王都の廃墟に、静かな夜が訪れた。 だが、空に漂う黒い霧は、まるで生き物のように蠢いていた。
それは――影帝の存在が未だ王都を支配している証だった。
セレナとルシアン、そしてイザベルは廃墟の一角に陣取り、作戦を練っていた。
「奴の力は、前回の衝突でさらに増している」
ルシアンが地面に剣を突きながら呟く。
「そう……でも、私たちも強くなった」
セレナは胸の黒薔薇の心臓を軽く抱きしめ、冷静に周囲を見渡す。
イザベルも深く頷いた。
「森での経験で、私は自分の力を完全に制御できる。
これ以上、誰かに操られることはない」
遠く、黒い霧の渦が急速に収縮し、巨大な影の形を作り出す。
それはまるで闇そのものが意思を持ったかのように、三人に迫る。
「……これが、影帝の本体か」
セレナの声は静かだが、力強く響いた。
影帝の影は人間の姿をしていたが、その輪郭は歪み、足元には無数の喰魔の影が絡みつく。
空間全体が黒く濁り、重力のように二人を押さえつけた。
「黒薔薇の継承者よ……
お前たちが強くなったことは認めよう。
だが、私の深淵の前では何も意味を持たぬ」
影帝の声が脳裏に直接響き、恐怖と絶望を植え付ける。
だが、セレナは瞳を閉じずに睨み返した。
「……ルシアン、イザベル、私たちの力を合わせる」
セレナの黒薔薇の魔力が空間に渦巻く。
ルシアンは剣を地面に突き、魔力を増幅させる。
イザベルも黒い影を操り、二人の力と共鳴させた。
三つの力が交差する瞬間、黒薔薇の花弁が光を帯びて舞い上がる。
影帝の周囲の喰魔たちが怯え、ゆっくりと距離を取った。
「……これが、私たちの意思よ。
誰にも奪われない、私たちの――」
だが、影帝は静かに手を上げ、闇の槍を無数に生み出す。
槍は三人を貫く速度で迫る。
「……覚悟はできている!」
セレナが叫ぶと、黒薔薇の魔力が槍を弾き返し、衝撃波が王都の瓦礫を吹き飛ばす。
影帝の力は圧倒的だ。
だが、三人の意思の結束は、それに匹敵する力となった。
空間が歪み、光と影の衝突音が王都を震わせる。
瓦礫は舞い上がり、夜空に赤黒い光が散る。
ルシアンがセレナの肩に手を置き、叫ぶ。
「セレナ! 心を信じろ! お前の力は、ただの暴力じゃない!」
セレナは深く息を吸い込み、黒薔薇の力を全身に巡らせた。
黒い花弁が光となり、影帝の闇を切り裂く。
影帝の顔がゆがむ。
その力は強大だが、三人の意思の前では揺らいでいた。
「影帝、これ以上誰も傷つけさせはしない!」
セレナが叫ぶと、黒薔薇の花弁が光の渦となり、影帝を取り囲む。
ルシアンとイザベルも隣に立ち、それぞれの力を黒薔薇の渦に注ぐ。
三つの力がひとつに結ばれた瞬間、影帝は初めて後ずさった。
その目には恐怖の色が浮かぶ。
「……これが……人の意思……
なるほど……なるほど……」
王都の夜空に、黒と金の光が舞い上がる。
黒薔薇の覚醒は、影帝を追い詰め始めた。
──こうして、影帝との最終決戦の序章が幕を開けた。
三人の力と意思が、王国の運命を左右する戦いへとつながる。
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