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結局バレてはいなかった。そもそも流石の長濱さんでも、俺が異世界に行ってるなんて頓珍漢なことを思わないだろうな。
…頓珍漢ってなんだ?
「引っ越しは来週だっけ?私も手伝おうか?」
休憩中、いきなり聞かれて戸惑う。
「見ての通り、荷物は少ないから大丈夫だよ」
俺の部屋は、今更だがワンルームで収納も少ない。
「そっか。でも、引っ越したら一番初めに誘ってね?」
何気に一番嬉しい言葉かもしれない。
「わかった。必ず誘うよ」
正直、物で溢れかえる前に須藤を誘おうかと考えていたけど、長濱さんなら貿易品が増えても誘えるし、別に須藤はいいや。
だって、川崎さんが付いてきそうだし……
作業が終わり、長濱さんを駅まで送った俺は弁当を買って帰った。
「暫く、異世界行くのはやめよう…」
なぜなら、宝石を売ったお金に税金が掛かることが判明したからだ。
身分証を提示していた時に気付くべきだった……
「明日からは税金の事を調べて、引っ越しの準備も進めよう…」
さらば異世界……
どうせ来週には行くけど。
後、月の動きについても聞けたのは良かった。
やっぱり月の出も月の入りも結構ズレるようだ。
だいたい1日に30分くらいはズレる。多い時は2時間近くズレる時もあるそうだ。
これからは月の出と入りを調べてから、転移することにしよう。
調べたら普通にサイトに載っていたから、2ヶ月分くらいは常に携帯に保存しておこう。
電源が切れたら見えないけど、そもそも向こうでは電源を入れることがないしな。
それよりも、こっちに帰るのは何時でも良いんだけど、向こうの宿に泊まる時が困るんだよ……
まぁ、引っ越したら布団じゃなくてベッドになるから泊まれなくてもいいけど……
今は六月の終わりで、夏休みまではまだひと月以上もある。
夏休みになれば長濱さんも朝から来てくれるって言ってくれたし、たくさん胡椒の瓶詰めを作れる。
まあ、いざとなれば白砂糖をばら撒いても良いんだけどな。
「両方の世界で店を持つのが解決策っぽいよな」
どちらにしても、もっと金がいるな。
今の残金がだいたい百万で、後は今日手に入れたお金だな。
そう考えている俺の目の前には、大金が入っている封筒がテーブルに鎮座していた。
2,800,000円だ。
これで合計3,800,000円になった。
明日、税金のことを調べて、それを引いた金額が現在使える資金だ。
税理士に頼めば納税額を抑えられるかもしれないけど、内容が内容なので頼むことは出来ない。
わからないモノは雑所得で上げて、税率が高くなっても仕方ないな……
後はどこまで経費で落とせるか、だな。
まっ、全部明日だ!
後は1週間後にまた異世界に行けるように準備しよっと。
1週間後、税金のことや引っ越しを済ませた俺は、新しい家で長濱さんを待っていた。
この部屋はマンションの三階だ。四階より上の階はファミリー向けの賃貸になっている。
LDKは15畳もあり、逆に寝室は6畳しか無いが、元々6畳一間だったので、別段狭くは感じなかった。
とにかく荷物を多く置けるように、LDKが広い物件にしたんだ。
もちろん少し田舎に行けば同じ値段で3LDKも借りられたが、まだ車を持っていないので不便を感じて諦めた。
後、税金だが…詳しくすると頭がパンクするから凡そで計算した結果、だいたい稼いだ半額は納めなきゃいけないようだ。
このまま行けば年収が1,000万を超えるからな。
そんな風に考えていると、新居のインターホンが初めて来客を告げた。
ピーンポーン
「開けたから入ってきて」
ついにオートロックデビューだぜっ!
後、大丈夫だとは思ったが、寝室にも新たに鍵をつけてもらった。
移動はもっぱら月の軌道が見渡せる窓がある寝室からだからな。
ピーンポーン
…2回動かないといけないのは面倒だな。
ガチャ
「いらっしゃい」
「お呼ばれしちゃった!」
とびきりの笑顔で入ってきたのは、もちろん長濱さんだ。
あれからもう一度バイトをしてもらってから、ずっと機嫌がいい。
何故かはわからん。
「聖くん。これ引っ越し祝い」
長濱さんから紙袋を渡された。
「ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん!喜んでくれるといいな」
何だろう?結構重たいな。
「おっ!日本酒か!しかも俺が好きなやつだ!
ありがとう!良くわかったな?」
「ふふっ。やっぱり喜んでくれた。最初アパートにお邪魔した時に、片付けていた瓶の銘柄を思い出したの!
それの良い物を店員さんに聞いたんだ!」
ありがてぇ。
流石長濱さん!須藤えもんは解任して長濱えもんにしちゃうぜ!
「それにしても広いね!テレビもデカッ!」
驚いてくれたようだな!ソファやテーブルはリサイクルショップの物だが、テレビは新品だ!
引っ越しは意外に大変だった。
大学に入学した時は運ぶだけだったが、こっちでは前の物を処分しないといけなかった……
さようならお布団。
「聖くん。聞いていい?」
あれ?さっきと違ってなんだか深刻そうな表情だな……
「ど、どうかした?」
「どうやって稼いでいるの?」
ヤバい!やっぱり疑われてた!
というか、バレてんじゃね!?
「な、なにを?」
「誤魔化さないで。もちろん聖くんの稼ぎ方を聞いて、真似しようとかじゃないの。
おかしいよね?
胡椒を瓶に詰めて、銀細工や革製品をネットで売るだけで、こんなところに住めるなんて」
もしかして、心配しているのか…?
「聖くんが何かやっちゃいけないことをしていたとしても、私は味方だよ!
貴方だけに危ないことはさせない!」
やっぱり心配のほうだったか……
「・・・答えて」
うーん。ヤバいことはヤバいけど、意味が違うんだよな……
それに、多分ヤバいことだと思っていても俺から離れないって言ってくれてるのに、そんな人にこれ以上嘘はつけないよな。
「ごめん。けど、嘘はついてないよ。
実際には胡椒は売っているけど、それ以外は嘘じゃない」
「…何で教えてくれないの?私は別にお金なんかいらないよ!
ただ、悩んでいる私の話を聞いてくれて、支えてくれた聖くんを私も支えたいの!
お願い!嘘はやめて!」
涙を流してはいるけれど、決してヒステリックにはなっていない。
未だにこんな俺を信じて、助けようとしてくれている人の目をしている。
「俺はこれから、長濱さんにだけは嘘をつかないと誓うよ。
それでさっきの質問だけど、胡椒を売っている」
「なんで…… 胡椒なんて売ったってお金に・・」
「最後まで聞いて!」
俺は長濱さんの言葉を止めて、続ける。
「砂糖も売ってるんだ。
ここまで言えば真実はもう、長濱さんにならわかるんじゃない?」
急にクイズを出された長濱さんは、呆気に取られた様な顔をした後、思案顔になる。
「えっ…砂糖や胡椒が何かの隠語?」
ホントにヤバい答えが返ってきた。
「ち、違うわい!前に言ってたじゃん!」
慌てた俺は心の声が漏れた。
「えっ……まさか…異世界?」
やっと答えに辿り着いたか。
「そうだよ。俺も前に言われた時は、バレたかと思って焦ったよ。
今までの事を説明するね・・・・・・」
俺はこれまでの大まかな流れと、異世界の情報を細かく伝えた。
異世界の情報を細かく伝えたのは、長濱さんなら何かアイデアが出るかもと期待しているからだ!
ビバッ!他力本願っ!!
「信じられないよな?言っている俺でも信じられないもんな……
転移するところを見せてもいいけど、人が近くにいるとどうなるかわからないから難しいな」
「見たい!」
そこには、幼子の様に目を輝かせる長濱さんの姿があった。
「いや、待ってくれ。他の方法で証明できるやり方を考えよう。
流石に何が起こるかわからないことを、試すことは出来ない」
「えー!もしかしたら私も行けるかもしれないのにぃ!!」
駄々っ子がいる。
「ダメだ!長濱さんに何かあれば俺は生きていけない」
こっちの世界ではな。
人を死なせて、異世界に逃亡生活とかまだ無理っ!
「えっ!?」
「ん?」
長濱さんの顔が赤くなってる……はて?
…ヤバい!そういうことか!
「ち、ち、違うんだ!大切な友達を最悪殺すことになるんだぞ?
そんなのみんなそう思うだろ?!なっ?!」
「う、うん!そ、そうだねっ!!」
暫くして落ち着いてから、話を再開した。
「ごほんっ。兎に角、別の方法を検討しよう」
仕切り直した俺は意見がないか聞いたが……
「?大丈夫だよ?だって聖くんは嘘をつかないよね?
それに今までのことを思い出してみたら、逆になんで気付かなかったんだって自分を殴りたいくらいだよ」
問題ないようだった。
「ホントは白砂糖を売りたいんだよな。
何かいい考えない?」
長濱さんは問題ないようなので、こっちの問題を聞く。
「考え過ぎだよ。普通に売ればいいよ」
「えっ?だって、貴族とかやばそうじゃね?」
「確かに何の力も後ろ盾もない聖くんが狙われたら危ないかもね。
でも、組合を通せばいいんでしょ?
多分だけど、その職員さんじゃなくて、上の人に話を通せば組合で売ってくれると思うよ。
何故かはわからないけど、担当のハーリーさんは一人で聖くんの商品を売ってるんじゃないかな?
もしかしたら知らないだけでそういうルールになってるのかも」
えっ?ハーリーさんが一人で?なんで?
「ハーリーさんが悪い人なら、自分の利益や成績の為に、砂糖を隠しているかもね。
逆に良い人なら、トラブルに巻き込まれないように、聖くんを隠しているのかもね。
どっちにしても、商人組合の規定とかで担当者が売るとかの規定があるかもしれないから、大量に売りたいから上の人に頼みたいって、正直に伝えればいいと思うよ」
なるほどな…だが……
「断られたら?
俺には今のところハーリーさんしか売り口がないんだ」
「それこそ簡単だよ。
他の街にいけばいい。
別に実際行かなくとも、断るなら他の街で売るって脅せば通用するでしょ」
たしかに……俺に足りないのは行動力か……
「そうだな。せっかく異世界に行ける能力があるのに、何故か縮こまった考え方をしていたよ」
「ふふっ。でもこっちでは異世界産のサファイアを売ったり、行動的だよ?
まさか、逆に考えてたの?」
ん?逆とはなんぞ?
「いざとなった時の居場所の話。
地球じゃなくて異世界の方を選ぶつもりだったんじゃないかな? 無意識に」
っ!!
そうだな……俺はこの世界から逃げたかったのかもな。
残金
3,800,000-380,000-2,150,000=1,270,000円