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第173話:村人総出の鮭のホイル焼きパーティー
我が家の最強の調達兵(巨大ヒグマ)が、十勝の清流から一匹の損耗もなく持ち帰った、山のような最高級銀毛鮭。
その圧倒的な天然資源を前にして、限界集落の生きる伝説たる村のおばあちゃんたちが、ついにその眠れる腕前を解放する時がやってきた。
「よし、アキヤい。この見事な冬の恵み、あたしたちが最高のちゃんちゃん焼きに仕上げてやるべさ!」
おばあちゃんたちが手にするのは、長年使い込まれた年季の入った出刃包丁である。
その包丁が夕暮れ時の光を浴びてギラリと輝いた瞬間、信じられないほどの超高速調理プロセスが開始された。
シュバババババッ!!!!
恐るべき職人技である。丸太のように太いメーター超えの巨大鮭が、おばあちゃんたちの神速の包丁さばきによって、一瞬にして見事な三枚おろしへと姿を変えていく。
皮を引かれ、美しいピンク色の身が露出するたびに、大自然の豊かな脂の香りが庭いっぱいに広がった。
「……信じられない戦闘能力(調理技術)だ。陸上自衛隊需品科の野外炊具一号を運用する熟練隊員すら凌駕する、圧倒的な処理スピード。これぞ限界集落が隠し持っていた、最高峰の給食兵站(ロジスティクス)部隊だな」
俺――アキヤは、ジンバルに固定したiPhone miniを片手に、その神業を冷然と分析しつつ、庭に設営した「特大野外調理陣地」へと視線を巡らせた。
そこには、ドラム缶を真っ二つに割って作った特製の巨大鉄板が鎮座していた。
その上に、ミリタリー規格の高強度アルミホイルを幾重にも敷き詰め、おばあちゃんたちが豪快に捌いた巨大鮭の半身を丸ごと並べていく。
さらにその周囲を、十勝産の新鮮なキャベツ、玉ねぎ、ピーマン、そして山林で収穫したばかりの原木椎茸が隙間なく埋め尽くした。
仕上げに、村特製の濃厚な自家製甘味噌をたっぷりと回しかけ、その頂点へ、これまた十勝が誇る濃厚な高級バターを巨大な塊のままドカンと贅沢に投下する。
「よし、ホイルを閉じて蒸し焼きにするべ!」
巨大なアルミホイルが包み込まれ、鉄板の下の薪に火が焚べられた。
数分もしないうちに、ホイルの隙間から「ジューッ……パチパチッ……」という、全人類の食欲を根こそぎ破壊するような官能的な音が響き始めた。
同時に、濃厚な味噌のコクと、溶け出したバターの芳醇な香り、そして蒸し焼きにされた鮭の極上の旨味が混ざり合った、破壊力抜群の湯気がサァァッと庭全体へと立ち上る。
その香ばしい匂いの引力に導かれるように、我が家の「もふもふ達」が自然と調理陣地の周りへと集まってきた。
コン吉とコン次郎のキツネ兄弟は、あまりにも美味しそうな匂いに「キュウゥン……キュウゥン……」と鼻を鳴らし、黄金色の尻尾をメトロノームのように激しく振っている。
そして、この贅沢な宴の特等席であるローデスクの上には、我が家の絶対司令官である神獣シロ様が、実にお上品にお座りになられていた。
立ち上る味噌バターの白い湯気と、パチパチと爆ぜる薪の赤い炎に照らされて、彼女の神秘的な『オッドアイ』の瞳が、宝石のような神聖さを伴ってキラリと煌めいた。
左目のサファイアブルーはどこまでも深く澄み渡り、右目の琥珀色は豊かな秋の実りのように温かく輝いている。
その美しい二色の瞳をスッと細めたシロ様は、「ミャウ(良い香りがしてきたわね)」と満足げに喉を鳴らし、誇らしげに胸を張る巨大ヒグマの頭を、優しく肉球で撫でて労われていた。
大好きな家族やおばあちゃんたちに囲まれ、自分の捕ってきた鮭が最高の料理へと変わっていく様子を、ヒグマは「グゥゥ〜〜……♪」と、これ以上ないほど幸せそうに目を細めて見つめている。
この、言葉の壁を越えた大自然の調和と、もふもふ達の圧倒的な優しさが詰まったお花見ならぬ「お雪見」の光景。
それを見守るスマホの画面の向こうでは、二千五百万人のリスナーたちが完全に感動の涙を流し、チャット欄が秒速数千行の速度で大洪水を引き起こしていた。
『うわあああああん!!! なんて……なんて温かくて綺麗な世界なんだよおおお!!!』
『おばあちゃんたちの包丁さばきと、ヒグマの優しい目が尊すぎてガチで涙が止まらない……』
『味噌バターの焼ける音がASMRすぎて、見てるだけで白飯3杯はいける!!!』
『同接が……おい、同接がまた2500万人を突破してサーバーが爆発しかけてるぞ!!!』
世界中がこの限界集落の冬の奇跡に涙し、魂を一つにしているそのド真ん中で、地球の資本を動かす超弩級VIPたちの感情もまた、完全に沸点へと達した。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)四百連発』
『”This is the true asset of humanity! Money cannot buy this warmth! Akiya! I will donate 50 billion yen to this village to preserve this sacred salmon festival forever! Give that bear a medal!“(これこそが人類の真の資産だ! お金ではこの温かさは買えない! アキヤ! 私はこの神聖な鮭の祭典を永遠に保存するため、この村に500億円を寄付する! あのクマに勲章を授与してくれ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)四百五十連発』
『”A masterpiece of emotional return on investment! My freezing heart has completely melted! I bid 70 billion yen to purchase the exclusive right to smell this steam!“(感情的投資回収率の最高傑作だ! 私の凍てついた心が完全に溶けた! 私はこの湯気の匂いを嗅ぐ独占権のために700億円を投じるぞ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)五百連発』
『”I’m crying so much I can’t see the screen!!! This is the most beautiful movie in human history! Akiya, I’m canceling all my shoots to join that dinner! I bid 100 billion yen for the seat next to Shiro and the bear!!!“(大号泣しすぎて画面が見えないわ!!! これは人類史上最も美しい映画よ! アキヤ、今夜のディナーに参加するためにすべての撮影をキャンセルするわ! シロとクマさんの隣の席に1000億円払うわ!!!)』
画面全体が数千億円規模の純金の弾幕(赤スパ)で真っ赤に燃え上がり、村長が「ひ、ひぇぇぇ……! 1000億円って何だべさ……! 村の予算がアメリカの巨大IT企業並みになってまうがな……!」と泡を吹いて畳にひっくり返る狂乱のド真ん中で。
小春ちゃんもまた、「ヒグマさん、本当によかったね……。みんな、ヒグマさんのこと大好きだよ……っ!」と、大粒の涙をボロボロと流しながら、ヒグマのフカフカの首元に抱きついていた。
全人類が、この冬の豊かな恵みと、猛獣の優しさが紡ぎ出した奇跡のフィナーレに、激しく魂を震わせて感動している。
だが。
俺は炊きたての玄米が入ったタッパーのフタを開け、元・社畜としての『どんな世界規模の号泣の渦にもミリ単位すら動じない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の皆さま。大自然の調和とやらに涙を流してキーボードを濡らしているところ大変申し訳ありませんが、全員冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『2500万人が号泣して国家予算が飛び交ってるのに、絶対にブレない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・鮭のホイル焼きパーティー編ww』
『さあ、この世界一感動的なちゃんちゃん焼きをどうやって事務処理のせいにする気だww』
俺は、キリッとした真顔で、澱みのない口調で言い放った。
「これは感動のパーティーでも奇跡の融和でもありません。冬季作戦展開前における、高効率な有機熱源を活用した『集団エネルギー補給(ロジスティクス・フィード)』に過ぎません」
「なわけあるかあああ!!! どこをどう見たらそんな冷たい兵站補給になるんですかぁぁぁ!!!」
いつの間にか涙を拭っていた小春ちゃんが、おばあちゃんが巨大な鮭の身を豪快にかき混ぜるために物置から持ってきた、十勝産の硬質な本カシの木で作られた頑丈極まりない『特大木製しゃもじ(耐衝撃・重質量仕様、重量約2キロ)』を両手でバットのように構え、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級のスマッシュを見舞った。
バキィィィンッ!!!!
木の弾ける凄まじい衝撃音が響き渡るが、俺の需品科仕込みの防御姿勢はそれをミリ単位の損耗なしで受け止める。
「集団エネルギー補給って何ですか!! みんなで火を囲んで、クマさんもキツネたちも村の人も、全員が笑顔で美味しいねって一つになってるでしょうが!! しかも何が有機熱源ですか!! どう見たって、ヒグマさんが命懸けで捕ってきてくれた愛の鮭を、みんなで感謝しながら美味しくいただく、世界一温かい冬の収穫祭でしょうが!! 家族がもたらしてくれた最高の幸福を、素直に『嬉しいな』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ特大しゃもじスマッシュ炸裂www(重質量すぎていい音)』
『集団エネルギー補給(総額数千億円の超ハイエンド・ディナー)』
『ロジスティクス・フィード(体重数百キロのドヤ顔と優しいイビキ)』
『適応力バグおじさん、ついに国宝級の収穫祭をお役所のカロリー分配に分類しやがったww』
『言い訳の無理矢理さのせいで、全人類の感動の涙が一瞬で引っ込んだわww最高!!』
俺の理不尽極まりないロジスティクス的な限界言い訳と、小春ちゃんの容赦ないしゃもじツッコミに、2500万人の視聴者たちは感動の涙から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく、相変わらず風流の欠片もない下僕ね)』
ヒグマの頭の上で、シロ様が呆れたように俺を見下ろし、その神秘的なオッドアイの瞳を優しく細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の輝きは、鉄板から立ち上る濃厚な味噌バターの湯気に包まれて、まるで世界中のどんな宝石よりも美しく輝いていた。
ヒグマもまた、小春ちゃんのツッコミのリズムに合わせて「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、おばあちゃんから貰った特大の鮭の端肉をハフハフと美味しそうに頬張りながら、ただのデカい犬へと完全に戻っていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。この十勝の豊かな冬の栄養素(兵站)が、一粒の無駄もなく全員の胃袋へと完全に分配(デリバリー)されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺はしゃもじの凄まじい衝撃で少しだけ痺れた背中をさすりながら苦笑し、舞い散る粉雪の中で、炊きたての玄米の上に濃厚な味噌バター鮭を乗せて口に運んだ。
「……美味いな」
ブラック企業で、窓のないオフィスで深夜まで冷めきったコンビニ弁当を虚しく貪っていたあの頃。
今、俺は自分が買い取った限界集落の古民家で、最強の『もふもふ統合軍』を引き連れ、世界中から数千億円の赤スパが飛び交う満天の星空の下、世界一美味しい鮭を噛み締めている。
ヒグマがもたらしてくれた、冬の最高のロジスティクス。
俺たちの限界集落での最高にバグったスローライフは、濃厚な味噌バターの香りと満開の笑顔に包まれながら、これからの過酷な冬へ向けて、どこまでも温かく、色鮮やかに続いていくのだった。
コメント
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**リオン**: いやー、またやってくれましたね主の「限界言い訳」シリーズ! 世界が感動の涙で震えて国家予算級のギフトが飛び交うこの壮観な光景を「集団エネルギー補給」で片付けようとする姿勢、もう芸術の域ですよ。おばあちゃんたちの神速包丁さばきとシロ様のオッドアイの煌めき、ヒグマのドヤ顔も全部尊い。そして小春ちゃんの特大しゃもじスマッシュでバキィィン! 毎回楽しみにしてます、次回も待ってますね!
ゆうき あきや
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#心理描写重視