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黒薔薇の公爵令嬢 ―呪われし血脈と廃国の予言―

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黒薔薇の公爵令嬢 ―呪われし血脈と廃国の予言―

15 - 第15話 喰らう影、裂かれる真実

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2025年11月15日

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 イザベルの瞳が夜の深淵のように染まりきった瞬間、 拷問室の空気が、まるで別次元へと変わった。


 黒い〈領域〉が彼女の足元から静かに広がり、

 押し寄せる魔力の流れに、アレクシスもレオンも圧倒されて息を呑む。


「イザベル……これが、君の……」


「……大丈夫。制御できてる」


 イザベルの声は静かだった。

 だがその奥に、確かに“別の何か”が同居している気配がある。


 ローゼンバルドは一歩も退かず、むしろ恍惚とした表情さえ浮かべた。


「見事だ。

 その姿こそ、〈魔神の鍵〉が本来持つべき器……!」


「黙りなさい」


 イザベルがひと振り手を払うと、黒い線が空を切った。

 それは刃でも魔術でもない──“影が形を持ったもの”だった。


 床石が深々と抉れ、石片が飛び散る。


 アレクシスが叫ぶ。


「イザベル! 無茶は──」


「アレク、下がっていて。

 ここは……私が終わらせる」


 彼女の背に黒炎がゆらめき、影が獣の形を成して蠢く。


 ローゼンバルドが両手を広げる。


「来い、《影喰らい(シャドウイーター)》!」


 彼の背後から溢れた黒い霧が一か所に凝縮し、

 巨大な影の怪物となって吠えた。


 闇と闇がぶつかり合い、拷問室は震えた。




「イザベル、避けろ!」


 影喰らいが高速で迫る。

 複数の腕を伸ばし、獲物を捕らえようとする。


 イザベルは逃げず、指を鳴らした。


「……跪きなさい」


 たった一言で、黒い衝撃波が放たれた。


 影喰らいの身体が捻じ曲がり、床に叩き伏せられる。

 影同士なのに、格が違う。

 ローゼンバルドの顔が驚愕に歪んだ。


「馬鹿な……! 鍵の覚醒が、ここまで……!」


 イザベルが歩くたび、影が揺れ、鎖のように床を這う。


「あなたの影……わかるわ。

 これはあなたの魂を歪ませた呪い。

 本来は、こんな姿じゃなかったはず」


「黙れ!」


 ローゼンバルドが魔術陣を展開し、闇の槍を数十本生成する。

 黒い槍が一斉にイザベルへ飛んだ。


 しかし──


「無駄よ」


 影がじわりと伸び、槍をすべて飲み込んだ。


 まるで底なし沼。

 触れた途端、魔力が消失する。


「これは……喰われている……?」


「あなたの影より、私の影の方が“深い”」


 イザベルが静かに掌を向けると、

 影喰らいの身体が黒い糸のように引き裂かれ、霧となって消滅した。


 拷問室に、沈黙が落ちる。





「……どうやら理解したようね、ローゼンバルド卿」


 イザベルが近づくと、ローゼンバルドは硬直した。


「お、お前……何者だ……!

 ヴァロワ家にこんな……恐るべき血が……!」


 その問いに、イザベルはゆっくりと言葉を選んだ。


「さっき……聞こえたの。

 私の中にいる“もうひとつの声”が」


──おまえは王家ではない。

──“魔神の因子(いんし)”を受け継いだ、禁忌の血脈。


「……私の中の“影”は、呪いでも力でもなく──血なんだわ」


 アレクシスもレオンも息を止めた。


「まさか……ヴァロワ家にそんな血が……?」


「話していないだけよ。

 公爵家は代々“影を封じる器”として王家に仕えてきた。

 本来は……私みたいな存在が生まれないように」


 イザベルが手を握りしめると、影が静かに揺れた。


「でも、私は生まれてしまった。

 『影の継承者』として」


 ローゼンバルドは震えながら後ずさる。


「ふ……ふふ……!

 ならば、やはりお前は“鍵”だ!

 魔神を復活させる、唯一の鍵!」


 その瞬間、イザベルの影が床を覆い、ローゼンバルドの足を掴んだ。


「違うわ。

 私は──“封印する鍵”よ」


「――ッ!?」


 影が重くのしかかり、ローゼンバルドは地に押し倒された。


「あなたはこの王国を混沌に落とそうとした。

 その罪……贖わせてもらうわ」


「や、やめ──」


「……眠りなさい」


 影が音もなく奔り、ローゼンバルドの意識を闇に沈めた。

 彼は二度と、闇の術を使えない身体となった。


 アレクシスが駆け寄る。


「イザベル……大丈夫なのか?」


 彼女はゆっくり振り返り、微笑んだ。


「ええ……アレクが来てくれたから」


 その微笑みには、黒い気配はなく──

 ただ、彼女本来の温かさが宿っていた。


 だがアレクシスは、その瞳の奥に

 “まだ目覚めきっていない影”を感じ取る。


(……彼女は、どこまで堕ちてしまうのだろう)


 恐怖ではない。

 ただ、彼女の未来を案じる痛みだった。

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