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#追放
ぬいぬい
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「ダリア……今、何て言ったの?」
私は、胸の奥から込み上げる黒い衝動を必死に抑えつつ、ダリアに問いかけた。
「ええ、何度でも言ってあげるわ。アネモネお母様をぶち殺して差し上げたのは私なの。暴走したお前を止めようと魔法を使っている最中にあまりにも無防備で隙だらけだったから後ろから銀のナイフでブスリと、ね」
「ダリア、貴女、真面目に言っているの?」
怒りよりも動揺が勝り、私は声が震えるのが分かった。一瞬、義妹が狂ってしまったのかと思った。
「真面目に言ってるし別に狂ってもいやしないわ。要するに、正真正銘、カルミア御義姉様は冤罪ってこと」
「私が冤罪……⁉」
その瞬間、私の胸に湧き上がったのは自分が無実であったことの安堵感ではない。むしろその逆。絶望の代わりに怒りがこみ上げ、私生まれて初めて誰かを殺したいと思ってしまった。まさかそれが義理とはいえ家族に向けられるとは思いもしなかった。
「それが本当なら、私、貴女を決して許さないわ……!」
「あらあら、ずいぶん強気なことね。それでもお前が暴れて私を殺そうとした罪は消えないのよ?」
ダリアの指摘に、私の胸がズキリと痛む。確かに義妹には酷いことをされ、私は怒りに我を忘れて暴走してしまった。きっとあの時の私は暴走状態に陥ってしまって、ダリアに危害を加えようとしたことは容易く想像出来た。最悪、私は彼女を殺してしまっていたかもしれない。それについては本当に申し訳ないと思った。
「それは分かっているわ。私は自分の罪を認め罪はきちんと償うつもり。でも、それは貴女も同じよ!」
「おお、怖い、怖い。それで、許さなければどうするおつもりかしら?」
「もちろん、このことを国王陛下や聖女教会に報告し、貴女を糾弾します!」
「それは無理よ」
ダリアは呆れたように溜息を吐きながら、やれやれと両手を上げて見せた。
「どうして⁉」
「それは私が大聖女アネモネの実娘で、お前がおぞましい呪物人間だからよ。理由はそれだけで十分じゃないかしら?」
その瞬間、私は返す言葉を失った。
そうだった。怒りに我を忘れてしまっていたおかげで、私は肝心なことを忘れていた。
私は呪物人間というだけで国中の人々から嫌われ、ダリアは何もしなくてもアネモネ義母様の実の娘という理由だけで国中の人々から愛され祝福されていた。
いくら私が真実を訴えたところで民衆は信じたいことのみを信じる。ましてや嫌われ者の呪物人間の言葉に耳を傾ける物好きなんているわけもない。
ダリアがそう言えば、どんなに捻じ曲げられた偽りであろうともそれが真実になってしまうのだ。
私ったら馬鹿ね。アネモネ御義母様がお亡くなりになってしまった時点で、この世に私の味方なんて誰一人存在していないことを失念していたのだ。
再び絶望が怒りを上回り、抗う気力をなくした私は、力なくうなだれた。
「でも、勘違いしないでちょうだい。どの道、お前の処刑は決定事項だったんだからね。全部が全部私が仕組んだことではないのよ?」
「嘘よ」
「嘘じゃないわ。だって、お前の処刑を決めたのは他ならぬお母様ご自身なのだから」
刹那、頭が真っ白になり、時間が停止したような錯覚に陥った。
ダリア、何を言っているの? 全く意味が分からないわ。御義母様がそのようなことをおっしゃるわけがないんだもの。
でも、ダリアはいつものようにふざけた様子もなく真剣な眼差しを浮かべていた。とても私を陥れようとして嘘を言っている様には見えなかった。
必死に自分にそう言い聞かせつつも、目の前の景色がぐにゃりと歪んで見えた。意識が朦朧とし、私は絶叫したい気分にかられるも必死にその衝動を抑え込んだ。
「生前、お母様はご自分の身に万が一のことがあったら、あの呪物人間を制御できる人間はいなくなる。その際は利用価値の無くなった道具は王国に災いをなす前にさっさと処分した方がいいと、あらかじめ取り決めておいたのよ」
「いいえ、違う、そんなはずはない。だってあんなにお優しいアネモネ御義母様がそのような酷いことを御考えになるはずがないもの! 私は信じないわ!」
「別に信じてくれなくてもいいわ。お前がいくら喚き散らして否定しようともそれが真実なのだから。当然ながらこのことを知らなかったのは呪物聖女であるお前だけ。他の聖女達も承知済みよ」
ダリアは静かにそう呟き、ジッと穏やかな目で私を見つめる。それはまるで私を哀れんでいるように見え、彼女が偽りを言っていないことの証左のように思えた。
私はダリアの言葉に反論することが出来ず、がっくりと目線を下に降ろす。視線の先には、今、まさに燃え尽きようとしている宝物の姿があった。それが灰になる頃、私の希望も何もかもが燃え尽きるのだろう。絶望感が私を冷静にさせたのは皮肉なことだった。
冷えた頭で考えてみれば確かに反論の余地はなかった。
ダリアに宝物の絵本を引き裂かれた際、私は暴走しかけてしまった。いつまた私が怒りの精霊に取り憑かれるかわからない。
その時、私を止められる者はいない。この国で私の魔力を押さえ込むことが出来たのは大聖女であるアネモネ御義母様お一人だけ。そのアネモネ御義母様はもうこの世にいないのだ。
アネモネ御義母様が愛した王国を滅ぼすわけにはいかない。怒りは呪いと化し、絶望は殺戮の衝動を衝き動かす。本来であれば私の身体を構成する呪物一つ一つが国に災いをもたらすほぢに危険なもの。それが制御不能になって暴走すれば、どれほどの被害や犠牲が出るかは容易に想像できた。
私の死を望まれるのは罪のない大勢の人々を、強いては王国を守るための苦渋の決断だった、と私は自分をそう納得させた。
でも──。
「さて、用件も済んだことだし、そろそろお暇させてもらうわね。明日は形だけの略式裁判の後にさっさと処刑されると思うけれども、それまでお体を大事になさってくださいまし」
ダリアは最後に一言、御機嫌よう、とだけ言い残し踵を返す。
「待って!」
私の叫びにダリアの歩みが止まった。
「ダリア、最後に一つだけ教えて! どうしてアネモネ御義母様を殺したの⁉」
もう自分のことはどうでもいい。でも、なぜアネモネ義母様が殺されなければならなかったのか、それだけは死ぬ前に知りたかった。
すると、ダリアは立ち止まると振り返りニヤリとほくそ笑みながら一言呟いた。
「ムカついたから」
予想外の返答に私はただただ唖然となり返す言葉を失った。
ダリアはそれ以上何も答えず、遠ざかる足音を残して暗闇に消えた。
頭の中で、ダリアが最後に残した言葉が何度も反響し激しい眩暈を覚えた。
「たったそれだけの理由で私からアネモネ御義母様生きる希望を奪い取ったの?」
その瞬間、全身が蒸発しそうなほどの激しい怒りと、真っ黒な衝動が込み上げてくるのを感じた。
アネモネ御義母様の仇を討たなくちゃ。
全ての魔力、魂の全てを呪いに変換し全てを吹き飛ばしてやる。
ダリアの姿を思い浮かべながら、全てを終わらせようとした時、ふと足元に目がいった。
そこには、灰の中に表紙だけが焼け残った大切な宝物の残骸があった。
刹那、アネモネ御義母様が私に微笑みかける姿が脳裏に過る。
「私ったら本当に馬鹿ね。あのアネモネ御義母様が復讐なんて望むわけがないのに」
アネモネ御義母様が私に注いでくれた愛情はきっと本物だった。そしてダリアに対しての愛情はそれ以上であってもそれ以下であるはずがない。
だってダリアは血を分けた実娘だから、本来なら比べることすらおこがましいのだ。たとえ自分を殺したのが実の娘だったとしても、アネモネ御義母様が復讐なんて望むはずがないのだ。
だから、私にとって大恩人であるアネモネ御義母様の一番大切な宝物を私が壊すわけにはいかない。
私は復讐の炎を鎮火させ、その衝動を胸の奥底にそっとしまい込む。
もう何も考えることが出来ない。
私にできるのは、最期の時が来るのを静かに待つことだけだ。
そして、翌朝、ダリアの言った通り、形だけの公開簡易裁判が開かれた後、聖女教会の神官達から私の処刑が言い渡された。
罪状は国家反逆罪。
聖女の称号は剥奪され、魔女カルミアとして火刑に処されることが決定した。