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なんでこうなってしまったんだっけ…?
✻✻✻
-霜月ユキナリside-
リンタロウとミサキさんには謝って済まされ無いようなことをしてしまったと思う。
5年前の事件の時も、そしていまさっき起きたことも。
俺のせいだ。
俺のせいで、リンタロウはミサキさんを…
爆発に巻き込まれ酷く燃えている建物を見つめながら、俺は2人に心の中で何度も謝った。何度も何度も。
リンタロウは…俺が建物を出ていったあとどうしているのか。
「…いけよ」
最後に一つ俺に向けられて放たれたリンタロウのあの言葉からは、今までリンタロウが背負ってきた全ての感情が込められていたように感じる。
俺ではリンタロウを、あの場から引き離すことが出来ないってそう思ったんだ。
建物から出るという選択肢しか俺には与えられなかった。
涙が止まらない。俺は、最後までこのゲームから逃げ続けていたんだ。最後の最後まで、俺は何も変わることが出来なかった。
そう何度も後悔したって今まで死んだ人たちが生き返るわけもないし、なんの意味もないこともわかっている。
俺はやっと少し足を動かした。もうこの場所に戻ることもないだろう。さっきまで見つめていた炎に包まれた建物から目を逸らし、少しずつ建物から離れていく。
「…うっ…」
後ろから微かに小さなうめき声が聞こえたのを感じて俺は足を止める。
「…なに?なんの声?ま、まさか…リンタロウ…?!」
リンタロウは生きていたのかもしれない。
あの一瞬でそう感じた。俺は急いで声が聞こえたであろう場所に駆けつける。
目星だった場所には誰もいない。
「気のせい…だったのか?」
やっぱり俺はまだ気疲れしてるんだろうか。
リンタロウたちのことを気にしすぎていて幻聴まで聞こえていたみたいだ。
さっきまで体が強ばっていたのだろうか、少しずつ肩から力が抜けていくのを感じる。
ふと下を見下ろした瞬間だった。
「え…コウ、さん…?」
そこには木の下で寝かせられてるコウさんがいた。
彼は最後の狼デスマッチで、リンタロウに心臓を撃たれていたはず。
コウさんが倒れていたのも俺はしっかり見ていた。
だからなぜあそこで死んでいた彼がここにいるのか俺はわからなかった。
「コウさんがなんでここに?!…い、息がある…。生きてる?」
俺はそっとコウさんに近づき、胸元を見た。
呼吸はできているようだ。
ただ今のコウさんはぐったりと全身から力が抜けているようだった。
コウさんを少し揺さぶりながら声をかける。
「コウさん!おきてください!おねがいです…、コウさん…!」
何度、小さく揺さぶって声をかけてもコウさんは起きない。
あぁ…ダメなんだ。神様は最後まで俺に残酷なものを突きつけてくる。
これは俺が今まで全ての問題から逃げ続けていた罰なのか。
目の前で人が死んでいく瞬間なんてもう見たくなかったのに…そう思うと頬には涙が伝わってくる。
もう…行こう。そう立ち上がろうとした瞬間だった。
「…おま…えは、ユキナリ…か?」
「コウさん…?!」
先程まで力なく倒れていたコウさんは、瞼を少し開け、苦しそうに息をしながらこちらを見つめる。
俺は安心した。生きてたんだ…俺以外にも生きている人がいたんだ…。
立ち上がろうとしていた体制から、すぐ足元に力が抜けたのを感じて俺は、座り込むようにたおれた。
「コウさん、無理しないでください。…ゆっくり、話せるようになってからで大丈夫です…」
無理にでも立ち上がろうとするコウさんをみて俺は手で止めながら宥めた。
俺の心配をする行為が不快に思ったのか、コウさんは顔を顰める。
そして手で頭を抱えて考え込んでいた。
「…く、…少しフラフラするが、まぁ大丈夫だ…。それより…俺は、殺されていないのか…?」
「そう、ですよね?コウさんはデスマッチであの時リンタロウに心臓を撃たれていたはず…」
紛れもない胸元に血がべっとりとついているコウさんを見ながら俺は震えるような声で話しかける。
俺の目線が胸元にいっているのがわかったのか、コウさんは着ていたコートをバサッと脱ぎ捨てた。
「…いや、あれは、胸元に鉄板と輸血パックを仕込んでいたんだ。まぁ狙い通りにリンタロウが心臓に目掛けて撃ってくるとは確信はしていなかったがな…。いや、それよりも後の話だ。」
「後の話…?」
「…ふむ、やはり…夢ではなかったな」
「一体どういうことなんですか?」
コウさんは立ち上がったと思ったら、炎に包まれている建物を見上げる。
そして俺に今まであったことを話してきた。
デスマッチでコウさんは奇跡的に撃たれずに済んだこと。
建物が燃えはじめてからリンタロウと再会し、リンタロウを脅した後に隠されていた出口から脱出したこと。
そしてその後にリンタロウの目の前で気を失ってしまったことを。
「そんな…ことが…?」
「あぁ…てっきり俺はリンタロウに殺されるかと思ったが…。それよりユキナリ、お前も生きていたんだな」
「はい…」
俺を見下ろしながら眉をしかめるコウさんに俺も簡潔に全てを話した。
全てを…。俺がミサキさんを殺してしまったことも…。
「…なるほど。そんなことがあったのか。俺が出会ったのは、その後のリンタロウだったわけだな?だからあんなにも衰弱していたのかアイツは…」
「…はい…でも、コウさんリンタロウと一緒に出てきたってことは、リンタロウは生きているんですよね?」
「あぁそのはずだとは思うが…アイツの考えはなんにしろ俺達には分からない。…アイツがこの先どこに行ってどう生きていくつもりなのかもな」
どう生きていくつもりなのか
その言葉は俺に強く突き刺さった。俺が最後にリンタロウを苦しめた言葉だ。
少しずつ俺の息が乱れていくのがわかる。
「はぁ…はぁ…っ」
「…なに?ユキナリ、どうした?!」
俺の息が段々と早くなって行くのに気づいたのかコウさんは珍しく慌てた表情をしながら俺に近寄る
「ユキナリ、深呼吸だ。できるか?」
「はぁ、はぁ…」
微かにコウさんの声が聞こえるが、それでも俺の頭の中は、目の前でミサキさんが撃たれる姿でいっぱいだった。
その後の絶望に満ちていたリンタロウの顔もずっとずっと頭の中で再生されていく。
目の前がミサキさんの後ろ姿で覆われたと思ったら銃で撃たれ、そのまま横に倒れていくミサキさんの向こうで段々と見えてくる絶望した表情のリンタロウ。
永遠に脳内で再生されていく。
いやだ…俺のせいで、俺はまた人を殺したんだ…
トモヤくんの時も…そして今回も…
俺は2人も殺したんだ…
「はぁ…はぁ…はぁっ」
「おい!ユキナリ!聞こえていないのか?ユキナリ!」
目の前が段々と暗くなっていく。
もうコウさんの声も聞こえない。
苦しい…身体が重たくなっていくのも感じる。
もうこのままいっそ…死んでしまいたい…そう思った瞬間、俺は暗闇に閉ざされた。
「……コウくん。ユキナリくんを運んであげて」
意識を失う前のほんの一瞬の間に、リンタロウの声が聞こえた気がした。
✻ ✻ ✻ ✻ ✻
意識を失ってから何時間たったのだろうか、重たい瞼を少しずつ開いていくと、目の前にみえるのは見慣れない白い天井だった。
無意識に涙を流していたのか、瞼も腫れぼったく感じる。
「ここ…は…?眩しい…」
ゆっくりと身体を起こしていくと、辺り一面はより一層俺の知らない場所だった。
いつの間にかベッドの上に寝かせられており、ご丁寧に毛布までかけられているようだ。
「…?ここは一体…」
赤く腫れているであろう瞼をぱちぱちとしながら、光に目を慣れさせていく。
そうすると奥のドアがガタっと音をならせた後に開けられていく。
ドアを開けられた時に一番最初に目に移したものはコウさんだった。
「え…?コウさん?」
コウさんは狼ゲームの時に着ていた服とは違う服をきており、片手にはマグカップをもっていた。
「やっと起きたのか…。全くいきなり過呼吸になって倒れるかと思ったら6時間も人のベッドで寝るとはな…。金は後で請求させてもらうが、まぁ今はいいだろう。白湯でも飲んで落ち着いていろ」
困惑する俺なんか気にもとめないようで、お湯の入ったマグカップを俺の横の机にカタンと置いた。
「ちょ、ちょっとまってください…どこですかここは?」
「…ふむ。まぁ気を失っていたから覚えていないのも当然だな。ここは俺の家だ。お前がいきなり倒れるから仕方なくお前も連れてきてやった。」
「え?コウさんの、家?」
「あぁ。」
コウさんはマグカップを俺の机の横に置いたあとすぐに、その場に座り込み、机の上のパソコンを触りながら淡々と説明をしてくる。
俺には何が何だかさっぱりだ。
「それと、お前の服は今洗濯している。何日間も同じ服装で汚れていたからな。汚い服のまま俺のベッドに寝かす訳にもいかんだろう?…だから、俺の服を着せてやった。……仮はもちろん返してもらうがな??」
やっと俺の方を見つめたコウさんは、狼ゲームの時によく見せていた不敵な笑みを浮かべている。
ゾワッと鳥肌が立つのを感じながら、俺は自分の服を見つめ直すと、普段なら絶対に俺が着るわけにはいかないであろう服が着せられていた。
「わ…本当だ…。すみません、何から何まで…大変でしたよね」
「ふん、まあいい。…別に俺一人で行った訳でもないからな」
「え…コウさんひとりじゃないって…?」
またもやよく分からないことを言い出すコウさんを見つめていると、コウさんが閉じたはずのドアはまた誰かによって開けられていく。
「えっ…なんで?」
ドアをあけたのはリンタロウだった。
服も自分のだとは思うが、狼ゲームで着ていたものとは変わっていた。
リンタロウは小さくつぶやく俺に段々と近づいてくる。
「ユキナリくん…。起きたんだね。よかった。あのままもう目を覚まさないのかとおもったよ」
「はぁ…だから俺は言っただろ?気を失っているだけだ。大袈裟にするなと」
リンタロウは俺の手を取り、優しく微笑んだ。
この表情を俺は見た事がある。
ミサキさんが撃たれて死んでしまったあと、抱き抱えていたリンタロウがほんの少し見せていた表情だ。
優しくて暖かい。そんな瞳を俺にみせてきた。
「リンタロウ…どうして君がここに…」
「それはね、ユキナリくん。今から説明するから聞いてほしい」
リンタロウは、コウさんを外に出したあと1度殺そうとしたのをやめて、そのまま建物から離れようとしていたが、
気を失って寝かせられていたコウさんの方を最後に振り返ると、俺がコウさんに駆け寄るのがみえたんだとか。
俺とコウさんが話しているのをリンタロウも、すぐ近くで盗み聞きをしていたみたいで俺が気を失うのと同時にリンタロウが助けにきたらしい
どうしてそんなことを?と聞くとリンタロウは、姉さんがもう復讐はおしまいだ、これからは人を助ける人生を送るべきだって言っている気がしたんだって優しく呟くリンタロウに俺は少し驚いた。
気を失った俺を連れて、リンタロウたちはコウさんの家にむかって、今に至るらしい。
「状況はわかったんだけど…、リンタロウは…俺たちが憎くないの?」
「もういいんだ。僕の復讐は全部終わったんだよ。姉さんがそう教えてくれた。だから僕は君たちを完全に許すなんてことは言わないけれど、たくさんの人を苦しめてきた分、頑張って生きていくよ。…これが最後に君が僕に聞いた質問への答えだ。」
「…リンタロウっ」
リンタロウの目には涙が溜まっていた。今にも溢れ出そうな程に。
そんなリンタロウをみて、俺はリンタロウよりも、大袈裟に泣いてしまった。
泣きじゃくっていたと思う。年下の男の子より泣いてしまうなんて恥ずかしい話だろうが、今はそうすることしかできなかったんだ。直接何度も謝って謝って
泣いて縋ることしかできなかった。
2人が起こしたあの復讐劇は決して賞賛されるものじゃない。
でもきっと今でも両親からの愛情を受けながら平穏に育っていくはずだった子供だった彼らには、想像を絶する程の苦しみを感じて、行き場のない感情を止めることがなく何が正しいのかも分からなくなって、こんなことをやってしまったんだろうって言うのが、伝わってきた。
そう1度でも思ってしまったら俺の涙が止まることは無かった。
リンタロウに縋り付き、ただずっと涙を流し続ける。
「ごめん、リンタロウ、ごめん本当にごめん」
「いいんだ。それに…僕はもっと酷いことをみんなにしてしまったからね。きっとこれからもっと大きな罰が僕には待ってると思う」
「そうだな。きっとそのうち警察がここを嗅ぎつけてやってくるだろう。今のところ、ネットではさほど大きく取り上げられてはいないようだが…」
リンタロウは俺の肩を優しく撫でながらコウさんの方を見つめている。
コウさんとリンタロウも俺が寝ている間に色々あったのかな。
そんなことを考えながら、俺は泣き疲れてまた眠ってしまった。
「…ねえコウくん。…君は僕とユキナリくんを本当にここに住まわすつもりなの?」
「ふん。別に構わん。…お前の苦しみをわかってやれなかったんだ。俺だって十分な程に罪はあるだろ。…まぁ少しでもいいからできることはさせてくれ」
「……すごいね。人が変わったみたいだ。お金のことしか考えていないような君がまさかそんなことを言うなんてね」
「なんとでも言っていろ。…ただ俺もまさか自分がこんなことをするなんて思ってもいなかったがな」
「きっと…ユキナリくんのおかげなのかな?」
「ふっ…さあな?とにかくユキナリには今日はゆっくり眠ってもらうぞ。…邪魔だけはするなよリンタロウ」
「わかってるよ♪…きっとこれから大変なことが待っているんだもん。コウくんもゆっくり休んでこれからに備えないとだよ」
「お前に言われなくてもそうするつもりだ」
「…うーん…もう、たべれないよ…、はっ!」
チュンチュンと窓の方から小さく聞こえる鳥の鳴き声と共に、俺は目を覚ました。
色々ありすぎたのか、身体にはまだ疲れが残っているようだ。
「昨日のは夢じゃなかったんだな…」
そう呟きながら、身体を起こそうとするとなぜだか身体が締め付けられて動けない。
不思議に思い、自分の体の方を見つめる。
「り、リンタロウ?!」
するとそこには俺に抱きつきながらすやすやと気持ちよさそうに眠っているリンタロウがいた。
どういうことだ、これは…?
俺がつい大きな声を出してしまうとリンタロウは不快に思えたような顔をしながら、目をゆっくりと開けて俺を見上げる
「ユキナリくん、おきたんだ…、おはよう」
「い、いやおはようじゃなくて、なんで俺に抱きついて寝てるんだよ?!」
「…いろいろあったんだよ〜♪」
そういい再び眠りにつこうとするリンタロウはバチんとデコピンをくらっていた。
デコピンをしていたのはいつからそこにいたのか分からないコウさんだった。
「…おい、リンタロウ。お前…、邪魔はするなよと言ったはずだが?」
「なにすんのコウくんっ!痛いよ!寝起きにデコピンとか最低だ!」
「朝から騒ぐな。うるさい。」
「い、いやなんで2人ともここにいるんですか?!」
「ユキナリ、ここは俺の家だ。どこにいようと俺の勝手に決まっているだろ。それよりもお前は貸してもらっている立場でよくそんなことが言えるな?」
「うっ、す、すみません…」
「リンタロウ!お前は早く起きるんだ!」
「うるさいよお〜」
朝っぱらから騒がしいな…と思いつつもなんだか狼ゲームの緊張感がないと思うと少し安心した。
ずっと1人だと思っていたから、朝起きてこの2人が楽しそうにしているとなんだかすごく幸せに思えてくる。
「もう…コウくんのせいで目覚めちゃったよ!」
「俺は目を覚ませといったはずだぞ」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて…」
この2人は狼ゲームの時でもよくこんな言い合いをしていたけど、まさか狼ゲームが終わったあとでさえこれが見れるなんて、なんだか不思議だ。
リンタロウの手が俺の身体から離れたのを見たのでやっと起き上がると、リンタロウはこっちを異様に見つめてくる。
「ユキナリくんってば酷いよね〜…自分から『ごめんね…許して、お願い行かないで……』なんて僕を抱きしめながら言うから、渋々隣で寝てあげたのに〜♪」
「はぁ?!そ、そんなこと言った覚えはないけど…?!…あっ」
リンタロウの意味不明な発言に戸惑いつつ、寝ていた時の夢を頑張って思い出すと、心当たりが少しある。
トモヤくんが夢に出てきたんだ。
夢の中のトモヤくんはどこか嬉しそうで、でも寂しそうなそんな目をしてた。
だからたしか声をかけた気がする。勇気を振り絞って。
きっと狼ゲームに参加する前の俺だったら、夢の中でのトモヤくんにさえそんなことできなかっただろう。
でも今の俺ならできた。少しは変われたのかなぁ。
「トモヤくん、ごめんね…許して…」って伝えられたんだ。
その後のことははっきり覚えてはいないが、ただすごく急に冷えて来た身体がだんだんと、あったかくなったのは少しだけ覚えている。
ま、まさか…!あったかくなったのって…
「俺、寝言いってた…?」
「うん♪泣きながら抱きしめてくるから僕びっくりしたよ。コウくんはもう寝てたから知らないと思うけど…♪」
「な、なに…?!おい、リンタロウ。なんだその顔は」
リンタロウはコウさんの方に顔を向けると、いじらしいような顔を見せて俺に抱きついてくる。
俺はそんなことは気にもとめず、なんて恥ずかしいことをしてしまったんだ…って後悔している。
恥ずかしい…
「ふん…まぁいい。とりあえず、睡眠をとって少しでも体力をつけてもらったからな。今日からは色々動いてもらうぞ」
「そうだね〜♪…ユキナリくんはとりあえずお風呂に入ってきたら?コウくんの部屋のお風呂広かったよ〜♪」
「そ、そうなの?…確かにまだ入ってないよね俺…」
「いやその必要は無い」
「え?」
俺は昨夜のことを思い出すと確かにコウさんの部屋で目を覚ましてから眠りにつくまで、風呂に入った覚えは無い。
着替えはコウさんから勝手にさせられていたみたいだけど…
潔癖ぽそうなコウさんがどうして…?
「俺が昨日ユキナリとついでに風呂に入ったからな」
「…どういうこと?コウくん」
思わず発せられたコウさんの発言に俺はすぐ反応できなかった。どういう意味で言っているのか理解がまだ追いついていなかったからだ。隣にいるリンタロウも俺から手を離したと思ったらコウさんの方にズケズケと近づいていく。
「…ユキナリ。覚えていないのか。…まぁ随分と気持ちよさそうに寝息を立てていたから無理もないか」
「ちょ、ちょっと待ってください…ついでに入ったって?」
「まさかコウくん…!僕に買い物を行かせてる間に…?!」
俺が話についていけないと頑張って話の中に入ろうとするが、リンタロウとコウさんは俺のことなんか気にせずに言い合いを始める。
いや、あの…俺を置いてけぼりにしないでほしいんだけど…
「ふん。俺のベッドに寝かせるんだ。風呂も入らずなんて許せるわけないだろ。着替えさせるついでに寝ているままのユキナリをついでに風呂に入れた。俺も入る予定だったからな。あくまで、『ついで』だ」
何を言ってるのかさっぱりわからない…。
俺は何度このセリフを言ったのだろうか。
確かに一度目を覚ましたとき、やけにさっぱりしてるなとは思ったけれど、まさか俺を風呂に入れさせてたなんて…しかも一人で?!
さ、さすがに難しいんじゃないか?
顔に冷や汗をダラダラとかきながら俺は口をポカンと開けたままコウさんを見つめる。
「コウくん…だから僕に買い物行かせたんだね…?ユキナリくんのためだとかいって…」
「騒がしいなお前は。…はぁ、別に買い物自体はユキナリのためだったんだから事実だろ」
「そうかもしれないけど、僕に一言ぐらいあったんじゃない?!ていうか、僕の方が力はあるんだからユキナリくんのお風呂入れさせるの手伝えたし!」
「俺はお前と一緒の風呂に入るのはもうごめんだ。ろくでもない事しかしないからな?」
「ていうかユキナリくんもコウくんに勝手にお風呂入れられててよく目覚まさなかったね?!」
「そ、それに関しては俺も思うけど……まさかそんなに気を失ってたなんて…」
リンタロウの言う通り、どれだけ深く眠っていたんだと自分でも頭を抱える程だ。
コウさんはパソコンを閉じた後、左脇に抱えながら立ち上がる。
「とりあえず、今はこんなくだらないことはどうでもいい。早く動ける準備をしろ」
「コウくん!どうでもよくない!」
「そ、そうですよコウさん!!話そらさないで!」
「うるさい。退け」
リンタロウと俺で、立ち上がるコウさんの前に立ち塞がり必死に講義するが、コウさんは眉間に皺を寄せながら、リンタロウの肩を押し退けスタスタと歩いて部屋を出ていった。
「いて!ちょ、ちょっと待ってよコウくん!!ほら、ユキナリくんいくよ!」
「あ、ちょ…わ、わかった!」
リンタロウに手首を引っ張られ、それに釣られるように二人でコウさんの後ろについていく。
✻✻✻✻
今まで本当に色々あった。
今話したあの話は、俺とコウさんとリンタロウが3人で住み始めることになった流れだ。
あの後は、リンタロウ達の読み通り、警察に追われたり、捕まってしまったり、ソウシロウさん達と協力して計画をたてて、いい方向にいったとおもったら最終的には、リンタロウがとんでもないことをしようとしてたり…
コウさんは論理的にリンタロウを説得していたけど、俺なんかは最終的に、めちゃくちゃ泣きじゃくって縋って説得していたと思う。
そのおかげか、リンタロウは思いとどまってくれて、結果的に、もうあの生活に慣れたからなのか流れのままコウさんの家でしばらくずっと3人で暮らしてる。
いやでもほんとに…もう言葉では説明できないほど、うんざりするぐらい色々あったんだよ…
まぁなんやかんやあったけれど、今は3人で暮らすのも悪くはないと思ってる。
今日もそんな一日を迎えるころだ。
「あ、おはようユキナリくん」
「おはよう…。あれ?今日リンタロウって出掛けるんだっけ?」
俺とリンタロウはコウさんの家の部屋のひとつを借りて、一緒の部屋で寝ている。
布団は別々だが、たまーにリンタロウが寝ぼけて間違えるのか朝起きたら俺の布団にリンタロウが一緒にいたり…なんてこともあるけど、どうやら今日は違うみたいだ。
リンタロウは俺よりも早く起きていて、既に髪の毛をセットしているようだ。
起きた俺に気づいて挨拶をしてくるリンタロウは、すぐさま鏡へと視線を戻して、頭にバンダナをつける。
「うん…ちょっとね♪ コウくんも今日は出掛けてるみたいだからユキナリくんは大人しく家で待っててよ?♪」
「え、コウさんも出掛けてるの?」
「うん♪ちょうど30分前に出かけたよ〜」
「そうなんだ。…俺もどっかでかけようかな…」
「ユキナリくんは出掛ける場所なんてないでしょ?」
2人とも家に居ないのであればすることも思いつかないし、俺も外にでようかなってかんがえていたら、リンタロウに図星をつかれる。
そうだ、俺は基本的に家で過ごすし、ほとんどはゲームをやって1日を終わらすことが多い。
だからニヤっと笑うリンタロウにぐぐっと言葉を詰まらせた。
「…そ、そうだけど…、…はぁ今日も引きこもりだ」
「ふふっ♪じゃ、僕はもう行くから!いってきま〜す」
「うん、行ってらっしゃいリンタロウ!」
いつもの派手なジャンバーをバサッと羽織ったリンタロウは、ちょっと急ぎなのか動きは俊敏で、急いで玄関へと向かっていき、そのまま家を出ていった。
「あーあ、暇になっちゃった」