります。今日はここで終わっちゃうけど、続きが待ち遠しいです。クラリスさん、素敵な物語をありがとうございます。