💙side
ドラマの撮影前に、ジムに寄るべく俺は早めに家を出た。
事務所内に設置されたジムで、所属タレントはここに通っている者も多い。
💙お、照じゃん
見慣れたメンバーを見つけて、俺は手を振った。
💛翔太、おはよう
💙早いね。仕事?
💛うーん、まあ
💙ふーん?
俺は、ウォーミングアップで軽く汗を流すために、まずはランニングマシーンでジョギングを始めた。
すると、大して走らないうちに隣りに照が来た。
一緒に走るのかな?と思ったら、ちょっといい?と声を掛けられた。
マシンを止め、照に向き合う。
💙なんだよ
💛俺、実は翔太に会いに来たんだよ
💙そうなの?なに?
照は、周りを見た。
ちょうどさっきまでいた一人が出て行って、ジムの中には俺と照だけだ。
💛翔太。俺と、付き合ってくれない?
💙いいぞ、どこに?
買い物にでも行きたいのかと思って、俺は適当に返事をした。
💛そうじゃなくて、好きなんだよ、お前のことが
💙は、はいぃ???
よくよく聞いてみると、朝ここに俺がたまに来るという噂を聞きつけて、照は時間の許す限り通い詰めていたらしい。
本当に会えて嬉しかっただの、歯の浮くような台詞を次々に言って来た。
さらに毎日俺を待ってたからいい感じに鍛えられたよとか言ってわけわかんない筋肉自慢までされた。
こいつ、ちょっと、色々と大丈夫かな?
昨年末病気したせいで、おかしくなったんじゃねぇだろうな…。
緊張して、おそらく自分でも何を言ってるのか訳わからんくなってる照の上腕二頭筋を見ながら、俺は考えていた。
これは、阿部にバレたらやべぇなと。
俺は、先日、サウナに行った時のことをぼんやりと思い出していた。
💙ただいまー!
💚おかえり、遅かったね。どこ行ってたの?
💙サウナ
💚また?本当に好きだよね
ふふ、と阿部が笑い、そのまま話が終わるかと思ったところへ、俺に電話がかかって来た。
💙はい、もしもーし。あ、康二?うん、あ、それ俺のだわ。今度会った時に渡してくれればいいや。うん、うん、ありがとね
電話を切ると、料理で包丁を使っていた阿部が、先端をこちらに向けて、俺をじっと見ている。
💚翔太、サウナって、まさか康二と行ったわけじゃないよねえ?
💙中で会ったんだよ、たまたま
💚つまり、康二と、行ったってこと?
💙話を聞け。たまたま……
阿部の雰囲気が変だ。
なんかよく聞こえないけど、虚空に向かって阿部はぶつぶつ言い始めた。
💚……てやる……野郎……たい
💙ちょ、亮平?どうかした?
いやこわいこわいこわいこわい。
💚ねえ、翔太。もう康二とサウナ行くのやめれる?やめてくれないと俺…
💙わーーかった!やめるやめるやめるやめます!!!
阿部の様子が尋常じゃなかったので、俺はそれ以来、二度と康二とはサウナに行ってない。中で康二を見かけたらUターンするくらいの徹底ぶりだ。
そしてその夜の阿部との営みは、ものすごかった。詳細は伏せるが。
もしかしてそれと同じ?いやそれ以上のことがこれから起きるのではないかと俺は心配になった。
照よ、無事でいてくれ。
そしてどうか、阿部にお前の気持ちがバレませんように………。
💛翔太はその、好きな人とか、付き合ってる人っているの?
💙えっ。いないけど?
俺は咄嗟に否定した。
俺たちはまだ隠してるターン続行中だ。
誰にもバラすわけにはいかない。
しかし、いない、と言った時の照のふにゃ〜とした可愛い笑顔に俺はどきっとするとともに、強い罪悪感が襲って来た。
💛じゃ、じゃあ、そういうことで!
照は言うだけ言うと、逃げるように帰ってしまった。
💙いや、俺の返事は聞かないんかーい……
俺はあまりの出来事にあっけに取られて、もはやトレーニングどころではなくなってしまった。
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