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なんで遊園地?と最初は戸惑ったけど、瀬戸さんとのデートは思った以上に楽しかった。


遊園地に来たのは子供の頃ぶりだ。


それに基本的にいつも一人で過ごす私にとって、こんなふうに誰かと出掛けることも久しくなかったこと。


アトラクションに乗っている時は、童心に帰ってワクワクした。


柄にもなくはしゃいでしまったと思う。


ここの遊園地には子供の頃に家族と来たことがあったから、最初は芋づる式に兄のことも思い出した。


兄への想いがよぎり少し胸が痛んだけど、それは本当に最初のうちだけだった。


純粋に遊園地を楽しみだした私はいつしか兄のことは忘れて、昔の記憶も「懐かしいなぁ」という想い以外は感じなくなっていた。


これはきっと気が紛れたからなんだろう。



……瀬戸さんが言った通りだったなぁ。



無理に前に進むのではなく、気を紛らわせた方がいいと誘ってくれた。


実際にその効果を感じ、こんな私に付き合ってくれた瀬戸さんには改めて感謝の気持ちでいっぱいだった。



……アトラクションに夢中で兄のことも忘れられて、ホントに久しぶりにすっごく楽しかった。



そんな想いでいたからだろう。


日が暮れて、そろそろ帰ろうかとなった時、とても寂しくなってしまった。



「……詩織ちゃん、そんな顔するのはズルイよ」


「えっ?」



ふいにそう言われて、思わず自分の顔を触る。


そんな変な顔をしていたのだろうか。


まったく自覚がなかったから、少し呆れたように眉をよせる瀬戸さんの表情を見て不安になる。



「まだ帰りたくないって顔してる」


「あっ……」



指摘されて納得した。


楽しくて、帰るのが寂しいって感じていたから、それがそのまま顔に出てしまっていたようだ。



……楽しいからまだ帰りたくないなんて子供みたいだ。恥ずかしい。



自分の子供っぽさに急に羞恥心が襲ってきて、顔を隠すように俯いた。


頭上からは瀬戸さんのため息が聞こえる。


親切で連れてきてくださったのに、帰り際にこんな駄々をこねる子供のような態度で面倒をかけて申し訳なくなってくる。



「……すみません、ご面倒おかけして」


「えっ?面倒?」


「楽しかったから、ついまだ帰りたくないなって思ってしまって。駄々をこねる子供みたいですよね……」



謝りつつ、チラリと瀬戸さんを見上げれば、なぜか彼は驚いたような顔をしている。


不思議な反応だった。



「いや、そういう意味で言ったんじゃないよ!」


「? そうなんですか?」



じゃあどういうことだろう?と意味を図りかねていたら、次の瞬間、ふわりと温かい体温に包まれた。


正面から抱きしめられ、瀬戸さんの腕の中にすっぽりと収められてしまう。


ウッディ系の落ち着いた香りがふわりと薫る。


閉園近くで人が少なくなったとはいえ、こんなところで抱き寄せられたことに驚いた。



「……瀬戸さん??」


「そんな帰りたくないって可愛い顔されたら、帰したくなくなるし、俺の家に連れて帰ってしまいたくなる。それ分かってる?」


「面倒じゃないんですか?」


「そんなふうに思うはずないよ。というか、俺が言ったことまた忘れてるよね?」


「言ったこと、ですか?」


「詩織ちゃんのこと好きになったって。本気だってちゃんと言ったつもりだけど?」



もちろんそれは覚えていた。


冗談じゃなく本気だと言われたことも。


ただ、あれは私が兄を好きだと知られる前の話だ。


歪んだ不純な想いを抱える私のことをそのまま好きだと思えるとは考えられない。



「でもあれは私がおかしいことを知る前の話ですよね。こんな普通じゃない想いを抱えてる私なんて……」



そう言いかけたところで、言葉を遮るように瀬戸さんは少し体を離した。


そして私の顔を上げさせ、視線をしっかりと合わせてくる。


瀬戸さんの整った顔が間近にあって、距離の近さになんだかソワソワする。


だけどそれ以上に、いつもは気さくに笑っている瀬戸さんの表情が、見たことないくらい真剣で目が離せなかった。


「じゃあ今、もう一度ちゃんと言う。詩織ちゃんの想いを知ったうえでも、俺は詩織ちゃんが本気で好き」


「瀬戸さん……。でも私は……」


「それは知ってる。それでもいい。詩織ちゃんは前に進みたいんでしょ?なら、俺とお試しで付き合ってみない?」


「でも……」


「俺じゃダメ?俺じゃ代わりになれない?」



そう言いながら私をじっと見つめる瀬戸さんの瞳は真剣そのものだ。


こんな瞳でこんな風に言われたら、今までみたいに冗談だとは思えない。


なんで私なんかを?と思う気持ちは変わらないけど、瀬戸さんの言葉が本気だということは伝わった。




「………そんな瀬戸さんを利用するようなことしたくないです。ただでさえ、パリで利用してしまったのに」


「あの時みたいに俺を利用したらいい。俺は詩織ちゃんが好きだから利用して欲しいよ。忘れさせてあげるから」


「でも……」


「お試しなんだから、そんなに難しく考えなくていいんだって。それとも俺のこと、そんなにキライ?」


「そういうわけではないですけど……」


「それなら、ね? それに今日は楽しかったんでしょ?」


「……はい、楽しかったです」



それは事実だ。


だからこそ、まだ帰りたくないなって感じたのだから。


だけど、いくら今日が楽しかったからって、瀬戸さんを利用するようなお試し交際なんて良くないと思う。



「大丈夫。こうやって気を紛らわせてるうちに、きっと詩織ちゃんも前に進めるよ。お試しで付き合うのも、協力の一環だと思ってくれていいから」


「だけど、それは……」


「それなら期間を決めよう。そうだなぁ、3ヶ月でどう?それでやっぱりダメだと思えばやめればいいよ。俺もその時は詩織ちゃんの意思に従うから」



……どうしよう。



期限を切られたことで、より断りづらくなった。


瀬戸さんを利用したくない、巻き込みたくない、という気持ちは変わらない。


一方で、このままの自分じゃダメだ、変わらなきゃと焦る気持ちも正直ある。


それに実際今日は楽しくて、ひとときでも兄のことを忘れられたのだ。



……3ヶ月だったらそんなに迷惑かけないかな?いいのかな?



頑なに断ろうとしていた気持ちに迷いが生まれる。


兄への想いを知ったうえで、こんな風に言ってもらえることへの感謝の気持ちもあった。


揺れ動く気持ちを抱えながら無言を貫いていたら、ふと瀬戸さんが悪戯をするような顔になった。


「パリで見ず知らずの男にいきなり体を捧げる決断に比べたら、3ヶ月のお試し交際なんて簡単なことだと思うけどね?」



揶揄うように言われたその言葉に、思わず絶句してしまう。


確かにその通りだった。



「……分かりました。じゃあ、お願いします」



最後の一言が後押しとなり、私は結局お試し交際を承諾することにした。


そう言った瞬間、また瀬戸さんにギュッとさっきより強く抱きしめられた。


耳元で「……良かった」という声が聞こえた。




◇◇◇



「あの、お試しって何すればいいですか……?」


遊園地から車に乗って移動し、都内にあるイタリアンレストランで瀬戸さんとディナーをしながら、私はさっきから気になっていたことを切り出した。


お試しとはいえ、男性と付き合うのは初めてだ。


付き合うって何をすればいいのか全く分からない。


お試し交際となれば尚更だった。



「今日の延長でいいんじゃない?気を紛らわすことを色々試してみようよ」


そう言うと、瀬戸さんは懐からタブレットを取り出して、それをノート代わりに何かを書き始めた。


そっと覗き込めば、それは何かを箇条書きにしたリストのようだ。



「俺がパッと思いついたのはこんな感じかな?詩織ちゃんは何かある?やってみたいこととか、行ってみたいとことか」


差し出されたタブレットを手に取り、瀬戸さんが書き出したリストに目を通す。


そこには、バッティングセンター、ボウリング、カラオケ、卓球、ビリヤード、ダーツ、スポーツジム、水族館、キャンプ、旅行……といった言葉が並んでいた。



「詩織ちゃんが普段しなさそうなことをリストアップしてみたけどどう?」


「確かにどれも私が普段しないことです」


「だよね。今日みたいに週末にそのリストのことをやってみよ?」



瀬戸さんはいつもみたいに気さくで明るい笑顔を浮かべた。


交際と言われてちょっと身構えていた私の肩から力が抜けていく。


パリの時にも思ったけど、瀬戸さんの笑顔は人の警戒を解く、不思議なチカラがある。



「来週はどれがいい?俺のおすすめはバッティングセンターかな」


「一度も行ったことないです」


「じゃあそうしよ。体動かす系は気分転換に最適だしね」



私は改めてリストを眺める。


今まで一人で過ごしていた自分には縁のなかったことばかりだ。


……これをこなしていけば、私も変われるかな。前に進めるかな。



なんだか少し希望が湧いてくる。


瀬戸さんが私のためを考えてくれているのも嬉しく感じた。



こうして、この日から私と瀬戸さんの3ヶ月間のお試し交際が始まった。

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