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最初に変わったのは、
若井の立ち位置だった。
今までは、僕の隣に「並んで」いた。
でもある日から、一歩前に立つようになった。
「大森に聞くなよ 笑」
教室で、誰かがまた小さく笑ったとき。
若井が、はっきり言った。
声は聞こえない。
でも、その場の空気が一瞬で変わったのが
僕にも分かった。
「聞こえないだけだろ」
若井は、誰も見ないような目で言った。
口元を見て、僕は判断する。
「無視してるわけじゃない」
誰かが何か言い返そうとしたけど、
若井は一歩も引かなかった。
その背中が、やけに大きく見えた。
それからだった。
物がなくなることは、なくなった。
後ろで囁かれる声も、減った。
完全になくなったわけじゃない。
でも、若井が近くにいるだけで、空気が変わった。
僕は、それが怖かった。
(これ以上、近づいたらだめだ)
そう思うのに。
「今日、帰り一緒でいい?」
若井がそう言ったとき、
僕は一瞬、言葉を失った。
「……どうして」
「なんとなく」
理由を言わないところが、若井らしかった。
並んで歩く。
距離は、肩が触れそうで触れないくらい。
若井は、ゆっくり話した。
口の動きが、はっきり分かるように。
僕は、聞こえなくても、分かるふりをやめた。
分からないところは、首をかしげた。
すると若井は、
もう一度、同じ言葉を、丁寧に口にした。
それだけで、胸が苦しくなった。
ある日、僕は耐えきれずに言った。
「……僕といると、面倒じゃない?」
若井は、足を止めた。
「なんで」
「聞こえないし」
「……」
「僕のせいで、色々言われるし」
若井は、しばらく黙っていた。
それから、
僕の目を、まっすぐ見た。
「守るの、嫌じゃない」
その言葉は、
音としては届かなかった。
でも、表情で、全部伝わった。
その日から、二人の距離は、はっきり変わった。
昼休みは、自然と隣。
帰り道も、いつの間にか一緒。
若井は、僕の「聞こえない」を前提に
世界を作った。
大げさに気を遣うわけでもない。
ただ、置いていかない。
僕は、少しずつ、心の膜を緩めていった。
そして、ある放課後。
教室には、二人だけだった。
夕日が差し込んで、机の影が長く伸びている。
若井が、真剣な顔で、僕の前に立った。
「……」
ゆっくり、口が動く。
僕は、逃げなかった。
ちゃんと、見た。
「好きだ」
その言葉だけは、
聞こえなくても、はっきり分かった。
僕の喉が、きゅっと鳴った。
「……僕は」
一度、目を伏せて、
それから、正直に言った。
「好きになると、聞こえなくなる」
若井は、頷く。
絶対に、引かなかった。
「それでも?」
若井は、頷いた。
「それでも、好き」
しばらくの沈黙。
若井は、少し笑った。
「聞こえなくても、俺が近くにいればいい」
その言葉は、
音がなくても、温かかった。
帰り道。
僕達は、自然に手を繋いだ。
特別なことは、何も起きなかった。
でも、世界は確かに変わった。
聞こえない声。
でも、届く気持ち。
僕は初めて、
この病気を抱えたままでも、
誰かと繋がれると思えた。
静かな世界の中で、
若井は、確かに、そばにいた。
コメント
2件
泣いちゃい🥹 ♥️さんが💙さんに守られてる。 例え 声が聞こえなくても 守られてるのがわかる。 💙さんは♥️の一番の味方。 そのつぎの味方は💛ですね。 💙💛は最強の味方ですね!!