ケビンとの夕食会から数日後。
「今日も順調に二階層を探索できたな。ミレアのおかげだよ」
「そ、そんなことナイ……。シンヤの力だ」
シンヤの言葉に、ミレアが謙遜する。
「そんなことあるさ。ミレアがいてくれるおかげで、俺は安心してダンジョンに潜れるんだからな」
「う、嬉しいことを言ってくれるナ……」
ミレアが照れたように笑う。
「それじゃあ、今日のところはこれくらいにして帰ろうか」
「そうだナ。この調子なら、三階層まであと数日もかからないかもしれないナ」
二人は帰路につく。
そして、いつものように宿屋へと向かっていたのだが……。
「ん?」
シンヤがふと通り道にある武器屋の前で立ち止まる。
「どうしタ?」
「いや、見覚えのあるガントレットがあるなって思ってさ」
「どれダ?」
ミレアが興味津々といった感じで訊ねる。
「ほら、これだ」
「お? おおっ、シンヤがあたしにくれたガントレットと同系統のやつだナ」
武器屋のメイン商品として飾られているのは、青く輝くガントレットだった。
「水系統の魔力を感じる。さしずめ、『激流のガントレット』といったところか」
「そうだナ。火焔と同じくらいには珍しいもののはずダ。ほら、値段を見てミロ」
「ええっと……!?」
シンヤが目を剥く。
「白金貨二枚!?」
白金貨一枚は、金貨百枚と同じ価値を持つ。
とんでもない値段だ。
「そウだ。それだけの価値はあるってことだヨ」
「なるほど……。でも、いくらなんでも高すぎるんじゃないか?」
「それは仕方ないサ。魔力を込められた装備は、性能が高いものばかりだからネ」
「ふうむ。これほどのものが二階層で手に入れられるとは、相当にラッキーだったな」
シンヤはあまり意識していないが、彼の持つスキル『運勢上昇』の効果もある。
「まったくだナ。こういうことがあるから、冒険者は夢がある職業として人気があるんダ。そして深層の方が確率が増すから、無茶をする奴がたくさん出てクル」
「確かにそうかも。これなら、少しぐらい危険でも奥に進みたくなるな」
シンヤが苦笑する。
「……それで、どうだ? その……」
「ん? なんだ?」
こわごわとした様子のミレアに、シンヤが聞き返す。
「気が変わって売りたくなったカ? あたしはシンヤの奴隷ダ。シンヤが『火焔のガントレット』を売るというナラ、あたしは……」
ミレアが寂しげに言う。
しかしシンヤはすぐに首を振った。
「そんなことはしないさ。前にも言ったじゃないか」
「だが……」
「俺に対して一歩引いた態度を取ってくれるミレアの気持ちはありがたい。でも、同時に寂しくもあるぞ。俺は簡単に前言を翻したりはしない。男に二言はないんだ。愛しいミレアとの約束なら、俺は絶対に守る。それに……」
そこでシンヤは、真剣な表情になる。
「たとえどんな高価な装備であろうと、ミレアの安全には代えられない。だから、装備品を売ったりなんかするもんか」
「シ、シンヤぁ……!」
感極まったミレアが、ぎゅっとシンヤの身体を抱き締める。
シンヤは彼女を力強く抱き返した。
「よし! それじゃあ、今日は早く帰って明日に備えるか! そろそろ二階層もボス部屋にたどり着く頃だろうしな」
「ああ。頑張ろうゼ!!」
二人は笑顔で武器屋を後にすると、屋敷へ帰る。
夕食を済ませ、風呂に入る。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみダ」
二人は就寝の挨拶をして、それぞれベッドに横になる。
そして、日が沈んだ頃……。
ミレアの体に、変化が起き始めた。
「んっ……」
ミレアの頬が赤く染まる。
彼女の瞳が潤み、呼吸が荒くなり始める。
「ふぅ……。ふぅ……。シンヤァ……!」
彼女が切なげに愛しい人の名前を呼ぶ。
「すまんな。起こしてしまったか」
「いいんダ……。シンヤのことは全て受け入れル。しかし、これはいったいどういうことダ?」
ミレアが自分の体を指差しながら問う。
彼女の体には、シンヤの手が伸ばされていたのだ。
「ああ……。どうにもムラムラしてしまってさ。ミレアに触れたくて仕方がないんだ」
「そ、そうなのか……。まあ、そういうときもあるだろうナ……。でも、明日の探索に集中するために、今日は早く寝ると決めてただロ?」
「分かってる。分かってるんだけど……。駄目なんだ……。抑えられないんだよ……」
シンヤが熱っぽい目でミレアを見つめながら、さらに手を伸ばす。
彼女の柔らかな胸やお尻を、彼は揉みしだく。
「今日は早く寝ると言ったな? 前言を撤回する。今日はいつも以上に激しくさせてもらうぞ」
「ちょ、ちょっと待テ……。まだ心の準備ガ……あっ」
ミレアの言葉の途中で、シンヤが彼女の上に乗る。
「これもミレアが悪いんだ。お前がこんなに可愛いから、俺は……」
「ううううう……」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にするミレアだったが、抵抗しようとはしない。
こうして、シンヤとミレアの熱い夜が始まった。
そして翌日の迷宮探索は中止となり、翌々日に持ち越されたのだった。
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