テラーノベル
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「君に言えない僕の願い」
毎朝、同じ時間。
家を出て、
細い路地を曲がると、
黒猫はいつもの塀の上にいる。
「……おはよ」
声をかけると
小さく「にゃ」と鳴いた。
最初はただの野良猫だった。
でも今は この子がいない朝が少し嫌だと思う。
しゃがみ込んで撫でる。
あたたかい。
黒猫は気持ちよさそうに目を細めゴロゴロと喉を鳴らす。
でも時々、寂しそうな顔をする。
その顔を見るたび、
胸の奥が変にざわついた。
「猫ちゃん、どうしたの?」
問いかけても
もちろん返事はない。
ある朝。
立ち上がろうとした瞬間
服の袖が小さく引っ張られる。
振り返ると、
黒猫の前足がちょこんと触れていた。
「……え」
黒猫ははっとしたみたいに手を離して、
何事もなかったように視線を逸らす。
紅い瞳だけが 寂しそうに揺れていた。
どくん、と胸が鳴る。
“行かないで”
そう言われた気がした。
「……また明日ね」
頭を撫でる。
離れるのが、
少し惜しかった。
もし。
もし自分が猫だったなら
君の声が聞けるのかな?
レトルトは小さく笑う。
「……明日もここにいたら」
ぽつりと零す。
「“うちの子になる?”」
黒猫がぴくりと耳を揺らした。
もちろん 返事なんてもらえない。
なのに。
紅い瞳だけが
今にも泣きそうに細められる。
毎朝 会いたいと思ってる。
触れたいと思ってる。
離れたくないと思ってる。
でも——
君に俺の言葉は分からない。
“明日も、 俺を待っていてほしい”
なんて。
終わり
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コメント
2件
最高じゃないか、、、