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・【21 長谷さんとオレオレ詐欺犯】


僕は少し、この事件に対して思うことがあった。

もし僕の読みが合っていれば、と思ったタイミングで、長谷さんは郵便局へ入っていった。

近くで十分弱ほど待っていると、長谷さんは郵便局から出てきた。お金は引き出して、バッグに入れているのだろう。

あとは長谷さんが指定の場所に行くだけ、と思ったタイミングで長谷さんはとある人に話し掛けられた。

あの人がオレオレ詐欺犯だろうか、と思っていると、長谷さんの大声が聞こえてきた。

「それは分かってる! だから捕まえに行くんだ!」

あんまり大きな声で作戦を言ってしまっては、と思ったけども、まあそれでいいとも思う。

僕は長谷さんの近くへ行った。

「佐助くん! まだ隠れていなきゃダメだろ!」

明らかにヒートアップしている長谷さん。

僕は長谷さんに話し掛けた人へ、話し掛けた。

「もしかするとオレオレ詐欺にかかっているから止めようとしてくださったんですか?」

「はっ、はい、そ、そうです……でも様子がおかしいようで……」

怯えるように震えるその女性。女子高生くらいの年齢だろうか。

「でも何か、はい、大丈夫そうなので、私、行きますね……」

と、どこかへ去ろうとするその女性の腕を僕は掴んだ。

「あっ、何ですか……」

その女性は戸惑った瞳で僕のほうを見てきた。

だから僕はカマをかけることにした。

「貴方がオレオレ詐欺犯ですね」

「「えっ!」」

長谷さんとその女性はユニゾンしたが、それは全く毛色の違う「えっ!」で、長谷さんは何だか分からず大きな声で叫んだ「えっ!」で、その女性は核心を突かれたような「えっ!」だった。

僕は捲し立てる。こういう時は攻め切ったほうがいいのだ。

「貴方はオレオレ詐欺の電話を掛けて、引っ掛かったところを止めているようですね。ヒーローシンドロームでしょうか? それとももしかすると演技の練習ですか? 今僕は知り合いの警察に連絡をしました。貴方の声紋と電話での声紋を調べて、もし一致してしまったら、貴方は偽証罪に問われることになるでしょう」

実際は偽証罪になるかどうかも分からないし、そもそもあの家の電話に録音機能がついていたかも分からない。でも攻める。一部本当のことを言いながら攻める。それがボロを出させるポイントだ。

その女性は一歩たじろいて、額から汗を吹きだし、明らかに慌てている様子だった。

このタイミングで、と思ったジャストタイミングで、黒岩由梨さんがやって来た。

「佐助くん、オレオレ詐欺犯がいるかもしれないとの連絡だが、本当か?」

長谷さんが黒岩由梨さんへ、

「アンタは誰だ?」

黒岩由梨さんは警察手帳を見せてから、

「別の事件で一緒になった警察官の黒岩由梨だ」

と言うと、そのオレオレ詐欺犯だと思われる女性は引きつった頬になった。

僕はそれとなく、それっぽいことを言う。

「今ならまだ立件されていないから、今本当のことを言えば助かる可能性もある。警察署に行く前に言わないといけないんだ。君、オレオレ詐欺犯をしているよね?」

「警察署に行く前に……」

動揺している表情を見せるその女性。

多分警察署に行く前に言えば大丈夫とか、そんなことはないと思うけども、黒岩由梨さんもその場に合わせて黙っている。

するとその女性は観念したように、声を絞り出すように、

「私が、オレオレ詐欺犯を演じて、最後にオレオレ詐欺に掛かった人たちを止めていました……」

すぐさま長谷さんが叫んだ。

「何でそんなことをっ!」

その圧に俯いてしまったその女性に、僕は、

「多分、演技の練習とかですよね、いやヒーローシンドロームの可能性もありますが、それならばもっと大々的に、注目を浴びた状態で助けるはずですよね。こう何度も繰り返すということはきっと演技の練習をしていたんじゃないんですか?」

「すみません……すみません……」

そうブツブツと呟く女性に黒岩由梨さんは、

「まあ初犯というか、まだ何も起きていないのならば、だ。とりあえず近くの喫茶店に行くか。えっと、おじいさん」

「長谷だ」

「長谷さんは一旦家にお帰りください。ここからは私と佐助くんでやりますので。なっ、佐助くん」

そう言って僕の肩を組んできた黒岩由梨さん。

急なことでビックリしたけども、

「はい」

と応えると、長谷さんは、

「まあ佐助くんがその場にいるなら安心だ。ワシの気持ちを代弁してくれるだろう。まあ代弁もしなくていいがな。佐助くん、任せたぞ」

そうやって信頼してくださっていることがすごく嬉しい。でも僕がいて何になるんだろうとも思った。

「じゃあ君、佐助くん、喫茶店でお話をしようじゃないか」

僕と黒岩由梨さんとその犯人の女性は、近くの喫茶店の奥のテーブルに座った。

その女性は今にも泣き出しそうな声で、

「すみません……すみません……」

と呪文のように呟いた。

黒岩由梨さんは少々呆れたように、

「女優だか声優だかになりたいのかもしれないけども、前科がついたら難しいと思うよ」

「すみません……すみません……」

「君のような危険な存在を野放しにしていくことはできないんだ。場合によっては何らかの保護もしなければならない」

「イヤ! わっ! 私は!」

顔を上げて黒岩由梨さんのほうを見たその女性。

黒岩由梨さんも困ったといった表情で僕のほうを見た。

つまり僕に何らかの案を求めているといった感じだった。

多分まあいわゆる奉仕活動、ボランティア、かつ、この女性の特性に合った方法といった感じか。

それならば、

「子供のために紙芝居を行なうということはどうでしょうか?」

それにすぐさま反応したのが、黒岩由梨さんだった。

「それはいいね、演技の練習をするなら目の前にお客さんがいたほうがいいだろう」

犯人の女性はおどおどしながら、僕と黒岩由梨さんの表情を交互に見る。

これは演技というよりも本当に何を言えばいいか分からないといった感じだ。

いやこれが演技ならすごいけども。

僕は助け船のつもりでこう言った。

「とにかくボランティアで紙芝居をすれば、今回の事件は帳消しといったことでよろしいですか? 黒岩由梨さん」

黒岩由梨さんはアゴのあたりを触りながら、

「まあそうだなぁ、まだ立件もしていないしなぁ」

と言ったところで犯人の女性が、

「はい! やります! やるんで許してください!」

これで解決かなと思っていると、黒岩由梨さんが、

「いいや、罪に許すも許さないもない。罪は許されるものではなく、償うものなんだ。罪の分、しっかり紙芝居やってね」

と重く語った。

その言葉に犯人の女性はズンと肩を落とした。

でもその分、しっかり響いているようだ。

じゃあここからは建設的な意見ということで、

「紙芝居を持ってそうな人は心当たりがあるので、あとで一緒にそちらへ行くとして、まず貴方のお名前をお聞かせください」

「私は……田沼涼子……」

黒岩由梨さんはメモ帳を出しながら、

「一応連絡先は控えさせてもらう」

と言い、田沼さんは住所から電話番号まで書いた。

それを受け取った黒岩由梨さんは、

「じゃあそういうことで。あとは任せるよ、佐助くん。今日は非番だったからね」

そう言って伝票を持って、レジに行き、そのまま喫茶店から出て行った。

それじゃあこちらも、といった感じに、

「じゃあ紙芝居を譲ってもらえそうなところに行こうか」

と言いながら僕が立ち上がったところで、田沼さんが身を乗り出して僕の腕を掴み、

「何で分かったの……」

「オレオレ詐欺犯の犯人ということ?」

と僕は答えながら、また座ると、田沼さんが、

「私の演技は完璧だったはず。それに実際に止める時も男装したりしていたのに」

「実際問題、そんなに止める人っていないんですよ。ニュースでは止めた人のニュースが流れますが、大半は止められず騙し取られているんです」

「そういうもんなんですね……」

「多分そうだと思います」

「多分……」

俯きがちの田沼さんへ、

「紙芝居、やっぱり嫌ですか? オレオレ詐欺犯のような演技じゃないと本当の演技じゃないと思っていますか?」

「紙芝居は嫌じゃない……」

「それなら良かった。やっぱりイヤイヤやるよりも、ちょっとくらいはやる気があったほうがいいですもんね」

「でも人なんて集まるかな……」

「そういう時はサクラでも使えばいいんじゃないんですか? 僕、知り合いのお子さんがいるので、サクラやってもらおうと思っています」

「騙しじゃないですか……」

「田沼さんのやったオレオレ詐欺犯よりはマシですよ。あとはそうですね、水飴のようなモノも用意しましょうか。今の子供が受け取ってくれるかどうかは分かりませんが」

「結構いろいろ言いますね……」

「勿論。オレオレ詐欺犯なんて絶対ダメですからね、そのあと止めるにしても」

「はい……」

改めて立ち上がると、田沼さんも立ち上がり、一緒に喫茶店を出て行った。


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