この作品はいかがでしたか?
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扉には、横長の長方形の窓が着いていた。
窓からは、机に突っ伏す誰かの姿が見える。
水色の髪をした中性的な人だ。
ほんとに生きてるのかな、この人。
扉を開けると、刺激臭が鼻を突いた。
なんだか理科室のような匂いがする。
窓から見えた中性的な人は、山になっている書類に囲まれて、眠っていた。
そして、部屋にある物の中で、私の目を最も引いたのは鉱石だった。
ケースに丁寧に保存される鉱石の数々。
中には裸石も混じっている。
そういえば昔、宝石が好きだったっけ。
当然、学生である私の手の届くような値段ではなかったけど。
たまに雑貨屋に行って1000円もしない水晶や、アメジストを買うのが好きだった。
「死んでるな、これは。さっさと帰ろうぜ」
「いや、生きてるから。よく見てみなさいよ。」
「いや、動いてないだろ。死んでるってこれ。」
「生きてる。」
「死んでる。」
カルヴァリーと言い合いをしているうち、無意識に声量が上がっていたらしい。
正面で睨み合い、言い合いを続ける。
冷静になって考えれば、しょうもない言い合いだ。それでも私たちは、互いに譲ろうとしなかった。
「どう見たって死んでるんだよ。さっさとルシフェル穣に報告して帰るぞ。」
「いや、生きてるから。どうしてそう譲らないのよ。」
「お前だって、どうしてそんな頑固なんだよ」
言い合いに夢中になっていた私たちは、今まで机に突っ伏していた彼が起き上がったことに気づいていなかった。
「ねぇ、君たち。僕の部屋で何してるわけ?」
怒りを孕んだその声で、ハッと我に返る。
「それに、僕は死んでないし、寝てもないから。」
顔をこちらに向けず、機械のように淡々と口を動かす。
「あ、突然ごめんなさい。アスカから、貴方のことを聞いて…。」
「ふーん。それで、僕のことを見に来たんだ。」
彼は、興味なさげに手元の書類に目を通している。書類には小さな文字がぎっしり詰まっていて、読む気になれない。
「研究、してるの? なんの研究?」
「…なんの研究でもないよ。」
「そう…。」
気まづい沈黙が、部屋に満ちる。
カルヴァリーの気配がいつの間にか消えていることに気づいた私は、目で彼の姿を探す。
「あの幽霊? あいつなら逃げたよ、僕と目が合って。」
「え。」
相変わらず視線を合わせず、私の返事を聞こうともせず、こう続ける。
「君も彼を追いかけたら? 君の連れでしょ。」
「別に。居なくなってくれた方がこっちもありがたい。」
再び、沈黙が流れた。
どう話そう。居候が居る、と紹介されて勢いで来たものの、それ以外特に目的があった訳では無い。
小窓から眺める程度にして、部屋に入るんじゃなかった。
「な、名前は? 名前はなんて言うの?」
「アルカ。アルカ・セイクレッド。」
「私、トウカ。」
「よろしくね。」
そう告げた彼は、初めて顔をこちらに向けた。
彼の青味を含んだ淡いグリーンの瞳は、宝石のフォスフォフィライトによく似ていた。
南国の海を煮詰めたような、そんな色。
少し触れればすぐに壊れてしまいそうだ。
私と目が合うと、彼はその瞳を大きく見開いた。幽霊でも見ているような、そんな顔。
「えぇ、よろしく。アルカ。」
「う、うん…。」
結局、彼と言葉を交わしたのはこれが最後で残りの時間は研究室を見て回っていた。
そして夕方頃、カルヴァリーが再び私の元を訪れ、帰ることになった。
「そろそろ帰るぞ、トウカ。」
「どこいってたのよ。」
「市場。帰りによろうぜ、買いたいもんがあるんだ。」
「買いたいもの…。」
部屋を出る直前、私はふと彼のことを振り返って見た。
でも彼は机に突っ伏す体制に戻っていて別れの挨拶をする事は叶わなかった。
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