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Side 大我
広い体育館には、割れんばかりの拍手が響く。
それを聞きながら、あとのプログラムを思い出す。今やっと長い来賓紹介やら祝電やらが終わったから、次は……また長ったらしい校長先生の話だ。
心の中で息をつき、さっきもらったばかりの丸めた紙を握り直す。
人生で3枚目になる卒業証書。目標は、あと1枚もきっちりもらうことだ。
俺はちらりと斜め後ろを見やる。名前の順で並んで座っているから、樹は少し後ろのほうだ。
少しうつむいて、眠たげに腕を組んでいる。卒業式でもいつもの感じを貫く樹にどこか笑える。
そして本日何度目かの「おめでとうございます」を聞いて形式通りに頭を下げると、ようやく退席できるようだ。
在校生や先生、保護者の拍手を背で受け止め、赤くて薄い絨毯の上を歩く。まだ緊張で動悸はあった。
教室に戻ると、先生の話を聞いて、いよいよ解散。
樹はほかの友達と話している。それが終わるのを待っていると、「京本」と先生に呼ばれた。
「よく頑張ったな。去年とは見違えるようだって、保健室の先生も言ってた。これからもどうか元気でな」
僕の頑張りじゃないです、と首を振る。「樹が一緒に頑張ってくれたんです」
それに対し先生は、うんと笑いながらうなずいただけだった。
その後、ぽんと肩を叩かれる。見ると横で樹が笑っていた。
「マジで式だるかったな。疲れたわ」
お疲れ、と声を掛ける。
「じゃあ帰るか」
あの友達とは帰らなくていいのかな、って思ったけど俺を優先してくれるところが嬉しかった。
「樹」
校舎の玄関を出て、俺は前を行く彼を呼び止める。
「ん?」
振り返った樹の左胸を、軽く拳で突いた。その上には、薄紫色の花のコサージュが咲いている。
「頑張れよ」
樹ははにかんで、同じように右手の拳を俺の左胸に当てる。
「お前もな。頑張れ」
そう言ってから、どっちも恥ずかしくなって笑い合う。
楽しかった。そして楽しい。そう思えるのは目の前の戦友のおかげだ。
「行こう」
俺らは並んで歩き出す。その先の道は分かれている。それぞれの道へと歩いていくんだ。
そのとき一陣の風が吹いて、校庭の桜の木が揺れた。
ピンクの花びらがひとひら舞い降りてきて、また風にのって青い空へと舞い上がった――。
終わり