時計の針が、0時をまわっていることにはとっくに気づいてた。
寝る気にもならなくて、電気も暗めのまま、
ソファに沈んでスマホをいじってたら、
気配がして顔を上げた。
廊下の奥。
るかが、寝間着のままふらっとリビングに入ってくる。
目は眠たそうでも、ちゃんと起きてて、
俺と目が合っても、何も言わないまま、
自分の居場所を探すみたいに、部屋を一周見渡す。
そして、なにもないテーブルの向こう側に、座る。
それだけ。
⸻
テレビはついてない。
スマホの画面の光だけが、部屋にほの明るく灯ってる。
しゃべる必要なんてなくて、
なんとなく“話さない方が自然”な空気が、心地よかった。
(あいつも、寝れなかったんだな)
それくらいのことは、言葉がなくてもわかる。
ソファに横になったまま、
るかの方にスマホを向けてみた。
画面には、猫の動画。
ほんの数秒、彼女の視線がスマホに落ちて、
口の端が少しだけ、動いた気がした。
「……」
それだけで、俺の方が嬉しくなって、
黙ったまま次の動画を探した。
⸻
深夜の空気は、静かで、重たくて、
だけどたまに、こうしてやわらかい。
るかは何も言わないまま、
気づいたら俺の近くに座りなおしていた。
背中が、ほんのすこしだけ触れる距離。
そのまま、彼女の呼吸が一定になっていく。
眠れない夜のはずなのに、
気づけばどちらからともなく、まぶたが重くなっていた。
⸻
いつかの夜にあった、ほんの少しの“心の温度”。
言葉のいらない距離が、ちょっとだけ縮まった気がした。
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