グランドランドの朝は、
激戦の余韻を優しく包み込み、7月の柔らかな陽光が街全体を照らしていた。
セレスティア魔法学園の校庭では、
ドリアンの棘で抉られた芝生が、フルーツ魔法の蔓で丁寧に修復され、新緑の香りが風に舞う。
星光寮のステンドグラスは、砕けた破片を炎魔法で溶かし直し、再び虹色の光を廊下に投げかける。
レクト・サンダリオスとパイオニア・サンダリオスは、手を取り合って街を一つずつ直していく。
市場の崩れた屋台を、レクトのフルーツ魔法で生まれたバナナの蔓が支え、
パイオニアの炎が溶けた鉄を鍛え直す。
市民たちが集まり、驚きの声を上げ、子供たちが果実を分け合う姿が微笑ましい。
「お父さん、こっちの家も!」
レクトの声が弾み、パイオニアの穏やかな笑顔が応える。
「ああ、任せろ。」
果実の甘い香りと炎の温もりが混じり、廃墟が徐々に活気を取り戻す。
サンダリオス家の庭に戻った二人は、
果樹園の木陰で腰を下ろす。
リンゴの木が優しく葉を揺らし、幼い頃の思い出が蘇る。
パイオニアの瞳は、ダルトリアの瘴気が完全に剥がれた穏やかさを取り戻していた。
「レクト、ずっと前から乗っ取りに遭っていたんだ。」
彼の声は低く、悔恨に満ちる。
第21話の毒林檎の実験、第23話の「苦悩の梨」の脅迫、第24話の服従の果実――全ては無意識の計画だった。
「ダルトリアは俺の兄で、死刑囚だった。
禁断の果実の瘴気が、俺の一部にへばりついていた。
お前のフルーツ魔法の創造の力が引き金になって、奴はさらにやる気になり、今の暴走に至ったんだ。」
パイオニアは拳を握り、炎が静かに揺れる。
「結局、ドリアンの暴走のように、お前も乗っ取られていた。俺を乗っ取った上で、さらにマトリョーシカみたいに重ねて……俺たちは奴の道具だった。」
レクトは唇を噛み、
ついさっきまでの惨劇を思い出す。
ドリアンの棘がヴェルの肩を貫き、ビータの背中を突き、カイザの首を刺した瞬間。
星光寮の食堂が血と果汁に濡れ、ステンドグラスの破片が月光のように散乱した光景。
「お父さん……俺も、みんなを傷つけて……世界を壊して……」
涙が頰を伝い、フルーツ魔法の光が微かに瞬く。
だが、パイオニアは優しく頭を撫でる。
「お前の魔法は素晴らしい。
乗っ取られていなくても、私はエリザのように最初は受け入れられなかったかもしれない。
だけど恥さらしなんかじゃない。
これまで酷いことをして悪かったな。
乗っ取られて抵抗してその果てに歪んでしまった。
フルーツ魔法はそれをかき消してくれた、が。」
「……」
言葉が途切れ、
二人の視線が街の廃墟に落ちる。
犠牲者は沢山いる。
ゼンは棘に胸を貫かれ、息絶えた。
市場の商人、市民、学園の生徒たち――
ドリアンの被害者は数えきれない。
血の匂いがまだ残る校庭、炎で焦げた家々の残骸。
「どう償えば……っ」
レクトの声が震え、父の肩にすがる。
その時、アルフォンス校長が現れる。
記憶の鏡を手に移動してきたと思われる。
そして穏やかな微笑みを浮かべ、杖で地面を軽く叩く。
「レクト、パイオニア。セレスティア魔法学園に来てくれ。話がある。」
二人は頷き、学園へ向かう。
星光寮の食堂は修復され、果実の籠がテーブルに並び、甘い香りが漂う。
校長室のステンドグラスが陽光を反射し、
虹の光が床を彩る。
アルフォンスが椅子に座り、記憶の鏡を机に置く。
「この先のことについて、パイオニアは今の仕事をやめていただき、財産も全て没収する。
それで罪は晴れると思う。
被害者の家族への補償、街の再建、魔法学園の支援に充てるんだ。」
パイオニアは静かに目を閉じ、頷く。
「……レクトと一緒にいれるなら、それで構わない。
私はとんでもないことをしてしまった。
でも、レクトがフルーツ魔法で気づかせてくれた。
だからそれでいい。」
レクトの胸に熱いものが込み上げる。
「お父さん……!」涙が止まらず、父を抱きしめる。
黄金のバナナの杖が、傍らで優しく輝き、果汁の光が部屋を温かく照らす。
フルーツ魔法は、破壊ではなく、みんなで分け合う絆の道具だ。
アルフォンスが微笑み、記憶の鏡を軽く撫でる。
「よくやったな、レクト。お前の想いが、みんなを繋いだ。」
突然、校長室の奥の扉がゆっくり開く。
ヴェルが駆け寄り、
震度2の魔法で軽く地面を揺らし、笑顔で抱きつく。
「レクト、生きてた! 心配したよ!」
茶髪の髪が陽光に輝き、これまでの笑顔が蘇る。
カイザが電気魔法のスパークを花火のように放ち、肩を叩く。
「よお、遅えぞ! 」
ビータも後を追うように現れる。
そしてフロウナ先生が果物アレルギーを抑えつつ、優しくみんなを抱きしめる。
「……みんな本当に無事でよかった。」
一度は記憶の鏡で失っていたが、
ドリアンにはレクトの想いがたくさん詰まっていた。
棘が仲間を傷つけた時、フルーツ魔法の奥底に絆の光が宿り、記憶を呼び戻した。
ヴェルが涙を拭い、カイザがスパークを優しく瞬かせる。ビータが魔法書を開き、スイカ割りのページを指す。
「感覚制御、みんなで練習しよう。」
フロウナ先生が果実の籠をテーブルに置き、
「みんなで食べていいよ」
バナナの甘さ、リンゴの酸味、ブドウの弾ける味が口に広がる。
純粋で美味しい果実の味が、食堂に満ちる。
みんなで抱きしめ、笑い声が校長室に響く。
アルフォンスが記憶の鏡を輝かせ、
「一件落着だな。」と呟く。そうなんとか一件落着。
セレスティア魔法学園の朝は、
絆の光に満ち、レクトの笑顔がみんなを照らす。
フルーツ魔法は、家族と仲間を繋ぐ、永遠の絆だ。
(まだ続きます!)
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