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「眠りは浅い方で、早朝にでも勝手に目が覚めてしまうタチなんだが……久しぶりにスッキリした。環、おはよう」
「……おはようございます。よ、よく寝れて良かったですね。私は朝起きたら、びっくりしましたけど」
杜若様の顔を見れずに畳の縁を見てしまう。
ついでに指先で縁をカリカリと弾いてしまう。
「あぁ。済まない。昨日の夜環の顔を見に来て、そのまま眠ってしまった」
「私の顔を?」
なんで? と顔をあげると、杜若様も布団から体を起こして私の前へと佇まいを直された。
「仕事が立て込んでいて、顔一つ見せれなくて悪かった。昼からまた仕事だが、まだ時間はある。身支度を整えたあと、喫茶店にでも一緒に行こうか。環の好きなものとか、この二週間の出来事を聞きたい」
にこりと微笑まれて、ふと思った。
そうだ石蕗様や宇津木様達が、杜若様はこれから大変多忙を極めることになる。それを咎めないで欲しいと言われていた。
帝都の剣。杜若鷹夜様。誰よりも率先して前線に行くと教えて貰った。
だから私はそれに対して何も言うことはない。むしろ頭が下がる思いだった。
杜若様がお仕事を頑張っているその間に、座学や梅千代さんが勧めてくれた、お稽古を私なりに頑張ろうと思ったのだ。
──杜若様のご迷惑にならないように。
自分自身や力とも向き会えるように。
なのに、気を使わせてしまったと思った。
視線を上げて杜若様をちゃんと見る。
「私は大丈夫です! 私にそんなにお気遣いをしないで下さい」
杜若様は私の言葉にニコリと笑ったまま、何故か硬直した。
「顔を見に来て下さりありがとうございます。それで十分です。そうだわ。どうぞ、このままゆっくりと寝て下さい。私、すぐにこの部屋から出て行きますから」
喫茶店に行く約束を覚えていてくれた。
それだけで嬉しい。
喫茶店に行きたい気持ちはあるけど、ゆっくり休んで欲しい。
仕事が終わってから、落ち着いてからでいい。
またそう言う機会はあるだろうと思っていると、畳に置かれている手をきゅっと引っ張られて、とさっと布団の上に舞い戻ってしまった。
しかもそのまま、両手首を布団の上に縫い付けられてしまい。まるで杜若様に押し倒されたかのよう……って。
「な、なんで私は押し倒されているんでしょうかっ!?」
「……はぁ。何故通じないんだ……」
通じない?
なんのことだろう。
「人を押し倒していて、ため息ってなんなんでしょうかっ。杜若様、ひょっとしてまだ寝ぼけていらっしゃいますか?」
お茶でもお待ちしましょうか。
と、口を開こうとしたら──ぐっと杜若様の親指が私の唇にきゅっと触れた。
そのまま親指が口の中に入ってきそうで、思わず口を噤む。
そして紫紺の瞳にどう見ても苛立ちの影が見て取れて、胸がドキッとした。
「環。拗ねているのか。それとも本当に、俺に興味がまるでないのか?」
切な気に問われてしまい、なんでそんなふうに言われるか分からなかった。
口を開きたくとも、唇に触れている杜若様の親指を噛んでしまいそうで、しどろもどろで答える。
「そ、そんなことは、ありません」
「だったら──いっそ、このまま抱いてしまおうか」
「!?」