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大丈夫は大丈夫じゃない
リハーサル室はまだ汗のにおいが漂い、動きが止まった空間に重い静けさが広がっていた。メンバーはそれぞれ、振り付けの確認をするかのように立ち止まることなく動き続け、間もなく次の曲へと移る準備をしていた。しかし、その中でも一人、SHOOTの足元が少し不安定になった。目に見えるわけではないが、その足取りのどこかが重く、ぎこちない。
「――っ」
ターンをする最中、SHOOTの体が一瞬、フラつく。間違ったわけではない。完璧に近い振り付けをこなすはずの彼が、だが、その動きはどこか違った。いつもは軽やかで、無駄のない動きで振りを決めるSHOOTが、今日はどこか力を入れすぎてしまったように見えた。
その瞬間、MORRIEの目が鋭く光る。彼は一切迷うことなく、SHOOTのその動きを捉えていた。視線を交わすことなく、焦るように表情を一瞬崩したSHOOT。普段、あんな微妙な表情を彼が見せることはない。普段なら、全てを冷静に見せていた。
(あれ?)
MORRIEはその瞬間、何かが違うと感じた。SHOOTが普段見せる完璧な自己管理と、今の状況が合わない。肩の力が抜けているような、どこか疲れているような感じが強く伝わった。
リハーサルが終わり、メンバーたちは次々と自分の荷物を片付ける中、SHOOTだけは座り込んだままだった。ぼんやりと視線を落とし、手に持ったペットボトルを回しながら、しばらく動こうとしない。無理に微笑んだように見えるその表情も、どこかぎこちなく、無理しているようだった。
MORRIEは静かにその様子を見守っていた。周りが雑談を交わす中、SHOOTだけが孤立している。その体のどこかから、疲れが滲み出ているのを見逃すわけがなかった。
「――こいつ、限界きてんだな」
MORRIEは内心で呟きながらも、すぐには声をかけなかった。静寂が室内に広がり、SHOOTの息の音がほんの少しだけ大きく感じられる。MORRIEは腕を組んだまま、じっとその姿を見つめていた。SHOOTが何も言わずに、目を閉じたように静かにしている間、何度もその言葉が頭に浮かんだ。仕事の合間を縫って、撮影とアイドルの活動を両立させ、毎日が過密スケジュールのSHOOT。その重圧が、確実に彼の体と心を押しつぶしていることは、MORRIEにはわかっていた。
ようやく、SHOOTがわずかに目を開け、ほんの一瞬だけMORRIEを見た。それでも、その目線を合わせることはなかった。視線が交わる前に、彼は口を開いた。
「……お前、今日うち来い」
その言葉に、SHOOTは驚いたように顔を上げた。言葉の意味をすぐに理解できなかったのか、目がきょとんとして、しばらくその場で立ち尽くしていた。しかし、MORRIEはすぐにその反応を見逃さなかった。
「え?いや、大丈夫。明日も朝早いし……」
SHOOTが反射的に言い訳を口にしようとするが、MORRIEはその言葉を許さない。腕を組んだまま、少しも手を緩めず、冷たく言い放った。
「うるせぇ、俺の前で大丈夫禁止な」
その言葉は、MORRIEの強い意志を反映していた。自分の言葉に隙を見せることなく、SHOOTに対して何の譲歩も与えなかった。まるで、「お前は今、無理してるんだろ?」とその目で問いかけているようだった。
SHOOTはその言葉に驚き、そして戸惑う。どうしても、何か反論したくて口を開こうとしたが、すぐにMORRIEが一歩近づき、SHOOTの腕を掴んだ。
「ちょっと待って、ひで。俺、大丈夫だから」
SHOOTは小さく言ったが、その声に力がなく、無理に出そうとしているのが見えた。しかし、MORRIEの目はただ一貫して冷徹だ。
「大丈夫じゃねぇだろ。お前、顔色悪いし、動きが鈍いし、さっきからずっと疲れてるの見てたんだよ」
MORRIEのその一言が、SHOOTの胸に突き刺さる。完全に見透かされている。それでもSHOOTは反論しようとしたが、また小さな声で呟いた。
「……うるさいな」
それでもMORRIEは譲らなかった。
「お前、いつも俺たちに気を使って、頑張りすぎだろ?でも、それって誰にも言わねぇから、俺が見てやる」
その言葉には、どこか優しさと、強い意志が込められていた。MORRIEは少しも躊躇せず、SHOOTを引き寄せ、力強く彼の手を取った。
「行くぞ。準備しろ、早く」
「ちょっと!そんな急に……」
SHOOTが反論しようとするが、その言葉を受ける余裕も与えず、MORRIEはしっかりとSHOOTの腕を握りしめた。
「いいから、言い訳なしだ。俺の家行くんだよ」
SHOOTはまたしても反論できず、ただ言葉を飲み込んだ。周りのメンバーたちが何も言わずに見守る中、MORRIEはまったく気にすることなく、SHOOTの腕を強く引き寄せ、歩き出した。SHOOTはそのまま、無力に引きずられるように歩き続けるしかなかった。
歩きながら、SHOOTは心の中で小さくため息をつく。
(……結局、俺はこうなるんだよな)
その気持ちがふっと顔に浮かぶが、不思議とその感覚が心地よく感じる自分がいた。MORRIEに引っ張られていると、いつもと違って、少しだけ安心している自分がそこにいた。