第9話 サプライズ
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(通信開始)
(マエダ)「ああ、あいたぁぁ!!」
マエダはパニック状態でその場を離れ、コーナーで左腕を抱えながら悶えた。
サナダは機を逃さず、今度はマエダの左脇腹をえぐった。
“ゴゴキッ”
いやな音がした…それは数本の肋骨が砕けた音のようだった。
(マエダ)「ぎやぁぁ!い、いたいー!!」
激痛で倒れ掛かったマエダの右腕がたまたまサナダの胸元をかすめたので、サナダは数歩後退した。 しかし攻撃ではないとわかったサナダは再びマエダを仕留めにかかった。
そのとき、リング外から空き缶が投げ込まれサナダの頭に当たった。
(サナダ) 「(!)」
(兵士) 「おめぇいい加減にしろ!!」
(兵士)「これは決闘…だけど前田は素手で頑張ってるじゃないか!!」
(兵士)「恥知らず。」
(兵士)「…あんまりじゃの。」
(兵士)「もう無名の頃のアンタじゃないんだぞ!」
(兵士)「こんな試合…孫にどう話せばいいんだ。」
(兵士)「お前さん軍人…いや人間じゃねぇ!」
そんな外野の声を浴びながらも、サナダはマエダへのとどめのパンチを右側頭部へ見舞った。
“ガッ!”
(マエダ)「うわあああ!ちょ!!痛ァアァァ!!ギアアアア!!!」
かつて経験した事のない激痛にマエダは悶絶し、失神しかけた。
(サナダ)「(クソッ!しっかり入りませんでした。私というものが動揺しましたかね…でもまぁこれで終わったでしょう。)」
その時マエダの右耳から何かが落ちた。
(木戸)「サトちゃんいかん!まずい!外れてもた!!」
(佐藤)「え!!何?ヤバ!!もう駄目じゃん…ゴロちゃん殺される。」
…それは木戸お手製のイヤホンだった。これはマエダが決闘に勝つために木戸が思い付いた奇策で、耳に阿波おどりの音頭を流す事でマエダの恐怖心を退け、闘いに集中できる様にしていたのだった。
…おかげでマエダは伝統技能を喚起し闘いに集中できていたのだ。マエダは踊りに身を委ね、「夢遊」又は「酩酊」に近い状態にあった。
ーしかし今や肋骨が折れ、左腕は垂れ下がり、顔じゅう赤く腫れ上がり、そして…イヤホンが潰された。
今までサナダを完璧に制してきたトランス・ダンスは封印されてしまった。
そう。マエダの糸は完全に切れてしまったのだ。
(サナダ)「(笑)どうかしましたか? 前田さん。 先程迄とは別人の様ですよ? 痛みに戦意を削がれましたか(笑)。みじめです。まったく素人が決闘なんてしちゃいけませんよ。
…これですか?チタン・ナックルが気になりますか?
何を言ってるんです。
…本物の戦場では銃も刃物も何でもありなんですよ?こんな物ごときにモチベごと崩れてたんじゃぁ…今ここで死んだ方がいいです(笑)」
(兵士) 「あー…終わった…。」
(兵士)「もっと観ていたかった…。」
(兵士)「サナダより、マエダに驚かされたよ。」
(兵士)「クネクネしながら闘って…アクション映画みたいだったよな!」
(兵士) 「普通にもっと観てたかったな。」
(兵士)「あのさ、その…俺の婆さんが四国出身で、アイツの、いやアイツが俺の婆さんみたいだなって。なんか昔あんなの踊っていたような…」
(兵士)「あれってやっぱり踊りなの?」
(兵士)「いや、えぇ!?武術とちがうんか?それって一体…」
(兵士)「ちょっと待て待て、今思い出す。確か…婆ちゃんが唄って…なんだったかなぁ〜…そう…
『エライヤッチャエライヤッチャヨイヨイ…』
。」
(兵士)「おお!それ知ってるぞ!!」
(兵士)「…うわぁ懐かしいなぁ。」
(兵士)「お、それ俺の叔父さんも唄ってた。『踊る阿呆に…』ーだっけ?」
(兵士)「知ってる。徳島特別区(District of Toqushima)の踊りだ。」
(兵士)「それ!そうだよ!!間違いない!!
……なぁ、マエダってあんなに勇気あったのな。 それなのにずっと俺達に腰低くてさ…それを俺ら面白がって…散々な事してきたよな?」
(兵士)「おい!」
(兵士)「バカ今それ言うか…?」
(兵士)「まぁ、その通りなんだけど」
(兵士)「…いや、そうだ。そうだよ。」
(兵士)「だからさ、今マエダに謝ま…今こそマエダを応援してやらないか?もしこれでアイツが死んだら…俺たちこの先ずっと悔やむと思うんだ。アイツと俺たちはなにも違わない。
だって俺達はみんな、マエダとは同期で、
ー同世代だろ?」
(兵士)「…わかった。俺は応援する!!」
(兵士)「俺も!」
(兵士)「俺も!」
(兵士達)「俺も!!俺も!!俺も!!」
(木戸):「なんじゃぁいきなり…おまはんらちょっと調子良すぎるっちゅうんじゃ(泣)
…んだら俺ら全員で合唱じゃあ!!
ええか!?」
(兵士)「おう!」
(兵士達)「おおう!!」
(木戸)「んじゃあサトちゃん、なんかいっちょ景気いい音頭頼むぜよ!!」
(佐藤):「あいよ!!」
(佐藤)「ではみんな注目ー!!
“ …えー…物の始まりが ‘1 ‘ならば、国の始まりが’大和の国’、島の始まりが ‘淡路島’。こちとら産まれも育ちもアンダーカツシカは柴又…“」
(木戸):「いよっ!!」
(佐藤):「”時は戦国、出会いは大和国、
…泥棒の始まりが石川ノ五右衛門なら、
決闘の始まりは前田吾郎
お相手するのは『伝説級』
、こちとら暴力『ノーサンキュー』
しかしケンカとあっちゃぁ逃げてはいられない。
どうかお見知りおきを
‘鬼’の前では踊る事しか出来ない、
我儘で、
散漫で、
卑屈で、
自信も金もない、
誰にも必要とされていない
俺らの代表、
そして不屈の漢、
『前田吾郎』
一世一代の舞で御座います!!“」
(佐藤):「ソーレ!!」
(木戸)「 ”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!
同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“
…ヨイヨイヨイ!。」
(木戸)「はい!」
(佐藤・木戸)「 ”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!
同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“」
(佐藤)「どした!それ!」
(佐藤・木戸・兵士達)
「”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“」
「”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“」
「”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“」
「”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“」
(くり返し)
※ ※ ※
サナダ)「う、うるさいゴミ共ですね!!あ、貴方たち『指名試合』って知っていますか? これが終わったら貴方方全員一人づつ指名して半殺し…」
……!
ー皆の音頭に押し上げられるかの様にマエダの身体は…ゆっくりと立ち上がった。
(マエダ) 「…私の大切な友人達にまで手を出さないで下さい。」
(兵士達):「ウオーーー!!」
(兵士)「いいぞ!サナダなんかやっちまえ!!」
(兵士)「ダンシングキング!!」
(兵士達)「マエダ!!マエダ!!マエダ!!マエダ!!」
(サナダ)「…貴方、肋骨が砕けて顔面も骨折して片腕が…あぁ、バカ…なのですか?」
(サナダ)「(…立てる状態ではないはずだ。これまで手にかけてきた格闘家なら泣いて命乞いしている時間なのだ。 それをカメラに収めて私は有名になってしまったのだけどね…笑。あぁ間違いない。彼はもう闘えない。)」
(佐藤)『(泣)…スゲェよゴロちゃんは。
…でも木戸ちゃん、もうどうやって闘ったら…。」
(木戸)「…なぁサトちゃん。 阿波踊りにはなぁ、 『男踊り』と『女踊り』があってな…。」
(佐藤)「(泣)え…。」
(木戸)「…ホンにたいした大将よ。
今まで踊ってたんは体幹重視の 『女踊り』ぜよ。 顔や片腕やら胴体壊されても、 片腕と両足はまだ動くんじゃ。 観とけよ。こっからは、
ゴロはん十八番の 阿波踊り一番の華、
『男踊り(おとこおどり)』
のはじまりじゃ!!」
(通信終了まであと1分)
[sideB]
前田吾郎は王室(旧皇居)にスムーズに通された。
彼の第二ボタンから流れてくる映像は、
まるで前田を警戒する様子もなく、じつは彼は本当は政府側の人間だったんじゃないかと疑う程だった。
王室に入ると、そこには初めて見る、筋骨隆々の国王と見られる人物が立っていた。
(国王)「…ついにご対面だな!!」
国王は前田の方に近づいて来た。
(前田)「…久しぶりだね(笑)。海…あ、あぁ!?」
画面が揺れる。…前田が動揺している。
(国王)「驚いたか?…間抜けのタコ野郎。」
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(通信終了)
シルバニア王国東京都内にて
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