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敬愛する友達と祖国の生誕記念。
いつも大変お世話になっております。
拙作ではありますが、何卒ご査収ください。
そして祖国様、当日お祝いできそうにないので期日前祝賀させていただきます。
※今回長い話となっておりますので、お時間のある時にお読みください。
朝、まだ人気の少ないオフィスの廊下を歩く。
仕事日和の朝だな、なんてぼうっと考えて聞こえてくる駆け足の音。
すると、背後から大きな温もりが僕を包む。
「Morning, sunshine」
そして、流れるように右頬に触れるキス。
振り向く前に視線が覚えた角度を向く。
「おはようございます、アメリカさん」
ばっちり目が合った彼、アメリカさんは満面の笑みを浮かべていた。
「ん、なんか眠そうだな。無理してないか?」
体ごと振り向かされて、両手で頬を掬われたと思うと、親指が下瞼を撫でる。
優しい触れ方が擽ったくて、思わず笑い声が漏れてしまった。
「お気遣いありがとうございます。ちゃんと寝たはずなんですが…アメリカさんはすごく元気そうですね」
「朝一番に好きな奴の顔見れたんだ。そりゃ元気出るってもんだろ」
一瞬、言葉に詰まったけど、深くは考えなかった。
アメリカさんって感情表現がストレートだよな。友達にも。
「ふふ。僕もアメリカさんの姿を見て元気になれた気がします」
そう返すと、なぜか彼の手が止まる。
でもすぐに笑って、何事もなかったみたいに頭を撫でた。
「なら良かったぜ。眠れないなら俺を呼べよ。いつでもWelcomeだ」
Bye〜と手を振って、上機嫌に歩く背に手を振り返す。
…友情表現って、文化でこんなに温度が違うんだな。
抱きしめられた腕の感触と、頬に残る温もりを思い出しながら、僕はそんなことを考えていた。
…さ、僕も仕事場に行かなきゃ。
業務前のルーティンである目覚めの一杯。
給湯室でコーヒーを入れていると、入口から漂う上品な甘い香り。
彼…フランスさんとここで会うのもルーティンと化した出来事だ。
「Salut, mon chérie.今日も美しい笑顔だね」
そっと抱き寄せられ、振り向いた瞬間、頬に柔らかい感触。
「ちょ、ちょっと……!」
「挨拶だって」
今度は僕の手を取って、甲に軽く口付ける。
正直、いつまで経っても慣れない。
でも、フランスさんはいつもこうだ。
「……心臓に悪い」
「そうは言うけど、嫌じゃないだろう?」
「それは……まあ……」
嫌ではない。
ただ…僕の文化では、友達と交わすには恥ずかしすぎる。
無意識にむすくれていたのか、フランスさんが笑って小包を差し出した。
「ごめんって。ほら、これあげるから機嫌直してよ」
「…フィナンシェだ!ありがとうございます!」
「日本はほんとに僕のお菓子好きだねぇ」
「はい!フランスさんのお菓子は美しくて美味しくて、とっても元気が出るんです!」
はしゃぐ僕に、「そうかい」と小さく呟かれる相槌。
…もしかして、お菓子にしか目がない卑しいやつだと思われてるかも。
「あっ、も、勿論フランスさんのことも好きですよ!」
「…わかってるよ」
彼は一瞬だけ、真剣な顔をした気がした。
けど、戻った笑みはどこかいつもより美しかった。
業務中、コピー機の前で待ちぼうけする僕に、声がかかる。
「日本さん。こちらへ」
落ち着いた優しい声の主は、イギリスさん。
言われるがまま向かうと、「失礼」と一歩狭まる距離。
そして、喉元にしなやかな指が触れた。
「ネクタイが曲がっていましたよ」
距離が近い。息がかかるくらい。
「え、あ……ありがとうございます。よく気づきましたね」
曲がっていたといえどほんの少し。
誰も、僕ですら気づかなかったのに…
その言葉に、ネクタイを直し終えた彼は首筋を撫で、美しく微笑んだ。
「愛らしい貴方から目が離せない。それだけの事です」
…僕がおっちょこちょいだと言いたいのだろうか。
甘い空気感もきっと気遣いの一種だ。
イギリスさん、時々お茶目な言い回しをするからなぁ。
「愛らしいだなんてそんな…でも、気にかけてくれて嬉しいです」
「…そうですか」
緩く細める緑玉に見蕩れる間、彼は懐から何かを取り出す。
触れられた胸元では、白銀に煌めく赤のバラがネクタイを固定し彩っていた。
「また曲がらないよう、ずっとつけていてくださいね」
では、と自然に踵を返し遠ざかっていく彼。
足取りの軽い上機嫌な背が、朝見た姿になんだか似ていて…
さすが親子だな、なんて一人で笑ってしまった。
時間は進んで、昼休み。
時報と同時に、イタリアさんの駆け足が響く。
「日本〜!今日も一緒にランチ行こ!」
勢いそのままに、彼は僕の腕に自然に絡みつき、ピトッと寄り添った。
まるで活発で人懐っこい大型犬だ。
「いいですけど…いつも僕とで飽きませんか?」
「飽きないよ。日本と食べると、なんでも美味しくなるんだから」
「ほら行こ!席、二人で静かに食べれるとこ選んであるんだ」
離れることなく、僕の体は彼に導かれていく。
ちょっと強引だけど、それすらも可愛いと思えてしまった。
向かったのは彼のお気に入りのレストラン。
窓際の二人席に案内されて、ランチには少々贅沢な食卓を二人で満喫する。
美味しそうに食べ、楽しそうに料理の話をするイタリアさんを見ていると、自然と笑みが浮かんでいた。
「ん、何かいい事あった?」
「はい。…イタリアさんといると元気をもらえるなって」
たまにはと思って、正直なことを言ってみる。
すると、イタリアさんは身を乗り出して、テーブル越しに抱きしめてきた。
皿が片付けられたあとでほんとに良かった…
「ioもね、日本といると楽しいんだ!どんな時でも大好きな時間になるくらい!」
大げさなくらい喜ばれて、少しビックリした。
…そんなに嬉しかったのかな。
まあ悪い気はしないしいいか。
そう思って「そろそろ帰りましょうか」と、きつく抱きつく彼の背を叩いた。
眩しい日に照らされる午後。
資料室でつま先立ちし、必死に腕を伸ばす僕。
書類を棚に戻し…たいのだが、届かない。
あとちょっと伸ばせばいけそうな気がするのに…
その時、震えの限界が来た体が突如力を失う。
「わっ……!」
けれど、傾いた背は床を打つことなく、何者かに抱き支えられていた。
「怪我は無いか」
聞きなれた低い声。ドイツさんだ。
触れる腕は思いの外がっしりしていて、委ねたくなる安心感がある。
「あ、ありがとうございます」
「無理をするな。お前一人だけの体じゃないんだぞ」
ゆっくりと僕を立たせ、本を戻した彼が溜め息を吐く。
抜けた戦力を埋める周りの事も考えろ…ってことだよな。
なんだか誤解されそうな言い方だけど。
「すいません…」
「謝らなくていい。ただ…俺を頼ることを遠慮しないでほしい」
いつものトーンなのに、切実な願いのように聞こえる声。
僕を見つめる瞳も、諭される言葉も。
優しさが伝わって、胸がじんわりと温かくなる。
「…やっぱり、ドイツさんといると安心します」
そう言うと、彼は一拍置いて、深く頷いた。
「そうだろ。だから…俺の傍にずっと居てくれ」
大きな手がそっと僕の肩を抱く。
しばらく、僕はそこから動けなかった。
戦友に、親友に、肩を並べてほしいと言われて…喜びを隠しきれなかったのだ。
ようやく仕事が終わって、帰り時。玄関口でロシアさんに呼び止められた。
「夜道は危険だ。家まで送る」
返事を待たず、自然に僕の手を握る。
しかも、指を絡めて。
「え、そんな…大丈夫ですって」
「……俺と一緒は嫌か?」
下がる眉としょげたような声。
罪悪感を煽る雰囲気に、拒否の選択肢はいとも簡単に消え去ってしまう。
「…ぃ、いえ!そんなことはっ!」
「ならいいだろ。寒くなるまえに帰るぞ」
手を離すことなく歩き出した彼の横顔が、少しだけ赤らんだように見えた。
静かな道。
大きな手の温もりは寒い夜には心地いい。
通りを抜ける風と僕らだけが足跡を残す中、「日本」と低い声が視線を攫う。
「……俺は、お前を愛している」
真っ直ぐな瞳で向けられたそれは、あまりに唐突すぎて、重すぎる言葉。
猛吹雪に凍らされたかのように一瞬、ピシリと固まって動けなかった。
「……あ、ありがとうございます。
ロシアさんも、そんなこと言うんですね」
「言ってなかったと思ってな」
同時に、繋いだ手を引かれ、彼の胸に飛び込む形で抱きしめられる。
ふわふわの上着と、隆々とした筋肉に包まれた空間は暖かいのに、脳はまた寒波に麻痺してしまう。
「これも、してなかった」
そんな僕のことも知らず、頭上から降る声はどことなく楽しそうだ。
これは…親愛のハグ、ってやつか。
さすがに恋人繋ぎしながらやる人は滅多にいないと思うけど…
ロシアさんはまだ若いし、人付き合い苦手だから、一般的な友情表現ってのを知らないのかもしれない。
…いや。もしかして、ジョークで場を和ませようとしてくれたのか?
いくら友達が少ないとはいえ、ここまでズレたことはしないはず。
なら…僕も乗ってあげないと。
正直、こんなノリは乗り慣れていない。
ラテンの挨拶を毎日受けてもなれないのだから。
でも…少し照れながら、頑張っていつもの調子で返した。
「……僕も、愛してますよ」
その言葉を口にした瞬間、
ロシアさんの手に、少し熱と力がこもる。
「……そうか」
短い答えは粉雪のように柔らかく優しい響きを持ってる気がした。
こんな日々を過ごしていくこと数十日。
毎日浴びせられるスキンシップと甘い言葉は、文化だと理解していても、やっぱりどこか落ち着かない。
何度、勘違いしそうになったか……正直、自分でも分からない。
それでも、僕らは友達だ。
あれらはすべて、友達としての親愛表現。
そう言い聞かせて、そう信じて、平穏な日常を保ってきた。
……今日までは。
「Japan〜!」
「日本」
アメリカさんとロシアさん。
同時に伸びてきた二つの腕が、空中でぶつかる。
呼びかける声は、友達に向けるにはあまりにも甘ったるくて…
気づいた時には、場の空気が一気に冷え切っていた。
「……なんだその気色悪い声は。恋人にでもなったつもりか?」
ロシアさんの低い声に、アメリカさんが肩をすくめる。
「そりゃこっちのセリフだぜ」
二人の間に挟まれた僕は、思わず瞬きを繰り返した。
「ちょ、ちょっと待ってください。お二人とも落ち着いて…」
けれど、言葉は最後まで届かなかった。
アメリカさんが、呆れたように笑う。
「落ち着くも何も、Japanは“俺の”恋人だろ?
邪魔すんなよ、ロシア」
……今、なんて?
ロシアさんが、静かに目を細める。
「ジョークの国のくせに、笑えねぇ冗談言うな。
……日本は“俺の”恋人だ」
恋人?
誰が、誰の?
頭が追いつかないまま、二人の間に漂う殺気だけが肌を刺す。
そこへ、割り込むように響いたテノールボイス。
「待ちなよ!
日本が一番、心を許してるのは僕だろ?」
フランスさんだ。
その隣で、イギリスさんが額に手を当ててため息をつく。
「勘違いも甚だしい。
日本さんが選ぶのは、常識的に考えて私でしょう」
一方で、ドイツさんはいつの間にか僕の前に立ち、庇うように仁王立ちしているし、
イタリアさんは僕の袖を掴んで、今にも泣きそうな顔だ。
「ねえ日本、違うよね?日本はioのこと、好きって言ったもんね!?」
「静かにしろ。醜い争いに、俺のパートナーを巻き込むな」
理解のスピードより速くぶつかる皆の主張。
頭の中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。
「ま、待ってください!」
思わず声を張り上げる。
「恋人って……僕たち、“友達”ですよね!?」
その瞬間、全員の視線が一斉に僕へ向けられた。
空気が凍りつく。
まるで、時間そのものが止まったみたいに。
「……友達?」
「あれが……?」
心臓が嫌な音を立てる。
もしかして…あれは…
「だって……恋人って、好きですって告白してから、なるものじゃないですか」
必死に言葉を探しながら、続ける。
「でも皆さん、僕に……告白、してないでしょう?」
誰も、すぐには答えなかった。
「告白……?」
重なった六つの低い呟きに、僕は慌ててスマホを取り出す。
適当に開いた恋愛漫画。
その告白シーンのページを差し出した。
「ほら……こんな感じで……」
画面を覗き込むにつれ、皆の表情が微妙に変わっていく。
「なるほど……」
「つまり、日本では口頭契約が必要というわけだな」
「察する文化なのに、そこは言葉にしなきゃいけないんだね……」
ドイツさんの納得した頷き。
フランスさんの、重たい溜息。
場に、妙に暗い沈黙が落ちる。
ああ。これは、まずい。
そう思った瞬間だった。
「……じゃあ」
ロシアさんが、口を開く。
「今、告白すれば……恋人になれるってことか?」
たった一言が、張り詰めた空気を裂いた。
「こ、告白して……僕が了承すれば、ですけど……」
自分の声が、やけに小さく聞こえる。
「なら、話は早いな」
ロシアさんは迷いなく距離を詰め、
僕の手を、大きな両手で包み込む。
予感した時には既に、逃げ道はなかった。
紫の輝きが僕を捉え、重々しく口が開かれる。
「こんな俺にも平等に与えられるお前の優しさを、好意だと思った。
世界はいつも俺を疑ってきたが、日本だけは、俺を“敵でも怪物でもないもの”として見てたから」
「太陽みたいに温かいその優しさに、心に積もった雪が溶かされて…ずっと浸っていたくなった」
雪の中みたいに暖かくて、静かで、柔らかな彼の言葉と声。
ノイズの無いまっすぐな熱がじんわりと身体を侵食していく。
「俺は、日本を愛している。守りたい。隣に立ちたい。だから…俺の恋人になってくれ」
「返事はいつでもいい。ずっと待ってる。
俺の気持ちは永遠に変わらないし…手放すつもりもない」
一瞬強くなった手の力。
“逃げるなよ”と忠告するかのような重みを与えて、静かに離れていく。
直後、硬い低音が僕を呼ぶ。
振り返ると、一歩先にドイツさんが待っていた。
「文化の違いを考慮していなかった。この点は、お前への理解が足りなかった俺のミスだ。すまなかった」
淡々とした口調はいつも通りなのに、いつもより感情が透けて見える。
視線越しに、橙の輝きに灯る熱を移されたせいだろうか。
「改めて、言わせてもらう。お前は俺の人生に必要な存在だ」
「信頼し合い、苦楽を分かち、互いの安心の場であれる。俺はお前とそういう関係であり続けるために努めている」
「親友、戦友としてだけじゃない。”愛する者”としても、共に歩んでいきたい」
ゆっくりと差し出された手。
何度も助けられたそれに、無意識に腕を伸ばしそうになる。
「俺はお前を選び続ける覚悟を決めている。だから…日本も俺を選んではくれないか」
誠実な宣誓には、”生涯の契約”の確かな重みがあった。
手を取るべきか、手を彷徨わせる僕へ一歩近づくイギリスさん。
その視線が、まっすぐ僕に落ちる。
「貴方のことはよく知っていると自負していましたが…まだ仲を深める余地がありましたね」
ふと、彼の指先が伸びる。
僕の胸元――ずっと付けたままの赤いバラのタイピンに、ほんの一瞬だけ触れた。
撫でるでもなく、確かめるような静かな所作。
「日本さん。貴方は私にとって、日々の中心にある人です。
気づけば視線の先にいて、未来を思うと、そこにも貴方がいる」
「友情だと呼ぶには、私は欲深くなりすぎた。手放す想像が、どうしても出来ないのです」
指はもう離れているのに、金属に残る熱が胸に根を下ろす。
揺れる視界の中で、彼は僕の右手を掬いあげた。
「私は貴方を愛しています。だからこそ、選ばれたい。
ですが、選ばれなかったとしても、想いを畳む約束はできません」
「それでもよろしければ…私を、貴方の恋人として迎えてください」
手の甲に一つ、刻まれる熱。
麗しい笑みを浮かべ離れる影の代わりに、フランスさんが胸に手を当てて一歩前へ。
まるで舞台の幕が上がるみたいに、空気の色が変わった。
「日本。君と話すたび、触れるたび、
君は色んな表情を見せて、僕を受け入れてくれたよね」
指先が、僕の頬のすぐ横をかすめる。
まるで思い出をなぞるようで、触れていないのに、そこだけがやけに熱い。
「僕はそれが嬉しくて…
君のそばにいる時間が、たまらなく幸せだった」
いつもの軽やかな調子じゃない。
冗談を混ぜない、まっすぐなフランスさん。
「それにね、僕は“美しいものを愛する国”だ。
……君に恋をしたのは、必然なんだよ」
「日本。僕は君を愛している。
どうか、僕の恋人になってくれないか」
そっと両手を取られる。
逃げ道なんて最初からないみたいに。
「君との日常を、僕の“最高傑作”にさせてほしい」
瞳に宿る炎が、嘘偽りない本心だと切実に伝えていた。
止まらない愛の波に、逃避を本気で考え出した頃。
袖を掴む控えめな力。
その手の主、イタリアさんはいつもの軽い足取りじゃなくて、
両手をぎゅっと胸の前で握ったまま立っていた。
「…僕にとってね、日本の隣はとってもあたたかいんだ。
そこに居るだけで毎日、全部が楽しくなる」
「…ねえ、覚えてる?あの日、“一緒にいると元気をもらえる”って言ってくれたよね。あの時僕、すっごく嬉しかった。」
「僕と同じ気持ちなんだって。だから、僕たちもう恋人みたいだなぁって…ずっと、思ってた」
刹那、彼の笑顔の奥が静かに深くなる。
「……なのに、今更他のやつに取られるなんて、絶対やだ。
日本の”特別”は僕だけでいい」
戻った笑みは無邪気なはずなのに、仄かに暗い。
「日本、大好きだよ。
友達じゃ、もう足りないくらい」
「僕の恋人になって。
明日も、あさっても、その先も。
ずっと君の隣、予約させて」
甘えるようで逃げ道を塞ぐような、甘い声だった。
緑と赤の瞳から逃れられずにいると、突然強い力に引き寄せられる。
気づけば、僕はアメリカさんの腕に抱かれていた。
やけに静かなのが、何故か…怖い。
「俺に触れられて、あれだけ無防備に笑っておいて、”友達”止まり…鈍いのもいい加減にしろ」
責めるように鋭い視線。
だけど、声の僅かな震えはきっと、怒りじゃない。
「日本。俺はな、お前が笑うだけで、俺の世界全てが照らされる。何よりも守りたいって思っちまう」
「だからさ……正直、もう“盟友”って枠じゃ足りねえんだよ」
「日本は優しいから、他の奴にも同じ顔するけど……同じじゃ、全然足りない」
「俺は特別が欲しい。
お前の一番近くで、触れていいのは俺だけだって、堂々と言いたい」
一息吐いて、浮かべた笑顔。
それがぎこちなく見えたのは、本当に、気のせいなのだろうか。
「日本。愛してる。
俺の腕の中にずっと居てくれ。……頼むから、俺以外を選ぶなよ」
苦しいほどの腕の力は、トーンの落ちた声よりもずっと、切実だった。
……どうして、こんなことに。
みんなの言葉が頭の中でぐるぐる回る。
愛してる、選んでほしい、隣にいたい
どれも真剣で、嘘の色がひとつもなかった。
僕は、ただ仲良くしていたかっただけなのに。
触れられても拒まなかったのは、
そういう文化だと信じていたからで。
笑っていたのは、本当に楽しかったからで。
それが、全部“恋人の証拠”だなんて。
……僕、もしかしてとんでもない悪女ムーブしてた……?
八方美人どころか、全方向に罪深い。
文化の違いを知らなかったといえ、無自覚でこれは刺殺されても言い訳できない。
フランスさんのキスも、
イタリアさんのハグも、
アメリカさんのあの温もりも、
ドイツさんの信頼も、
イギリスさんの静かな熱も、
ロシアさんの真っ直ぐな言葉も
全部、ただの“友情”だと思いこんでいた僕は、
どれだけ鈍かったんだ。
知らなかったで済む話じゃないよな…?
これ、歴史に残るレベルのやらかしでは?
でも、だからって…いきなり恋人を選べだなんて。無理だ。
心の準備も、文化の互換性も、
何ひとつインストールされていないのに。
それでも、皆の目は真剣で。
逃げたら傷つける。
選んでも誰かを傷つける。
どうするのが正解なんだろう。
視線が、想いが、重い。
世界の重圧が全部、僕の肩に乗ってるみたいで……
だめだ、処理が、追いつかない
まずは謝ろう。
頭を下げようとしたところで、視界がふっと暗くなる。
それが逃げだと分かっていても、
僕の心は、それを選ぶしかなかった。
柔らかい温もりに包まれて、休眠を解く意識。
薄ら開いた視界には、見慣れた天井と…父さん。
その紅い瞳と目が合って、安心したような息が聞こえた。
「顔色は戻ったな。まったく、心労などという軟弱な理由で倒れおって」
「ドイツくんがお前を運んできた時、俺がどれだけ心配したか…」
長引きそうな説教が、まだ重い頭に響く。
「軟弱じゃないですよ…大戦級の出来事でしたし…」
「…どういうことだ」
事情を説明すると、父さんはこめかみを押さえ、それはもう大きな溜息を吐いた。
列強六ヶ国からの告白大会。
さすがの父さんも言葉を失ったらしい。
「なんというか……日本らしいな」
「……ひとまず、胃に優しいものを作ってくる。お前は大人しく寝ていろ」
同情からか、静かにドアが閉まる。
部屋に静寂が戻った、その数分後。
多すぎる足音が近づいて、ドアが開く。
「日本〜生きてるか〜?」
「まだくたばってないな。安心した」
「お見舞いのお菓子持ってきたよ」
「静養に良いハーブティーを持ってきた」
「寂しくないように話し相手になりに来た!」
「……顔だけ見に来た」
ケラケラ笑う韓国さんと中国さん。
心配そうに見つめる台湾くんとフィンランドさん。
相変わらず元気なスウェーデンさんと、そっぽを向く北朝鮮さん。
…なぜか一気に人口密度が跳ね上がった。
「倒れたって聞いたから心配したよ」
台湾くんがそっとベッドに腰掛けて、僕を包み込む。
そのあまりにも優しい眼差しに、こんなことで心配させた申し訳なさが募る。
「…ご迷惑をおかけしてすみません」
「あ、ごめん!謝ってほしいわけじゃなくて…その…」
言いにくそうにソワソワしているのは、聞いていいのかを迷ってるのだろう。
そういう所、優しくて好きだな。
その時、フィンランドさんが子供に語りかけるように、僕の前でしゃがみ込んだ。
「ねえ、なんで倒れたか教えてくれないかな?また仕事押し付けられた?」
直球な問いかけだが、声音はとても優しい。
「最近は残業してないし、それはない」
僕より先に、北朝鮮さんが答える。
なんで彼は僕の残業事情を知ってるんだろうか。デスク離れてるのに。
「え、と…それは…」
目の前からも、その後ろからも、真剣な眼差しが僕に一点集中する。
まるで、「話せ」と圧をかけられているみたいで…つい、彼らに話してしまった。
今日起きた”勘違い騒動”を。
「…なるほど」
妙に納得した空気。
ニヤリと細められた目に、嫌な予感が背筋を走る。
「じゃあ今から言えば参戦できるってことだよね?」
デジャブを感じる韓国さんのセリフ。
便乗するように、スウェーデンさんと中国さんがニヤリと笑う。
「理論的には正しいね」
「順番は早い者勝ちだろ」
「待ってください理解が早すぎます!」
しかし制止は遅かった。
韓国さんがそっと、僕の手を取る。
瞬間、軽かった雰囲気が一気に熱く、重くなるのを感じた。
「日本は合わない相手といると、静かに削れてくタイプだろ。
逆に、噛み合う相手の隣だと驚くくらい素で笑う。
その違い、僕はずっと隣で見てきた」
「つまりさ、日本の長い人生のパートナーに相応しいのは、文化も感覚も、好みまで近い人。ここまでいえばもう分かるよな?」
上がる口角、緩く細まる瞳。
見たこともない甘い表情に、胸が跳ねる。
「愛してるよ、日本。
一番楽で、自然で、日本らしくいられる相手は……僕しかいないだろ」
確信めいた言葉が静かに僕の背を封じていた。
体感数分後、チッと小さく聞こえた舌打ち。
同時に、中国さんが僕の腕を強引に引き寄せ、抱え込むみたいに胸に閉じ込めた。
「あの小僧に好き放題言わせて。我の目の前で、日本に“決まってる”なんて言い切るとはいい度胸だな」
「…だが、韓国の理屈に倣うなら話は簡単だ。一番最初にお前の隣にいたのは、誰だと思ってる」
「言葉も、飯も、暮らしも、
我と分け合って覚えたものは数知れない。それほどに、お前の根には我がいる」
するりと頬を撫でる、しなやかで大きな手。
安心感とほんの少しの閉鎖感が同時に胸に渦巻く。
「我爱你、日本。我の腕の中がお前の居場所で、お前は最後には必ず我の所に戻ってくる。
我らはそういう縁で出来てるんだから」
耳元で小さく響く愉悦の声。
しかし、腕の隙間から、台湾くんの手が僕をそっと引き寄せる。
守るみたいに、でも触れ方はどこまでもやさしい。
「日本…ごめんね、取り合いみたいにして。でも、僕も黙っていられない。
だって、日本がいなくなったら…僕、自分が分からなくなる」
「日本と笑う時の僕が、一番僕らしいんだ。
互いを尊重して、苦楽を共有して…そんな関係があるから、僕は“台湾”でいられる。だからこれは単なるお願いじゃない」
「好きだよ、日本。
これからもずっと、日本の隣で生きる”僕”でいさせてほしい」
言い終わって、目元に落ちる影。
いつも明るい彼の、必死で切ない姿がぎゅっと胸を締め付ける。
しかし、シリアスな空気感は、笑顔でハグをしてきたスウェーデンさんによって一変した。
「ねぇ日本。僕はね、君と過ごす時間がなりよりも好きなんだ。
好きなことを語るキラキラした顔も、
熱烈なスキンシップに眉を寄せる横顔も、ふっと油断して笑う瞬間も。
かわいくて、愛おしくて、目が離せなくなる」
「気づいたら考えてた。
明日も、その先も、君の一番近くにいるのが僕だったらいいのにって」
「…恋人になろう、日本。
君の色んな表情を、誰より近くで愛したい。僕の隣で安心して笑ってほしい。
その“かわいい”を、全部、僕にちょうだい」
終始にこやかな表情の中に潜む、得体のしれないナニカ。
触れ方も、声も、視線も。全部が優しくて柔らかいのに…ほんのり冷気が肌を撫でる。
その正体を探ろうとする間に、いつの間にか目の前に立つ大きな影。
フィンランドさんは、雪の気配みたいに静かな声で言った。
触れていないのに、空気だけがひんやりと重い。
「俺の心は、ずっと凍っていた。
人に期待もしないし、熱も持たない。
それが普通だった」
「でも日本といると、あたたかくて……
氷が少しずつ溶けていくのが分かった」
「もう、元には戻らない。
君の温もりを知った俺は、前の俺にはなれない。……もしそれが無くなったら、
俺は何になる?」
「日本。俺の未来には、君しかいないんだ。俺の全部を君にあげる。だから…これからも俺を、君の熱で溶かし続けてくれ」
凍結されたかのように動かない身体。
なのに胸の中は燃えるように熱くて、おかしい。
その時、突然、遠慮のない力が腕を引き寄せる。
驚きに瞑った目を開くと、僕を射抜くように見つめる北朝鮮さんがいた。
「……こういうの、慣れてないんだがな」
小さく息を吐いて、低い音が、言葉を紡ぐ。
「お前は、”悪役”の俺にも平等に接する。そのことに俺がどれだけ救われたか…知らないだろ」
「俺の世界はうるさくて、冷たくて、敵ばかりだが…日本の隣だけは静かで、あたたかくて、安心する」
「だから、取られたくない。誰にも渡したくない。
取られるくらいなら、力づくで奪って閉じ込めたい」
「日本。俺の隣にいろ。ずっとだ。
俺は…お前がいない世界なんて選ばない」
音の余韻も消え、熱い無音に焦がされていく脳。
優しい声も、静かな熱も、
それぞれの国の色を帯びた“本気”が次々と降りかかる。
ついさっき一度処理したはずの感情が、
倍速でリロードされていく。
無理無理!!再起動中なんだってば…!!
視界がまた、遠くなる。
「あの、僕、まだ心の余裕が……」
その瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「貴様らァァァ!!!
我が息子の部屋で何をしている!!!」
怒号が壁を震わせる。
誰かの「誤解だ!!」と弁明する声。
歪んだ脳で、騒音と衝撃が混線して…
ああ。もう、だめだ
二度目の暗転は、一度目よりずっと静かに訪れた。
※一応補足
日本では告白文化があるので告白してOKされたら恋人になる認識。
しかし、告白文化の無い国(アメリカやロシア、ヨーロッパなどの欧米国が主な例)では仲良くしていくうちに自分たちは恋人だと思うようになるため、本当に自分たちが恋人なのかは相手に聞いてみないと分からないらしい。
なので自分は友達だと思っているが相手は恋人だと思っていたケースがあるのではないかというお話でした。
まあ好きな相手にはアプローチするので大体の雰囲気で好意があるかは分かるらしいです。日本くんみたいな超鈍感でなければ…
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すっごく楽しみにしてたので、時間がある時に見ようとしたらこんな時間になってしまいました…💦 やっと感想が言える!!!多分長くなるよ!!! 誕生日祝ってくれてありがとね🫶💞 こんな手のかかったものを用意してくれたなんて嬉しい🥹私はイラストだけだったからちょっと申し訳ない… 各国達の性格が日本へのアピールの仕方とか告白に如実に現れてて尊すぎたし解釈一致だった…
まじで好きだぁぁ〜!!疲れた身体に染み渡るぜ、、!!!!!!!毎日これ読んでから寝ようかな、カプの夢見れて安眠しそう。みんなの性格がスキンシップにも告白にも含まれてて可愛いがすきるゾ、、 琥珀たんの良いところが全面的にでてるかなり美味しい作品でした。ごっつぁんです。
コメント失礼します🙇♀ 執筆お疲れ様でした!! 日本総受けに相応しいメンツの多さと、豊富な語彙で読み応えがあってとても満足しました✨ ネタバレ防止のためにあまり語らないでおきますが、個々の性格が出てて萌えました♡