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パチン―――
事務所の灯をつけるのは、一週間ぶりだった。
あの後、自分が想像していたよりも酷く全身強打し怪我の具合が酷かったため一週間入院することになった。それでも一週間ですんだのは不幸中の幸いか、悪運が強いのか。その間、神津はずっと俺のそばから離れなかった。彼は、三日ですんだものの、家には帰らず病室か近くのホテルを取って毎日のように見舞いに来た。
神津は病院内でも目立つ存在だったから、女性の看護師が代わる代わるその様子を見に来ていて、恥ずかしかった。それと同時に、色目使うんじゃねえぞと俺は初めて眼を飛ばした気がする。神津は上手くあしらっていたが、神津を手当てしたい、あわよくば連絡先を知りたいといった女性看護師が多くいた。
そんなこんなで退院した後は、自宅療養になった。
久しぶりの事務所兼我が家は何処か誇りっぽく、掃除をしないとなあと思いつつ、俺は取り敢えずソファに腰掛けた。
「んだよ、神津」
「帰ったら、話したいことがあるっていってた……から」
と、俺の前までふらふらとやってきた神津は顔を俯かせながらそう言った。
もしかしてと思うが、別れ話をされるとでも思っているのだろうか。
(そんなこと、不安がる必要ねえののに……逆に俺が……)
完璧すぎる、イケメンの恋人だからこそ、俺は自分では釣り合わないと思っていた。それでも、神津は俺の大切な幼馴染みで、恋人で。その隣を譲る気も、もうない。
ずっと隣にいて欲しい。独占欲が芽生えた。
「別れ話じゃねえよ。だから、安心しろ」
そういえば「じゃあ何?」と急かすように神津はいってきた。顔を上げ、その美しい若竹色の瞳を俺に向けて、じっと見つめてくる。その視線に耐えられず、俺は思わず目を逸らすも、神津は逃さないというように両手で頬に触れてきた。
もう逃げられないとさとる。
元々言おうと一週間考えてきた。どんな言葉をかければいいか。素直に言葉を伝えるだけでもきっと神津は微笑んでくれる。
けど、いざ本人を前にすると中々その言葉はでてこなかった。また逃げようとしている自分がいた。
言わなくても伝わるんじゃないかと心の何処かで思っている自分がいた。
だが、もう逃げられない。俺は、強制的に顔を合わせられ、神津の若竹色の瞳と目が合う。ああ、逃げられないんだと俺は覚悟を決めた。
「俺、前に余計なこと言っちまっただろ……じゃねえか、えっと」
「うん?」
「だから、あの、俺達の初夜の時……お前の事拒んじまったこと、凄え後悔してる……だせえよな」
そう、ぶつ切りで言えば、神津は目をまん丸くした。ビー玉のようなその瞳をみていると、何だかこんなことを言うのが恥ずかしく思えた。
「お前に……お前の事、凄え好き、なのに。俺でいいのかとか、男でいいのかとか……お前の事考えず、自分のことばっか考えてた。悪ぃ……ごめん、ごめんな」
「春ちゃん」
スッと神津の手が離れたため、俺は俯いた。ギュッとまだ痛い手でズボンを握りしめて、顔が見れなかった。
神津は何て言うだろうか。今更? と呆れるだろうか。
俺は、そんな言葉が聞きたくなくて、ぽろぽろと用意してなかった言葉が零れる。
「その後も、抱いて欲しいって、俺、なりに、誘惑、してたのに。お前、俺に飽きたみたいな、態度取るから……もう、わけわかんなくて。辛くて、俺何かって――」
そう言いかけた時、ふわりと体が包まれた。温かい体温を感じて、俺は顔を上げた。そこには、俺より背が高い神津の顔があった。少しだけ上目遣いになる形で見上げれば、神津は優しく微笑んだ。
そして、そっと神津は俺の唇に触れた。
「っ!? ん……」
触れただけで、すぐに離れていった。でも、確かに感じたのは神津の温度だった。
俺は驚きつつも、もっと欲しいとねだるような形で神津を見上げれば、神津は、クスリと笑うと、今度は深く口づけてきた。
「んぅ、ぁ、む」
舌を入れられて、絡まされる。息苦しさを感じるも、俺は必死に神津の背中にしがみついて応えようとした。やがて、神津は満足したのか口を離すと、ぺろりと自分の唇を舐めた。その仕草に、ドキリとする。
「な……あ……」
「春ちゃん」
「ん、んだよ……」
神津は、再度俺の唇を親指でなぞり、焦らすような手つきで、それでいて熱っぽい目で俺を見た。その熱に浮かされて、俺も神津を見る。
「続き、したいの?」
「……ちが」
「じゃあいい?」
と、神津は俺に答えを求めてくる。
そんな聞かなくったって分かるくせにと、睨んでやれば、神津はプッと吹き出した。
「冗談。でも、半分だけね。僕、ずっとその言葉が聞きたかった」
「どの……」
「抱いて欲しいって言葉」
そう言って神津はもう一度軽く俺の唇にキスを落とした。
「ほら、前に酔って春ちゃんが僕のこと誘ったでしょ? でも、後もう一歩欲しかったんだ。ちょっと我儘だったけど。お酒の力に頼りながらも、僕のこと好きって伝えようとしてくれている春ちゃんに意地悪したくなっちゃって、本当はあの時抱きたかった。ラブホの時だってそうだったよ?」
「……」
信じてない? と神津は眉を下げた。
何というか、策にはめられた感があって少し悔しかった。でも、嫌いになったわけじゃないと改めて分かって、嬉しい幸せな気持ちで満たされたような気がした。
(そうか……恭は俺の事……)
なら、これ以上意地を張っている理由も、怖じ気づいて素直になれない理由もないなと、俺は神津の胸倉を掴んだ。
本当はもっと可愛いねだりかたした方がいいんだろうが、今の俺にはこれが限界だった。
「抱けよ、馬鹿」
そう言ってやると、神津は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにツンと顔を背けて、頬を膨らませた。
「もうちょっと可愛いのがいいな~」
「神津、お前ぇ……」
調子に乗りやがって、と思いつつももう俺の方も限界で、ここは腹をくくるしかないと思った。
「………………恭、抱いて、欲しい」
そう言い終わるのが先か、後か分からないぐらいにグンッと身体を持ち上げられた。所謂お姫様抱っこと言う奴で、俺は目を白黒させる。一瞬の出来事で、何が何だかわからなかった。
だが、神津の機嫌の良さそうな顔を見て察した。きっとこれは最初から計画していたに違いない。
「春ちゃん可愛すぎ」
そう言って、神津は俺を寝室まで運び、優しくベッドの上に俺を下ろすと、逃げ腰になっていた俺の上にまたがって服を脱いだ。いきなり露わになった神津の筋肉質な身体をみて、少女のように顔を覆ってしまう。
「春ちゃん……いい?」
「聞くな、いちいち」
「聞きたいよ。大切にしたいし、優しくしたい」
「んなこというな、俺は男なのに」
「そうだね。でも、春ちゃんだから大切にしたいの。春ちゃんは特別だよ」
神津は、ちゅっと音を立てて俺の顔中にキスを落としていく。そして、ゆっくりと唇を重ねた。
最初は啄むように軽いものだった。しかし、次第にそれは深いものへと変わっていく。舌と舌とが絡み合い、息をするのも忘れてしまうぐらいに夢中になってしまうほどに激しくなった。
「んぅ、ふっ」
息苦しさを感じて、神津の背中を叩けば、神津はすぐに口を離してくれた。二人の間に銀の糸が伸びていて、それが切れるのを名残惜しいと思ってしまう自分がいた。
そんな俺を神津は見つめながら、クスリと笑った。
その表情はどこか妖艶で、やはり目が離せない。
「はは……」
「何笑ってるの春ちゃん」
そう聞かれても、何で笑っているかなんて分からなかった。
だが、この時間が幸せすぎて、きっと頭が神津で埋め尽くされているんだろうなって思った。
俺は、神津の首に腕を回して引き寄せる。
「早く抱けよ。恭」