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레몬인
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そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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「……うめぇ。やっぱ半額シールが貼られたスーパーの弁当でも、白米を玄米に変えるだけで、急に健康的な社長のメシを食ってる気分になるな」
北海道、帯広市。
データ至上主義の罠から抜け出し、泥臭い配信スタイルを取り戻した翌日のお昼時。
俺は築三十年のボロアパートの四畳半で、ちゃぶ台に乗せた玄米弁当を平和にモソモソとつつきながら、昨晩の極彩色のスパチャの余韻に浸っていた。
「いやー、昨日は叫んだ叫んだ。やっぱり俺の居場所は、あの限界ギリギリの絶叫配信なんだよな……」
ドンッッ!!!!
「……へっ?」
俺が玄米を飲み込もうとした瞬間。
薄っぺらい壁の向こう側から、アパート全体を揺るがすような、鼓膜を破るほどの強烈な『打撃音』が響き渡った。
『……るせぇんだよ、昨日の夜中からよォ……!! ぶっ殺すぞ……!!』
壁の向こうから、隣に住む『本職』スレスレのコワモテのお兄様の、地を這うような重低音の怒声が漏れ聞こえてきた。
「ひっ……!!」
俺はちゃぶ台ごとひっくり返りそうになり、三万円のゲーミングチェアの陰にガタガタと震えながら隠れた。
『ルシフェル社長。心拍数の異常な上昇を検知しました。何かトラブルでしょうか?』
PCから、アシスタントの結愛(ゆあ)の声が響く。俺は慌ててマイクの音量を最小限に絞り、這いつくばりながら裏回線に囁いた。
「ゆ、結愛……っ。隣のヤバい兄ちゃんから、ガチの壁ドンと殺害予告を食らった……っ」
『当然の帰結ですね。昨晩の社長は、深夜一時に85デシベルを超える声量で「税金ふざけんな!」と約十五回絶叫していました。築三十年の木造アパートにおいて、これまで退去勧告や警察沙汰にならなかったこと自体が、確率論的に奇跡です』
「正論で殴るな!! どうしよう、このままじゃ俺、税金に殺される前に隣の兄ちゃんに殺される!!」
『引越しをご検討されますか? 株式会社インフィニティ・ワンの「本店所在地の移転登記」には、登録免許税として三万円、司法書士への報酬が約五万円、さらに……』
「待て待て待て!! 引っ越し費用に加えてそんな金まで飛ぶのかよ!!」
俺は頭を抱えた。法人化している今、簡単に夜逃げすらできない。
「だ、ダメだ……。引っ越しは無理だ。でも配信で叫ばないと会社が潰れる……っ! な、何か、この四畳半で防音できる魔法のアイテムはないのか!?」
『……一つだけ、現実的なソリューションがございます』
数分の検索の後、ジェミニ先生が画面に一つの商品をポップアップさせた。
「……【簡易防音室・段ボール製】?」
『はい。ヤマハなどの本格的な防音室は五十万〜百万円を超えますが、特殊な吸音段ボールを使用した組み立て式の簡易防音室であれば、約八万円で導入可能です。当然、会社の【経費(消耗品費)】として全額落とせます』
「八万……ッ! 痛い、痛い出費だが……命と会社を守る経費だと思えば……!!」
数日後。
俺の四畳半のボロアパートに、俺の背丈を優に超える巨大な段ボールの束が届いた。
「よし……。やるか」
俺は、腕まくりをした。
実は俺、昔ほんの少しだけ陸上自衛隊にいたことがあるのだ。それも、レンジャー部隊のような華々しい戦闘職種ではない。物資の管理や補給、テントの設営などを裏で支える【需品科(じゅひんか)】である。
「元・需品科の意地、見せてやるよ……っ! テントの設営と物資の組み立てなら、俺の右に出る底辺はいねえ!」
俺は、カッターとガムテープを手に、狭い四畳半で巨大な段ボールのパーツと格闘し始めた。
説明書を読み解き、吸音材の隙間を完璧に塞ぎ、強度を計算しながら手際よく組み上げていく。
一時間後。
「……完成した」
四畳半の部屋のど真ん中に、黒くて巨大な『段ボールの箱(電話ボックスサイズ)』が鎮座していた。
もはや部屋の半分がこの謎の黒い箱に占領されており、圧迫感が凄まじい。
俺はその箱の扉を開け、三万円のゲーミングチェアと、モニター、マイクを無理やり中に押し込んだ。
「せ、狭ぇ……ッ! なんだこれ、ちょっとした独房じゃないか」
足元では、飼い猫のヨモが「何だこの巨大な爪とぎは」と言わんばかりに、新品の防音室の壁でバリバリと爪を研ぎ始めている。
「あっ、こらヨモ! 八万の経費で爪研ぐな!」
俺はヨモを外に追い出し、防音室の扉をピシャリと閉めた。
『ルシフェル社長。音声テストをお願いします』
「あー、あー。本日は晴天なり。帯広市役所ぶっ壊す」
『……素晴らしいです。マイクの集音はクリアですが、外部への音漏れは約30デシベル(図書館の静けさ程度)にまで軽減されています。これなら、深夜に発狂しても隣人トラブルのリスクは極めて低いです』
「っしゃああ!! 勝った!! これで心置きなく税金の愚痴を叫べるぞォォ!!」
俺は、段ボールの城の中でガッツポーズをした。
だが、五分後。俺は重大な欠陥に気がついた。
「……あ、あつぃ……っ」
密閉された段ボール空間。そこに、稼働し続けるハイスペックPCの排熱と、四十歳のおっさんの体温。当然、エアコンの風など入ってくるわけがない。
「ゆ、結愛……。ここ、サウナだ。室温がすでに三十五度を超えてる……っ」
俺は、滝のような汗を流しながら、パンイチの姿で喘いだ。
『防音性と通気性はトレードオフです。熱中症による労災(代表取締役には適用されませんが)を防ぐため、こまめに水分補給を行ってください。それでは、本日の配信をスタートします』
「鬼ィィ!! 水分補給でどうにかなるレベルじゃねえぞこれ!!」
俺は汗だくになりながら、OBSの配信開始ボタンを叩いた。
「お、おうお前らァァ!! はぁ、はぁ……っ! 今日から俺の玉座は、この八万円の段ボールサウナになったぞォォ!!」
『wwwwww』
『和尚、顔真っ赤だぞwww』
『ついに大家に怒られたかww』
『段ボールに引きこもる社長www』
防音室を手に入れ、隣人の壁ドンの恐怖からは解放された俺。
しかしその代償として、毎晩「灼熱の段ボールサウナ」の中で己の命(水分)を削りながら叫び続けるという、新たな【物理的地獄】が幕を開けたのであった。
コメント
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あっ、やっと読んだぜこの話!もうね、元・需品科の意地で段ボール防音室を組み上げるシーンで「おおお…!」って声出たわ。笑いどころ満載なのに、ちゃんと「強さの理由」が設計されてる主人公のバックボーンが活きてるのが最高。でも最後の「灼熱の段ボールサウナ」で台無しになる感じ、社長らしすぎて笑ったww