コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
景観を重視したためか、その高速道路は周りに外壁が無く、海が見えるようになっていた。海の上を走ることが出来る高速道路。その高速道路で、爆発が起きた。
所謂、自殺で。
「……かっ、うっ…………」
間一髪で、直撃は防げたもののそのあまりの威力に吹き飛ばされ、俺は高速道路の上から落ちそうになっていた。何とか粉々に砕けたコンクリートを握っているが、今にも崩れてきそうで、改めて自分が命の危険にさらされているのだと実感する。
(ッチ……腕が。さっきの爆発で全身打ったせいか)
先ほどの爆発でかなりの距離を吹き飛ばされ、何度も地面に打ち付けられたせいか、腕に力が入らなかった。それも、片手で掴んでいるため、これ以上ぶら下がっていれば確実に力尽きて落ちるだろうと。そんな腕力は俺にはない。
それにこの高さから落ちたらかなりのものだろう。それこそ、全身強打じゃすまされない。
そして、近くに来ていた神津も巻き込まれたようで、足を引きずっているのが見えた。
「春……ちゃん」
神津も相当ダメージを負っていて、今すぐにでも治療が必要な状態だった。神津ももう限界なのか、手を伸ばしても届かずにいた。必死に手を伸ばすが、届くわけもなく、ただ宙を掻いているだけだった。
そして、とうとう握っていたコンクリートがぼろりと壊れ、落ちると目を閉じたときパシッと音が響き俺の腕を誰かが掴んだ。
「おい、死ぬなよ。お前が死んだら誰が神津の面倒みるんだよ」
「たか……ね?」
悪態をつきながら、何処か余裕そうな笑みを浮べ、俺の腕を掴んだのは高嶺だった。先ほどまで遠くにいたはずなのに、いつの間に俺の前まで来て腕を掴んでいて。
(ああ、こいつは近くで爆風喰らってないからか……)
足も速いし、五体満足で動けるのは高嶺しかいないだろう。それに、高嶺ぐらいじゃないと成人済み男性を持ち上げることなど出来ないだろう。
「そんで? 明智、お前いつまでそんな顔してんだよ。引き上げるから、腕上げろ」
「あ、ああ……」
そう言われて、俺は素直に腕を上げた。すると、高嶺は軽々と俺のことを引っ張り上げた。ずるずる……とコンクリートの地面に引き上げられ、俺は動く気力も無くなっていた。
先ほどの爆弾はただの手榴弾に思えたが、かなりの威力があって、間近で喰らった俺や、その近くで喰らった神津さえもダメージを負っていた。とても、そこら辺で流通……してたら不味いが、しているものじゃ無いと思った。まるで、誰かが改良したように。
そんなことを調べることなどとっくに出来なくなっているが、胸くそ悪いと思った。誰も被害者を出さずに捉えることが出来たと思いきや自殺だと。
そう、犯人が自殺した現場から顔を背け目を閉じれば、横から誰かがタックルする勢いで飛んできた。
「うおっ……」
「春ちゃん!」
ギュッと、痛む全身を抱きしめて、俺の名前を呼んだのは神津だった。
ボロボロになりながらも、神津は泣きながら俺の身体に抱き着いていた。
「よかった……生きてる……」
「勝手に殺すなよ……大丈夫だから、な。ちょっと離れろ。全身いてえから」
「やだ、離れたくない」
と、神津はさらに俺の身体を抱きしめる。骨がみしみしと鳴って、こりゃ折れると俺は神津の背中を叩いた。
神津がここまで必死に泣いて抱き付くのは、小学校ぶりかと懐かしく思いつつも、心配させてしまったことに少しばかり罪悪感を感じて、俺は神津の背中に優しく腕を回して抱きしめ返した。
「春ちゃん、僕を置いて死なないで。何処にも行かないで」
「何処にも行かないでって、それはこっちの台詞だ。そうだな、死なねえよ。だから、お前も死ぬなよ」
「うん……うん、約束」
消えるような声で神津はいって、俺の体温や心臓の音を確かめるように何度も何度も確かめていた。その様子に俺は呆れつつ、頭を撫でた。
「っけ……助けてやったのは俺だって言うのに」
「まあまあ、皆生きてたんだし。それに、ユキユキはハルハルの恋人だからね。そりゃ心配もするでしょ。だから、今だけは大目にみてあげようよ。ね?澪」
「……しゃーねーな」
そんな高嶺と颯佐の会話を聞きつつ、俺は改めて神津の事を考えた。
(死が間近に迫ったとき……神津に、恭に何も伝えてねえなっておもって、死ねねえと思った)
神津を残して死ぬこと何て考えられない。
それに、喧嘩別れみたいな、逃げ方はしたくないと思った。改めて、神津の存在の大きさを知ったし、あの一瞬頭を埋め尽くしたのは神津の存在だった。
こういうことがあるから……無いにこしたことはないし、ない事も願いたい。それに、普通じゃあり得ない事だが、それでもこういつ死ぬか分からない人生、伝えなければならない言葉って言うのはあるんだろうなと俺は思った。
意地を張っている場合ではない。素直にならなければと。
「神津、俺、帰ったら伝えたいことがある」
「何? 春ちゃん」
「帰ったら……今は、全身いてえから、多分入院になるかもな」
そんなことを呟いて、俺は神津の肩に顔を埋めた。
それから警察や救急車、さらには消防車のサイレンの音も聞えてきた。
何せ、あの爆発に巻き込まれなかったとしても、高速道路が壊れているのだ。だが、完全に到着するまで俺達はこうしてようと、俺はもう一度神津を強く抱きしめた。