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硬いベッドに座っている。
そのまま身体の力を抜いて寝転がろうとすると、背中に脚が当たった。
どうやら俺はベッドじゃなくて、その下の床に座っていたらしい。
仕方ないから、隣に置かれていたクマのぬいぐるみによりかかる。
ぬいぐるみは思っていたほどふかふかではなくて、そして少し湿っていた。
不快感を感じてぬいぐるみに目を向けると、それはぬいぐるみなんかじゃなく、巨大な蜘蛛だった。
自分の喉から息が漏れ出たことを感じた瞬間、蜘蛛が大声で奇声を発した。
俺が驚いて目を覚ますと、
蜘蛛は人間になっていた。
……?
何度か瞬きをして、さっき見ていた光景を思い出そうとする。
確かぬいぐるみによりかかったら、それが突然蜘蛛になって…、 と、そこまで思い出し、急いで隣の席を盗み見る。
目が2つあって、腕も2本あって、腹が少しだけ膨らんでいて、そして、ゆったりと呼吸をしている。
座っていたのは、ただの人間だった。
少し拍子抜けはしたけど、まぁそりゃそうだ。きっと眠っている間にこのおじさんに寄りかかってしまったのだろう。
迷惑をかけた上に、湿っているなどと失礼なことを考えてしまった。申し訳ない。
無事に人間だと分かったので、とりあえず勝手に肩を借りてしまったことを謝罪する。
その人は死んだような目で俺をみて、ゆっくりと頷いた。許してくれたのかは分からないが、既に窓の外に視線を向けているので、もう俺に言うことは無いのだろう。
……そもそも、夢の中で俺に何かを言ってきたのもただの幻聴だったのかもしれないが。
俺はサムライ翔。
今日からめろんぱん監獄の囚人として余生を過ごすことになった。
今は監獄へ向かうバスに乗っている。
周りの乗客は皆、心ここにあらずとばかりにただ座っているだけだ。
こんなに生気の無い人達に囲まれたのは、生まれて初めての経験だった。
…俺やって出来ればこんなん経験したくなかったんやけど。
だが、周りの人たちの気持ちは痛いほどよく分かる。
あんな生き方をしていたのだ。
俺もいつか捕まって、監獄やら牢屋やらにぶち込まれるだろうと覚悟はしていた。 していたけれど、まさかこんなに早いなんて。
捕まった時のことを思い出し、思わずため息がこぼれた。
この人たちは一体どんな罪を犯してここに来ることになったのだろう。
…いや待てよ、この人たちはそもそも悪いことなんてしていない可能性があるのか。最近の政府の警戒は異常だと噂に聞く。
もしそうなら、俺なんかよりよっぽど可哀想だ。
…まぁ今更俺たちがどれだけ足掻こうが、このバスが停まってくれることは絶対にないわけで。
それに気付いてしまった俺は、俺を含めて全員とびきり運が悪かっただけ、と、そう思うことに決め、新しく俺の人生の舞台となる場所へ思いを馳せた。
死刑を待つ人だけが収容されるというめろんぱん監獄。
噂では、何人かに2人ずつ担当の看守がついていて、当然監獄付近の警備も相当厳しいと聞く。
脱獄しようとしているのが見つかると問答無用で射殺されるんだとか。
どこまでが本当かは知らないが、俺がたった1人で脱獄できる可能性はほぼゼロだろう。
死ぬのが早まることになるだけだ。
ただその代わりに、監獄内での自由度は比較的高いと聞く。
とりあえず、担当の看守が気が合う奴だったらいいな。
そんなことを考えているうちに、バスは監獄へ到着した。立派な門が窓の外に映っているが、その前にいる看守らしき人物たちの険しい顔を目にした途端、観光気分はすぐに吹っ飛んだ。
そうだ、もう逃げられない。今日からは処刑される為に生きるのだ。
口角が不自然なほどに上がっているのがわかる。恐怖、緊張、戸惑い、絶望。様々な感情がせめぎ合い、すでに頭はパンク寸前。オーバーヒートしそうな脳は表情筋にまで手が回らないのだろう。あぁ、心の底から帰りたい。
遠くに走っている看守が見える。フォームが綺麗だ。あれくらい速く走れたなら俺も逃げ切れたのだろうか。