テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
呪いの目で見た最後の星 第一話・ノイズ
――こんばんは、今日も来てくれてありがとー。
メアの声が、モニター越しに軽やかに響く。
画面の中では、二人のアバターが並んで手を振っていた。
「今日は雑談ね。怖い話はしないから安心して」
そう言って笑うメアの隣で、メルは少しだけ視線を泳がせる。
――ねえ、メア。今日の……目札、ちょっと変じゃない?
「またそれ? 気のせい気のせい。昨日ちゃんと貼り替えたし、見えてるでしょ?」
そう。見えている。
火事で焼け落ちたはずの視界は、今もこうして世界を映している。
呪具「目札」。
それを貼っている限り、二人は“見ること”ができた。
コメント欄はいつも通りに流れていく。
〈今日もかわいい〉
〈エフェクトすご〉
〈その目どうなってんの?〉
メアは慣れた調子で返し、メルは相槌を打つ。
――……ねえ。
メルは、言葉を濁した。
画面の端。
部屋の壁の角に、黒いシミのようなものが見える。
最初は、目の疲れだと思った。
次に、目札の調子が悪いのだと思った。
でも、それは。
壁の“向こう側”が、滲んで見えているような感覚だった。
「メル? どうしたの」
メアが小声で聞いてくる。
――なんか……そこ、変じゃない?
「どこ?」
メアは同じ方向を見る。
でも、メアの顔はきょとんとしている。
「何もないけど?」
コメント欄も同じだ。
〈どこ?〉
〈なんも見えない〉
〈新しい演出?〉
――そっか……。
メルは、言葉を飲み込んだ。
その瞬間。
画面が、一瞬だけノイズに歪んだ。
〈え?〉
〈今の何?〉
〈ラグ?〉
次の瞬間、元に戻る。
メアは笑って言った。
「ごめんごめん、たぶん回線」
でも、メルには見えた。
さっきの一瞬、
壁の向こうに、“形を保てない何か”がいた。
黒くて、輪郭が定まらなくて、
この世界のものじゃない“隙間”。
――メア……。
声が震える。
――これ……“向こう”が……
「メル?」
その瞬間、
部屋の空気が、紙を破くみたいな音を立てた。
画面の奥。
ありえない角度に折れた空間の継ぎ目から、
何かが、こちらを“覗いた”。
コメント欄が一気に流れる。
〈なにこれ〉
〈演出?〉
〈怖いんだけど〉
〈ガチ?〉
――メア、切って!!
「え、ちょ、ちょっと――」
メルが叫んだ瞬間、配信は強制的に落ちた。
妖医は、目札を見るなり言った。
「呪具の異常じゃないね」
無表情のまま、淡々と。
「“世界の方”が、歪み始めてる」
メアは冗談めかして言う。
「なにそれ。世界のバグ?」
「そういう軽い話じゃない」
妖医は続けた。
「このまま進行すると、最初に壊れるのは――君たちの“目”だ」
メルの指が、無意識に袖を握りしめる。
帰り道、今度は情報屋から連絡が来た。
> 「観測され始めたね」
送られてきた画面には、
消える建物
途切れる道路
説明不能な怪異
の報告が並んでいる。
> 「これ、放置すると世界ごと詰むやつ」
軽い口調なのに、内容は笑えなかった。
その夜、屋上。
銀髪の女が、星空の下に立っていた。
「見えてしまったのね」
静かな声。
「世界の縫い目が、ほどけ始めている」
彼女は、二人を見る。
「あなたたちの目は、もう“内側”を見る段階に入っている」
メルは、空を見上げた。
星は、綺麗だった。
――ねえ……この目で見る星、
いつまで“本物”かな……。
その時、まだ誰も知らなかった。
この目が、
世界の終わりまでを見ることになるということを。