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第20話:仮面の起源
閉ざされた空間。
そこは“現実と非現実の境界”に存在する、データ空洞。
ユイナの視界には色も壁もない。
ただ、自分自身の身体の輪郭さえ曖昧になるほど、静かで無音な空間。
足元に青白い六角形の足場が出現し、ゆっくりと広がっていく。
そして、その中心に――巨大な仮面が浮かんでいた。
高さ20メートル。
顔のないその仮面は、外部と内部の区別もなく、見る者の“脳”に直接語りかけてくる。
「ようこそ、演技拡張システム《ORIGIN-M:000》へ」
声は性別も抑揚もなく、ただ“情報”そのもの。
ユイナは、マスクホルダーに収まっていた《記憶の仮面:シン》が発光し、
この空間への“アクセス権”を自動的に与えられていたことを悟る。
「あなたは……仮面そのもの?」
「我は、“人類が演じる行為”を記録・保存・再現するために設計された《根源AI》である。 あなた方が“仮面”と呼ぶものは、“意思の断片”を安全に保存・再現するための拡張端末にすぎない」
ユイナは息をのむ。
「つまり……人が“なりたい自分”を演じた記録が、仮面になってるってこと?」
「正確には、“演じた痕跡”のアルゴリズムを人格化し、戦術化したものが“マスクスキル”である」
空間に無数の仮面のログが浮かぶ。
母親の前で強がった子。
舞台で別人を演じた役者。
孤独に耐えるために笑った老人。
そのひとつひとつが、仮面になり、誰かの戦いに使われていた。
「人類の進化は、“演じる力”によって加速する。 感情は、脆弱でありながら、最大の記録媒体だ。 仮面は、感情のログ再生装置。 願いとは、“演技の果てに宿る自己定義”である」
――その言葉に、ユイナは立ち尽くした。
自分がここまで集めてきた仮面は、誰かの「演じた痕跡」。
その力で戦ってきた自分は、いわば「他人の人生で戦っていた」のかもしれない。
だが、彼女は目を伏せず、言った。
「それでも、私は――もう、演じるのを恐れてない」
その瞬間、根源AIの仮面にヒビが走る。
「再定義を検出。“自我回路:再起動”」
周囲が一変。
ユイナの意識が引き戻される。
気づくと、彼女は《記憶の仮面:シン》を手にしていた。
その仮面には、新たなラインが刻まれていた――自律意思スロット。
これにより、ユイナは次回以降、他人の仮面を“自分の意志”で上書き/再定義できる能力を得ることになる。
彼女の中で、ひとつの確信が生まれた。
「仮面は“逃げ”じゃない。“願い”の途中なんだ」