コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
静かな夜。
だが、楓の鼓動は静まらなかった。
鏡の前でパーカーのファスナーを上げながら、彼女は自分の頬の蒼白さに気づく。
ーー熱がある。
けど……行かなきゃ。
「楓、無理するな」
背後からか声をかけたのは、忍装束に身を包んだむつるだった。
光を帯びた護符を指先で回している。
「代わりに俺がーー」
「ダメ。……あの子、ほのかが狙わてる。あの工場跡に、あいつらがいるなら……行くしかない」
楓の視線は、揺らがなかった。
けれど、その身体は、熱と痛みで限界に近づいていた。
【廃工場跡・潜入】
楓とむつるは、闇に溶けるように忍び込み、敵の気配を探る。
だが、潜入の途中、楓の足がふらりとよろめいた。
「楓!」
むつるがとっさに支えると、楓の額に触れた手が、その熱さに驚愕する。
「……お前、本当に行かせたくなかった」
「……ごめん。けど……」
「大切な人を……何度も失いたくないだけ」
その瞬間、天井から無数の鋼糸が降り注ぎ、2人は咄嗟に散開する。
「来たな、小娘ども!」
現れたのは、敵組織《黒連》の幹部・千種。
細身の体に艶やかな黒装束、鋭利な笑みを浮かべるその瞳は、血の匂いを孕んでいた。
【戦術・限界の先へ】
むつるが光術を放ち、千種の鋼糸を照らし出す。
だが、楓の術ーー《焔風》は思うように発動しない。
「楓……!」
膝をついた彼女の口から、血が滴る。
それでも楓は、唇を噛み締めて立ち上がる。
「動け、私の……火……!」
ーーその時だった。
どこからか風が吹き抜け、楓の羽織がふわりと揺れる。
赤いメッシュの髪が夜風に舞、楓の瞳に火が宿る。
「火は、命を燃やして生まれる」
「燃え尽きたっていい……守るべき人がいるなら――!」
《術:紅蓮烈火!》
突如、楓の手のひらから奔流のごとき炎が吹き出す。
千種の糸を焼き払い、空間が熱でゆがむ。
【戦闘後】
工場跡が燃え尽きるなか、楓は崩れるようにその場に座り込む。
むつるが駆け寄り、焦った様子で抱き起こす。
「楓……っ、目を開けろ!」
「……へへ、まだ……やれる……しょ」
そう呟いて、彼女は静かに気を失った。
【保健室】
数日後。
静かな保健室。
ほのかが楓の手を握っていた。
「……私、もう知ってる。
あの夜、私のために戦ったんでしょ?
だから――もう隠さないで」
その言葉に、うっすらと目を開いた楓が、微笑む。
「……じゃあ……これからは……味方でいて」