クロクロで【星渡りの古森】に入る条件の一つに、【森の命水】と【森の宝玉】というアイテムをエルフに譲渡するといったものがあった。
【森の命水】とは【世界樹の雫】の下位互換で、あらゆる傷を一瞬で癒す。【森の宝玉】は【世界樹の果実】の下位互換であらゆる毒や病、呪いを朽ちらせる。
シーズン4当時ではどちらも非常に入手困難で、究極のレアアイテムと言っても過言ではなかった。
そんな二つのアイテムだが、シーズン8の時に一定の条件をクリアすると一瞬で大量生産できると判明したのだ。
その条件は主に二つ。
世界樹にまつわる【神象文字】の正しい組み合わせを入手していること。そして4人以上のエルフ王、もしくはエルフ女王が集っているといった条件だ。
一つ目の条件を満たせる転生人は多くいたけど、二つ目が至難の業でエルフとよほどの友好関係を築いてないと実現できなかった。
さて、奇しくも今の俺はそのどちらの条件も満たしている。
そんなわけで、この時代では貴重な【森の命水】も【森の宝玉】も大量にプレゼントできるって寸法だ!
これでみんなの俺の覚えもいいよね!
「永きに君臨するは——」
「む? レムリアよ、どうかしたのか?」
「レムリアちゃんったらみんなが集ってくれて嬉しいのかしら?」
俺が中空に【神象文字】を描き始めると、パパンとママンを皮切りにハイエルフたちが注目してくれる。
「古代樹のそよめき、封樹のゆらめき、世界樹のさざめきに耳を傾ける君主のみ!」
「ん……レムリア……一体、何を?」
「古代樹と意思を……いえ、この気配はもしかしてレムリアちゃん!?」
「大いなる恵みの雨、王杯の渇きを癒し、満たす————【古き王たちの宴】」
『神象文字』を結ぶと、文字そのものが周囲の古代樹へと吸い込まれてゆく。そして不意に木々の葉がざわめき、雫をポタリと落とした。
次第にポツリ、ポツリと水滴は落ち続け、ついには通り雨のごとくハイエルフたちを濡らした。
中でもひと際強い輝きを放つ雫は、宴会のテーブルに着地するや否やヌメリと姿を変えて荘厳なゴブレットになっていた。もちろん、中には【森の命水】がたっぷりと注がれている。
「こ、これは……姫君が……!? いや、しかし我々の色力も吸われている……?」
「なんたることか……もしや姫君は世界樹への意思が通じておられるのか!?」
「しかし世界樹は5000年前に朽ちたはずです……!」
「じゃあ、今起きている現象はどう説明をつければよいのじゃ!? 待て、次々と現れる美しき杯に何かたゆっていますぞ!?」
「どうやら【森の命水】のようだ」
「間違いありませんね……レムリアちゃんはやっぱり大天才よ……!」
パパンとママンがゴブレットの中を一舐めして断言すると、ハイエルフたちはさらにざわめく。
「【森の命水】……失われたエルフの秘薬ですな……」
「新しく製薬することは叶わず、厳重に保管されておりますが……数は極少ですよね……」
「それをいとも簡単に!? もしや姫君は我々に下賜されたのですか!?」
「葉より滴り落ちる黄金色の雫……もはや恵みの雨ではありませんか!」
よしよし、みんないい反応だ。
さらにもう一つ、サプライズ!
「永きに詠われるは——黄金樹のきらめき、時空樹のときめき、世界樹の色めきを眼に映す君主のみ」
ハイエルフたちの色力が周囲の古代樹と共鳴し、さらなる緑の奇跡を起こす。
「森の宝玉を身ごもり、子々孫々の血脈を守護する————【古き女王たちの星粒】」
木々には多くの星粒が実り、それらはポロリポロリと俺たちに降り注ぐ。
まさに星々のシャワーの輝きを浴びるエルフ王と女王たち。
「これは……【森の宝玉】、ですな……」
「姫君は我らの子らが毒されぬよう、呪われぬようにと案じておられる?」
「まだお生まれになられてまもないというのに……我らへの惜しみない慈愛! そして我らの想像もつかぬ叡智をお持ちだ!」
「なんと、なんと、いと気高き御方か!」
よし! いいぞ!
俺って元々エルフとかじゃないから……何かの拍子に鈴木徹男だとバレて『無断で【星渡りの古森】に入ってるやんゴルァ』ってなっても、【森の命水】と【森の宝玉】をたくさんあげたよね?
古森に入る条件は満たしてるって言い訳がきくよね?
こういう不安はぜーんぶお掃除いたします!
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