コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
-新村コウside-
お気に入りのカフェで、日差しが程よく当たり、人の目もあまり気にならないお気に入りの席で、コーヒーの隣でパソコンを開く。
「…アイツはまだか?」
今日はあまり人がいないようで店の中は、いつもより静かで店内BGMがよく聞こえる。
まぁそれは狙っていたんだがな。
大事な話をする必要があるから、こういう時は人があまりいない方がいい。
他のやつの話し声などあると邪魔になってしまって集中できない。
そんなふうに考えながら愛用のパソコンのキーボードを叩きながらコーヒーを飲み、相手を待つこと30分ほど…
「いたいた!コウくん♪ あれ?今日この店人少ないね」
「ふん。読み通りだ。この曜日のこの時間帯は人が少ないからな。…それより、時間がかかりすぎだ。」
「ごめんよ〜♪あ!僕なににしようかな?オレンジジュースにしよう!すみませ〜ん!」
「くっ…コイツは……」
今日話をする相手は俺のルームメイトの1人、リンタロウだ。
一緒の家に暮らしているが、リンタロウと俺が一緒に家をでていくとなると、ユキナリは自分だけハブられたと不安になってしまうだろうし、変な誤解も下手に生ませたくはないのでわざわざ出かける時間をずらしたんだが…
コイツはどうも能天気で2人っきりとなると馬が合わん。
注文を終えたのかリンタロウはこちらを真剣な表情で見つめてくる。
「それで…ユキナリくんのことだったよね?」
「……あぁ。」
そう。今日わざわざそんな効率の悪いやり方でコイツと話をするという約束を結んだのは、全てこのためだ。
ユキナリ…
狼ゲームが終わってからリンタロウと俺はかなり変わったと思う。認めたくはないが、そう自分でも感じるから仕方ない。
ただあいつだけは、ずっと何かを背負っているような表情をたまに見せる。
狼ゲームの施設から出た後、俺はユキナリに揺さぶられ目を覚ましたが、しばらくするとアイツは過呼吸になり始めた。
気を失ってしまうほどのものだった。
それが、その場の1回だけだったなら、どれほどよかったことか…
正確に言うと、それは1回だけではなかった。
何度も何度も何度も同じことは起きた。
普段は元気そうにするがふと1人になるとあいつは同じことになる。
何を考えてどうなって、あの状態になってしまうのか、大抵の予想はつくが…
……先程まで開いていたパソコンは部屋に設置した監視カメラをみはるためだった。
監視カメラとパソコンで映像を共有しているため、パソコンの画面を開けば部屋の様子全てが映し出されるようになっている。
監視カメラは元々防犯対策として設置していたが、常時確認するほどではなかった。
わざわざこんなことするのも、ユキナリがああなってしまった時のためにだ。
ふむ…今日はリンタロウと俺がでかけてしまったので、アイツは1人になるから外に出なければいいと思っていたが、幸い、リンタロウのおかげできっと今日一日は外に出ることは無いだろう。
「…コウくんいつまでパソコンの画面みてるのさ。それより早く本題に移ろうよ」
「わかっている…少し心配だっただけだ」
「…心配ねぇ…コウくんはほんと変わったね」
「あぁ」
パソコンを見つめながら考え事をしているとリンタロウから声をかけられたので、流石にパソコンから目を離すことにする。
さてそろそろ本題に移るとするか
「…リンタロウ、昨日のユキナリの様子はどうだった?」
「昨日は何ともなかったよ。一昨日は知ってると思うけど、酷く魘されてたから一緒に布団にはいってあげて、落ち着かせたけどね…♪」
「そうか。…アイツはいつになったら治るんだ。…原因もわかっているのに」
「しょうがないよ〜。…アレは彼に植え付けられたトラウマだもん。僕たちにはどうすることも出来ない。彼自身が変わらなくちゃ」
「でもアイツは自覚がないんだろう?」
「…多分だけどねぇ。それと、未だにユキナリくんが僕を見る時にたまに、一瞬だけ怯えた表情をする時もあるんだ。…コウくんもそうでしょ?」
「…あぁ」
そう、リンタロウが言う様にユキナリを縛り付けているのはトラウマの1部だ。
アイツが過呼吸になり始めて蹲る状態になると、毎回同じことを何度も呟く。
「トモヤくん…ごめんっ、許して…、ミサキさん、…ごめん…っ」
……その言葉も何回も耳に入ってきた。そしてユキナリを考える度にその言葉が俺の頭にもチラつく。
あの状態になるまでへの原因の予想はついてるが、
ユキナリが俺たちを見た時に一瞬怯えた表情をする意味だけは未だに分からない。
というよりそれは最近始まったことなのだから。
「あの表情をするようになったのはいつからだ?」
「多分だけど〜…2週間前ぐらいかな?」
「ふむ…そうだよな」
2週間ほど前の話だ。
家の中でペンを探していた時にユキナリがちょうど俺の近くを通ったので、ユキナリに居場所を知らないかと聞くとアイツはほんの一瞬俺をみて、怯えた表情をしながら「ひっ…あ…ああ、コウさんか」 なんて呟きながら、すぐいつもの表情へ戻していた。
その一瞬だけの違和感を俺が見逃すことはなかった。
ユキナリは俺にペンを急いで渡し、そそくさとその場を去ったので本人に聞くことはなかったが、きっと本人に聞いても自覚はないんだろうと予想はついた。
リンタロウが帰宅してきた時にユキナリが居ないことを確認した上で、先程あった話を告げたが、どうやらリンタロウも思い当たりがあったのか目を見開き俺を見つめてくる。
「コウくんも…なの?」
「お前もか…」
ユキナリの様子に感じた違和感が噓ではないことがここでわかった。
リンタロウは自分の手を顎にもっていき少し考え込んでいる。やがて顔を上げると不安が入り交じった表情でこちらを見つめてくる。
「ねぇコウくん。ユキナリくんのあの感じいつものとは違うよね?」
「やはりそう思うか…?」
「うん。僕、あんな表情のユキナリくんは初めて見た…」
リンタロウがこんな顔をするのも無理はないだろう。
ユキナリは元々ビビりがちな性格をしており驚いた表情をすることも多いが、あの表情は……
俺たちが化け物にでもみえているのか、何かにおびえていた。……確実に。
「…しばらく様子見は必要だろう。何か不審に思うことがあったら報告するんだ。わかったか?」
「うん。わかったよ」
あのやり取りから、ユキナリは何度か同じことがあった。
やはりユキナリ自身になにか変化があったのには間違いはないだろう。
俺はリンタロウに近づき、治る様子のないユキナリのことを話し、今日の約束を取り付けた。
「ねぇ、やっぱりユキナリくんに直接聞いてみるのは?」
「いや、ダメだ。……アイツはきっと自分は普通だと思っている。変われていると」
「そうかもしれないけどさぁ!僕らがこんなふうに話してたってユキナリくんが変わることはないじゃん!」
「……怒鳴るな。静かにしろ」
それもそうだ。リンタロウの言うことも一理あるが、ユキナリにこのことを直接聞くとなるとなんだか嫌な予感がするのはなぜだろうか。
危ないことが起きるではないかと、柄にもなく冷や汗をかくほどだ。
「とりあえずは、ユキナリに直接聞くのはやめておこう。だがなにか行動に移さなければいけないのも事実だな」
「…じゃあどうするの?」
「それを今から考えるんだ」
とは言っても全く考えがつかない。
一体どうすればいいのか…
小さく店内BGMが流れる間すこし沈黙が続いていた。
「ねぇコウくん。…ちょっと思いついたんだけどさ♪」
「はぁ?」
沈黙を破るようにリンタロウはニヤつきながら言葉を発する。
「一体それになんの意味があるんだ?」
「ふふ♪ ユキナリくんのストレスの緩和になるかもしれないし、……それになにか変化が起きると思うんだ♪」
「……ふむ。」
リンタロウの話した案は、悪くはないが、ただ特別プラスになるとは断言できない。
だが、今このままなにもせず動かないままでいるとユキナリはきっと…………
他に解決策もない。これでいくしかないな。
「よし、リンタロウ。今日からだ。わかったな?」
「もう!僕が考えた案なのに仕切らないでよ!言われなくても今日からやるしね♪ちょっと楽しそう♪」
「ふん……」
リンタロウが少し残るオレンジジュースをストローで吸いながら、俺はパソコンをまた開き監視カメラの映像を画面越しに見つめる。
しばらくして問題がないことがわかると、2人で会計を済まし、店をでた。
「さて……俺は特に用事がないからもう家に帰るが、お前はどうするんだ?」
「う〜ん、僕もとくに用事は無いし、帰ろうかな〜?」
「チッ、じゃあ俺は少し遅れてからにするか……」
「うん♪僕先に帰ってユキナリくんのところいくからね〜」
「わかった。じゃあまた後でだな」
「うん♪」
その後リンタロウと別れたあと俺は時間を潰すためにスーパーまで行き、小麦粉とフルーツを数個買って家に帰宅した。
「ただいま」
俺が玄関ドアを開けて家に入るといつものようにおかえりなさいと言って駆け寄るユキナリの姿は見えない。
見下ろすと確かにユキナリとリンタロウの靴は置いてあるので家にいるはずだが……
嫌な予感がする。額の熱がどんどん下がっていくのがわかる。
サンダルをいとも簡単に脱ぎそのままリビングへと早足で向かうと俺の予感は的中していた。
「ちょ、リンタロウ。ほんとに!なんかいつもよりおかしいよ?!頭でもぶったんだろ?!」
「だーかーら、今日からはユキナリくんに優しくして甘やかすって決めたの〜♪ほら、僕がきったリンゴだよ♪うさぎに切ったはずだけど……まぁ味は変わんないから♪」
「それうさぎだったの?!全然違うけど……ていうかあーんとかしなくていいって!なんでそんな急に?!」
「いいからいいから♪」
「むぐ、んん!!」
……はぁ…
目の前で見せられている想像以上の非残な光景に肩の力が抜ける。
リンタロウはユキナリにベッタリと引っ付き、切ったリンゴを(ウサギ切りらしい)ユキナリの口の中へと無理やりに突っ込んでいる。
ユキナリは必死に抵抗しているように見れるが、リンタロウの力には勝てないんだろう。
結局されるがままになりながらも、訴え続けている。
まさか……早速ここまでするとは…
アイツやっぱりふざけていたんじゃないか…??
気がつくと俺はリンタロウの額を手で押し退け、左腕でユキナリを覆っていた。
「リンタロウ。落ち着け…全くお前はどうしてそうなんだ?」
「いたいなー!コウくん邪魔しないでよ!!もう!ユキナリくんほらまだリンゴあるよ♪」
「コウさん?!…ってだから食べるけどあーんは恥ずかしいからしなくていいって!」
「恥ずかしがらないでよ〜♪ほらほら♪」
「いい加減にしろ」
「あ、あの…コウさん助けてくれたのはありがたいんですけど……、それ、何作ってるんですか?」
「……」
「いやあのなんで無視…??」
「……はぁ。見たらわかるだろ」
そう。俺はリンタロウの作戦通り先程スーパーに寄って購入した小麦粉を使用し、ユキナリの好物のホットケーキを作っている。
普段なら絶対にこんなものは作らないが…
仕方ない。これも作戦のうちだ。
手馴れたようにホットケーキの生地を、熱してあるフライパンの上に乗せ焼き上がるのを待つ。
「ユキナリくんあれはね、ホットケーキを作っているんだよ♪」
「え?ほ、ホットケーキ…?」
「うん♪ほら見て、あれホットケーキの生地でしょ?」
「ほ、ほんとだ…」
奥の方でリンタロウとユキナリがこちらを見ながらヒソヒソと話をしているようだが大抵予想はつく。
普段こんなものを作らない俺が意外だとでと思っているんだろう。
俺だって本望ではない。
そんなことを考えている間にあっという間にホットケーキは焼き上がりあとはフルーツとホイップを乗せるだけだな…
「ふむ、案外簡単だな」
「す、すごい!めちゃめちゃ綺麗に焼きあがってる!コウさんってやっぱり料理できるんだ」
「……お前俺をなんだと思ってるんだ」
「い、いやこれは尊敬で!!」
「ふんっ、わかっている。ほら好きに飾り付けして好きに食え」
「えっ、コウくんいらないの?」
「俺は甘いものが苦手だからな」
「そうなんだ、こんなに美味しそうなのにもったいないな〜♪」
「え?甘いもの苦手なのになんでこれを……?」
「……さぁな、自分で考えろ」
本人には決してお前のためだとは言わんが、そのうち気付くだろう。
あいつも鈍感ではない。
ただ本当にこんなことでユキナリが正常に戻るとも思わんがな。
……他に策がない以上はこれを続けるしかない。
全く、厄介なことに巻き込まれたな。
俺はキッチンを抜けてリビングのソファに座りながら、先程俺が作ったホットケーキを食べるリンタロウとユキナリを見つめる。
嬉しそうに頬張るユキナリを見て少しだけ、たまにはこういうのもいいかもしれんな、と思ってしまった自分にほんの少し驚いた。