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番外編菊葉家の茶飯事
― 四条の灯火、四つの指輪と今夜の献立 ―「……椿。何度言えばわかるんですか。アクセサリーショップの前で、そんなに魂を抜かれたような顔をしないでください」
梅が呆れたように溜息をつくが、その視線もまた、ガラスケースの中に並ぶ繊細な細工の指輪に吸い寄せられていた。四条河原町の路地裏にある、知る人ぞ知る彫金店。
「あはは、ごめんごめん。でもさ、梅ちゃん。これ……俺たちの『一蓮托生』の印に、ぴったりだと思わない?」
椿が指差したのは、アンティーク調の銀のリング。
中央には小さな深紅の石が埋め込まれ、その周りを白銀の蔓が精巧に編み込んでいる。まるで、椿の命を三人が守る「鞘」のようなデザインだった。
「ヤバい、これマジで運命じゃん☆ ウチ、これがいい! 椿とお揃いとか、最高に映えるし!」
蓬が26cmの身長差を無視して椿の肩に身を乗り出し、目を輝かせる。その横で、桐が静かに店主を呼び寄せた。
「……四つ、あるか。……俺たちは、一人でも欠けたら意味がない」
桐の低い、深い海の底のような声が響く。
店主が差し出した四つの指輪。椿は迷わず、一番大きなサイズのものを自分の右手の人差し指に嵌めた。抜刀する際、一番強く力を込める場所だ。
「……っ。……椿、勝手に決めないでください。……全く」
梅は文句を言いながらも、自分の瞳と同じ白銀のリングをそっと指に滑らせた。
四人がそれぞれの指に銀の輪を宿した瞬間、一蓮托生の術式がかすかに共鳴し、胸のラペルピンが優しく脈動した。
「……あはは。これで、どこにいても繋がってるね」
指輪の余韻に浸る間もなく、梅がピシャリと告げる。
「……さて、感慨に耽るのはここまでです。次は錦市場へ行きますよ。今夜はおばんざいの材料が足りません」
一気に現実に引き戻され、一行は賑やかな錦市場へ。
食べ歩きの誘惑に負けそうになる椿の首根っこを梅が掴み、蓬が「京野菜のピクルス、超映える☆」と写真を撮りまくる。
「……梅。……賀茂なす、いいのがあった。……今夜は、田楽か」
「さすが桐、助かります。椿、そんなところで『だし巻き卵』に見惚れていないで、この重い荷物を持ってください!」
「えー、これ一個食べてからじゃダメ? 凄くいい匂いだよ、梅ちゃん」
「……何度言えばわかるんですか! 帰ってから私が焼いてあげますから、早く歩きなさい!」
182cmの椿が、両手に京野菜の詰まった袋を抱え、小さな梅の後をトボトボと追いかける。
指には、先ほど買ったばかりの銀のリングが、夕暮れの市場の灯りを反射してキラリと光っていた。
梅の特製の卵焼き。隠し味はなんだと思いますか?
次なる記録: ― 昨日の余韻、四つの指輪と朝の膳 ―