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きみの声を待っている

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きみの声を待っている

1 - 気づかれたくなかった沈黙

♥

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2025年05月25日

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BUDDiiSの控室は、いつもなら笑い声が絶えない。

撮影の合間には、誰かがふざけて変なポーズを取り、すかさずツッコミが飛び交う。

くだらない話でも、自然と空気がほぐれていく――そんな場所だ。


けれど、その日だけは違っていた。


エアコンの低い唸りが天井から降りてくる。

照明に照らされた床はツヤを保ったままだが、そこに反射する明るさとは裏腹に、空気は重く、張り詰めていた。


ソファの端。

SHOOTはひとり、深く身を沈めるように座っていた。

白いTシャツの裾は膝の上でくしゃくしゃに折れ、ダボついた袖からは骨ばかりの腕が覗いていた。

血管が浮き出たその手は、まるで冷たく濡れているかのように見える。


それでも、彼は笑っていた。


誰かが冗談を飛ばせば、ほんの少しだけ口元を持ち上げる。

目が合えば、うなずく。

けれどそこに「声」はなかった。


無理にでも“いつもの自分”を演じていることに、周囲はまだ完全には気づいていなかった。

“なんとなく”、変かもしれない――その程度の違和感。


ただひとり。FUMINORIだけは、黙ってその異変を見つめていた。


控室の対角線。

ソファにもたれた彼は、じっとSHOOTを観察していた。

笑顔の形だけを保ったその顔に、感情の色がないこと。

瞳の奥に光がないこと。

最近のSHOOTは、どこか“生きていない”。


「SHOOT、お昼どうする? 一緒に出る?」


努めて明るい声を投げかけた。

トーンは軽く、冗談っぽさを混ぜる。

だが、その瞳はまっすぐに彼を見つめていた。


「……俺、ちょっと用事あるからいいや。」


ペットボトルのキャップを回しながら、SHOOTは顔を上げずに答えた。

その声には「拒否」ではなく、「逃避」がにじんでいた。


「最近、ずっとそう言ってない?」


問い返すと、SHOOTの指先がピクリと震えた。


それだけで、沈黙が場を支配する。

ほんの数秒が、やけに長く感じられた。


「たまたまだって。タイミング悪いだけ。」


笑顔が口元に浮かぶ。

だがその笑顔は、人形のように筋肉だけで作られたものだった。


楽屋の隅では、MORRIEがスマホをいじっているふりをしていた。

だが、その指は止まり、目は画面に向けたまま、耳だけが兄としての直感を働かせていた。


鏡越しに見た、弟の背中。


以前は力強かったその身体が、今は影のように小さく、かすれて見える。

ダンスのキレもない。視線が定まらず、どこか遠くを見つめているようだった。


心の奥に、ずっと溜まっていた不安が確信へと変わっていく。


SHOOTは限界だ。





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ありがとうございます! これからが楽しみな予感しかないです!

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